第33話 奴としてはあんまり
………………
黒い奴はその体の真ん中に大きな裂け目を作っていた。
それどころか、その裂け目から奴の体は今にも2つに分かれそうだった。
(…………)
奴のそんな有様を見ていた俺は……
(すんげぇ……音)
奴の事よりも壁にその長さの3分の1以上が突き刺さったフォークに目が行っていた。
(…………これじゃあ……どの程度瞬発力があったのか、分からんなぁ……)
俺は壁にめり込んでしまったフォークを見ながら、能力の瞬発力に関して考えていた。
(正直、奴の討伐が主目的で、瞬発力検証はそのついでというか、どのくらい威力が出るのかをなんとなく知りたくてやったんだけど……これじゃあ、逆に分からん)
俺はフォークがどのくらいの速度で飛び、どの程度の威力でもって奴と壁に当たるのかを、感覚的に調べようとした。
しかし、その結果は……
まず、あまりにも早すぎて速度は捉えられず。
次に、当たるときの威力に関してはある程度分かったが、木製のフォークが同じ木材の壁に、その長さの三分の一が突き刺さる程の威力とは、これ如何に……
(俺は物理法則やその計算に関しては詳しくない……というか全然知らないから、分かりようが無いな……)
俺は瞬発力……ひいては最大出力を調べることができそうな手がかりを見つけるが、自分の無知に調査を断念する。
(分からないなら仕方ない……調査するなら現場保存は大事だろうが、奴をどうにかしないといけないから、今の状況だけ覚えて、フォークを抜いてしまおう)
俺は壁に突き刺さったフォークを抜くことにした。
(せーの……ほっ!)
グッ……ギュギュッ……ギギギュギッ…………
俺は能力を使ってフォークを壁から抜こうとしたが、詰まっているのか、変な音を立てながら微動しているのみであった。
(むむむっ)
ギュギュギュ…………
まだ、壁の中で詰まる。
ギュ…………………………
そして……
…………ッ…………バザザッ!
フォークが急激に動き始める、壁の間で奇天烈な音を立てながら。
ザァァァァ…………フォッ
(おっ、おおぅ……抜けた)
なんとも気の抜けるような音を出すと同時に、フォークが抜けた。
フィンッ
俺は抜けたフォークを、直ぐに自分の目の前へと持ってきた。
そして、それを見た。
(…………なんとも、まぁ……)
俺が目に捉えたフォークは、食事を刺して口へと運べるような作りになっていた発射前の形は見る影もなく、今目の前にあるフォークはそれぞれの先端が自由気ままに様々な方向へと曲がり、持ち手から先端部分に掛けて湾曲している部分も、刺さった時の衝撃で180度回転させられていた。
食事に刺す部分は今や、持ち手の方を向いていた。
(ありゃりゃ……とんでもない威力だったな……)
俺は惨めな姿へと変貌したフォークを見て、とんでもない威力であることは理解した。
カサッ
(!!!)
先ほどまでフォークが刺さっていた場所から不気味な音が聞こえ、すぐさま俺はそちらに目を向けた。
…………………………
(………………死んでるか?)
音の正体はもちろん黒い奴であると考え、目を向けた俺は奴の状態を確認した。
…………………………
(翅、か…………)
やはり、奴は既に息絶えており、そんな奴から音が発せられたのは奴が収納していた翅が飛び出てきた音だったらしい。
(ふぅ…………さすがに死んでるだろ……)
俺は音の正体が奴の生存を示唆するものではなかったことに安堵していた。
(よし、後処理と行くか……)
俺は奴の生死を遠巻きに確認すると、この事態に対する後処理を開始した。
(まずは……奴だな…………)
俺はフォークに突き刺された衝撃によって体を貫かれるどころか壁に若干めり込んでしまっている、黒い奴の後処理をすることにした。
(…………できるか?)
俺は何かに期待しながら、能力を発動した。
カササッ……
俺の意思に答えて、能力が発動された。
その対象は……
黒い奴であった。
(ふぅん…………なるほど)
俺はその様子を見て、期待を一種の喜びに変換した。
そして、俺はその喜びをそのままに、後処理の段階を進める。
(やっぱキモイな……はやく、捨てよ)
俺は奴独特の気持ち悪さを死後の奴からも感じ取っていた。
カサッ……ビチッビチャ、ヂャヂャッ…………ジュジッ……
俺が能力によって浮かせていた奴から、あまりの気持ちの良いとは言えない音が聞こえてきた。
それは、奴の体が能力に動かされて変形させられている音であった。
(…………まあ、こんなもんで良いだろう)
俺はある程度奴の体を変形させると、納得の気持ちを表した。
(さて、次は……)
俺は奴から視線を外し、次に自分の目の前に浮かせているフォークへと目を向けた。
(んん……どうするかな…………)
俺はフォークを見ながら若干の思考の波に揺れる。
(…………んん…………まあ、それでいいか)
直ぐに思考の波が収まり、俺は次の行動へと移った。
(……よっ)
俺が能力を発動させると……
ピチュ……チュチュ……
フォークの先端や先端に近い部分に多く付いていた黒い奴の体液がフォークと分離していく。
……チュンッ
そして、フォークに付いていた全ての奴の体液が取れた。
そんな奴の体液は空中で球状となって浮いていた。
そしてそれを……
(むむむっ)
体液が元々あった場所である奴の体内へと、俺は戻す様に入れていった。
…………………………
戻す間、特に音がすることは無かった。
(…………よし、おっけ)
そして、俺の能力によって体液は完全に元居た体内へと入りきった。
(それじゃ……)
俺が奴の体へと体液を戻すと……
スゥゥゥゥ…………
奴の体が徐々に俺の前から離れていき……最後には壁際にまでたどり着いた。
(それじゃあ…………ぽいっ)
俺は、この部屋に存在する、この部屋とこの家の外を繋いでいる壁の隙間へと奴を放り込み、外へと奴を捨てた。
(よし……じゃあ、最後に)
俺は奴を外へと投げ捨てた後、もう一度フォークへと目を向ける。
(むっ)
俺は目を向けたフォークに対して、能力を使うと……
バッ……バキキギッッ……ギギョバ……
先ほどまでバキバキになっていたフォークが、さらにその原型を壊す様にバキバキに形を破壊していった。
キキキッ…………
変形が止まると、フォークはフォークでは無かった。
その形は、木の枝のようになっていた。
(まあ、こんなもんか)
俺はフォークから枝になり果てたものを見て、とりあえずの納得をした。
そして……
ヒュンッ
元はフォーク、今は木の枝が壁際に動かされていた。
(ふぅ…………)
俺は、その片方の先端をこの部屋と外を繋ぐ壁の隙間へと向け、俺はある動作を反芻した。
………………ォォォフオオオオ
部屋の中の空気が動き始める。
ヒュゥゥゥゥ…………
空気の筒が形成される。
………………………………
木の枝が今にも鳴動しそうな程の気概を出し始める。
………………………………
(ふぅ…………)
そして……
(ッ!)
ブヒュンッッッ!!!!!
木の枝が先ほどまで静止していた空中から姿を消す。
それは木の枝がこの部屋から居なくなったことを示すのと同時に……
後処理が完了したことを意味した。
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