第31話 持久力検証
コッ……
部屋の天井から軽く小気味のいい音が響く。
トッ……
部屋の床から軽く小気味いい音が響く。
コットッコットッコットッコットッコットッ……
そして、その二つの音はかなり早いテンポで連続して聞こえてくる。
両者の音の正体を探ってみると……
コットッコットッコットッコットッコットッ……
どちらも同じ物によって起こされている音だった。
コットッコットッコットッコットッコットッ……
それはこの部屋の天井に一瞬当たると下降し、下降して床に一瞬当たると上昇して天井を目指す、そして天井に当たるとまた床を目指す……この部屋の天井と床の往復をしていた。
コットッコットッコットッコットッコットッ……
天井と床を往復する物の正体は、棚と椅子であった。
二つは、棚の上に椅子が載る形になっており、天井には椅子が、床には棚が当たることで往復運動をしていた。
コットッコットッコットッコットッコットッ……
(………………)
そんな棚と椅子の上下往復運動を俺は静かに見ていた。
コットッコッ……トッ……コッ…………トッ…………コッ………………トッ……………………
それまで相当な速度で上下運動をしていた棚と椅子が急激に速度を落とした。
(んっ、んんんっ…………んんんん)
それに対して、俺は力みを見せるが……
………………………………トンッ
「んっ、はあはあ」
(んっ、はあはあ)
最後、棚が床に当たった後、もう一度天井に向けて上昇しようとした。
だが、半分くらいまで上がったところで棚と椅子は止まり、その後は力を失うようにして床へと落ちた。
俺はそれを受けて、心身ともに息を切らしていた。
(はあはあ、んっはぁ…………ふぅ……千と753、っと)
俺は直ぐに整った息になりつつ、心の中で一つの数字を唱えた。
(1753回……相も変わらず、だな……)
その数字は、俺がさっきまで能力によって動かしていた棚と椅子の上下運動の往復回数であった。
俺が言語習得を始めてから、もう少しで1ヶ月が経とうとしていた。
俺はこの1ヶ月の間、言語習得を重要な課題として捉え、それに励んでいた。
迅速かどうかは比較対象がいないので分からないが、言語習得は順調に進んでいると思う。
そんな俺は、さきほどまで棚とその上に載せた椅子を持ち上げて、上下往復運動をさせていた。
もちろんこれは遊んでいた訳ではなく、能力の検証である。
俺は能力が使えるようになってから直ぐに、この部屋にある動かせる物全てを能力で動かした。
そして分かったことだが、俺にはこの部屋に動かせない物がほとんどない。
これすなわち、俺が能力によって動かせる最大重量が分からないということだ。
もちろん、これは何故か動かすことのできない俺を省いた上での話だ。
最大重量が分からない、ということが分かった俺はこの部屋ではそれを確かめる術が無いことも理解した。
しかし、俺は他の方法によって最大重量……つまり、この能力の最大出力を調べることを思いついた。
その一つが、持久力である。
この能力によって起こされている現象は明らかに超常現象にしか見えないが、実際に物体が持ち上げられていることから考えると、何のエネルギーも使わずに行われているとは考えられない。
そこには必ず何かしらのエネルギーがあるはずであり、この能力を使い続ける限り、そのエネルギーは底を突くはずである。
そして、能力の持久力を試す……つまりは、能力を使い続け発動できなくなる時を確認すれば、その時が能力の底が見える時であると分かる。
つまり、能力の持久力を確認することで最大出力も予測できるのではないかということだ。
筋力では、その人が6~8回持ち上げられる重量の二割増しの重量がその人が持ち上げることのできる最大重量であると聞いたことがある。
出自が一切不明なこの能力に筋力の例えを当てはめるのはおそらく正確ではないだろうが、なにも考えたり試したりしないことで分からないままにしておくよりは、当てずっぽうでも検証して考察したほうが良いだろうと俺は考えた。
なので、俺は能力の持久力を検証することにした。
そして、その具体的な方法とは、先ほどまでやっていた棚と椅子の上下運動の繰り返しである。
具体的には、棚の上に椅子を安定するように載せた後、棚にだけ能力を使い、棚と椅子を浮かせる。
そして、天井まで上昇させ、天井に軽く当てたら下降させて床に軽く当て、また上昇させて天井に当て……というのを繰り返すという方法だ。
この方法では、天井に当たって下降しもう一度天井に当たった時を一往復として数える。
ただし、最初の上昇だけは合計回数から省く。
そして実際にこれをやってみたところ、この能力の持久力の限界が存在したことが分かった。
それが、1753回という数だ。
しかし、それが分かったことには分かったのだが……
(多すぎて分からん)
そう……あまりにも持久力があり過ぎて、当初予測に用いようとしていた筋力の目安が使えなくなったのだ。
そのことで、逆に予想できたのは……
俺の能力は最大出力が相当高いだろう、ということだ。
もちろん、この持久力検証に利用した棚と椅子の合計重量は10キログラムにも満たないだろう。
それでも、もしこの回数が筋力なのであればかなり……というか極めて高い出力を出せることになる。
(まあ、筋力は瞬発的な筋力と持久的な筋力に分けられているから、1000オーバーの回数なんて完全に持久用の筋力になってしまうがな)
そして、俺はこの検証を今さっき初めてやった訳ではない。
これは能力を使えるようになってからすぐに検証したことなのだ。
しかし、俺はその後もこの検証を続けており、ついさっきもそれをやったばかりなのである。
俺が持久力の検証を続けているのは、最大出力を予測するという目的のためではなく、別の目的もこの検証にはあるからである。
それは……
持久力の成長調査である。
人が持っている筋力や心肺能力、運動に関する学習能力、知識に関する学習能力、それらは反復や訓練によって成長する。
であれば、俺が持つこの能力が成長しても不思議ではない。
その成長を確かめるために、持久力の検証は一度きりではなく、継続の検証にしたのだ。
そして、その検証が数か月経ってどうなったのか?
実は何も成長していない。
しかし、俺はこの事実に対して特に悲観することは無かった。
人間が持つ力には、かなり長期的な成長期間を必要とする力も存在する。
ならば、この能力も長期的な成長期間が必要なのかもしれないと考えた。
なので、持久力の検証に関しては継続することにした。
ガタタッ……ガタッ
(…………ふぅ)
俺はそれまで持久力検証に利用していた棚と椅子を元の位置へと戻した。
(さて、持久力検証が終わったことだし、次の……)
俺が持久力検証を終えた、その時……
(…………)
何かが視界に入ったことを俺の脳が理解した。
そして、俺の脳は俺の意識を強制的にそちらに向けさせた。
(…………)
俺は悪寒を抱えながらも、その脳の命令に逆らうことができなかった……
……否、確かめざるを得なかった。
ジワッ
俺の背中に汗が溢れたような気がした。
ウネッ……ウネネッ……
俺の視線の先には、黒い奴がいた。
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