表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/149

第29話 言語習得

(父親を指さすだけに済んで良かった……)




 俺は安堵(あんど)していた。


 今回、父親の名前を教えてもらうために、俺は父親に指をさすことで教えてもらった。


 だが、これよりも確実に伝わるだろうと考えていた方法があった。


 それは……


 自分に向けても指をさすことだ。


 父親に指をさした後、自分に向けても指をさしつつ、「Sui」と自分の名前を言う。


 その後、もう一度父親へと指をさす……これを繰り返せば、名前を教えて欲しいということが父親を指さすだけの方法よりも確実に伝わるだろう。


 しかし、俺はこれをしなかった。


 何故(なぜ)か?


 それは、自分に指をさすことで父親の名前を聞き出す方法が余りにも天才の域を逸脱(いつだつ)していると思ったからだ。


 俺が自分に指をさすことで自分と父親を比較するという方法で父親の名前を教えてもらうには、俺が最低でも二つのことをできなければならない。


 一つは「Sui」という単語が自分の名前であるということを完全に理解していることだ。


 赤子が自分の名前を覚えたとしても、赤子からすれば、両親がいつも言う言葉だから覚えただけなのではないだろうか?


 もし自分の名前が何かを意味する言葉であると分かったとしても、赤子は自分の名前が具体的に何を意味する言葉なのかまでは理解していないだろう。


 しかし、俺が自分を指さしながら自分の名前を言ってしまえば、「Sui」が自分の名前であることを俺が理解しているということになってしまう。


 如何(いか)に天才と呼ばれるような赤子でも、それは少々やりすぎな気がする。


(もしかしたらできる奴もいるんだろうけど、そいつはもう天才の域でも収められない)


 そして、もう一つは名前というものを理解した上で、自分以外も名前というものを持っていることを知っていることだ。


 名前というものを自分が持っていると分かったとしても、それを他人も持っていると知るには、自分以外も名前というものを持っていることを他人から教えてもらうしかないだろう。


(正直、他にも必要なことは山ほどあるんだよな……)


 この二つをクリアしたとしても、自分を指さすことで名前を教えてもらうには、他にも俺に必要な知識や知能が多すぎるくらい、自分と父親との比較による指さしは天才から逸脱(いつだつ)している。


 だから、父親にだけ指をさすことで、指さしているものは一体何?くらいの疑問を抱いていると父親に思われる必要があった。


「SWU」


「Swu」


 そして、父親に指さすだけで伝わったことに安堵した俺は、父親の名前を父親と言い合っていた。


「SWUSWU」


「SwuSwu」


(さて、一応は成功だが、問題はここからだ……)


 俺は父親との言い合いをしながら、これからの行き先を(あん)じていた。




「SwuSwuSwu」


「………………」


 先ほどまで名前の応酬(おうしゅう)をしていた俺と父親であったが、父親の方が何やら考え込み始めた。


(………………)


 俺は変化した父親の態度を静かに見守る。


 すると……


 スッ


 いつぞやのおもちゃの(まり)が俺の眼前(がんぜん)に現れた。


 それは父親が差し出してきたものであった。


(お……いけるか?)


 その様子を見た俺は内心を期待に染めながら……


 ビシッ


 既に父親へと向けることをやめていた人差し指を、今度は父親ではなく差し出された鞠へと向けた。


「!」


 俺の指さしを見た父親は驚きをその顔に一瞬出す。


(さあ……教えてくれ)


 俺は指さしを確固(かっこ)たる気持ちで継続した。


 そして父親が……




「MWU」




 一つの言葉を言った。


 それを聞いて、俺も……


「むwu、M……wu……Mu」


 その言葉を真似することにする。


「MWU……M、W、U……MWU」


 直ぐには正しい発音で言えない俺に、父親は自分の名前を教えてくれた時と同様に訂正しながら教えてくれた。


「M、wu……Mu……Mwu」


 そして、その指導を受けた俺は父親の名前の時よりも早く、正しい発音で言えるようになった。


「!」


「Mwu、Mwu、MwuMwuMwu」


 俺の正しい発音を聞いた父親は驚きを見せた。


 俺は発音がより正しくなるように、繰り返した。




(これは……うまくいったな)


 俺は父親から教えてもらった単語……おそらくおもちゃの鞠を意味する言葉を言えたことに喜ぶ。


 それと同時に、教えてもらったこと、それ自体により強い喜びを感じた。


 今回俺が父親に指をさして、父親の名前を教えてもらったのは、父親の名前を知りたいという目的があったからではない。


 正確に言えば、それも目的ではあったが、"本当の目的"を達成するための段階的なものに過ぎない。


 本当の目的は……




 "言語"を習得することだ。




 言語習得という目的を果たすために、父親の名前を教えてもらえるように指をさしたのだ。


 俺は言葉を教えてもらうことができれば、その言葉を復唱して学習することができる……と両親が理解すれば、おそらく喜んで俺に言葉を教えてくれると思ったのだ。


 実際、父親は自分の名前を俺に覚えてもらって直ぐ、(まり)の名前を言って、俺に言語学習能力があることを確認するのと同時に、言語を教えてきた。


 両親が俺の言語学習能力を知れば、二人から積極的に言葉を教えてきてくれると思ったから、今回の指さしをしたわけだ。


 なので、父親の名前を教えてもらうことを選んだのは、言語を教えてもらうためのきっかけとして選んだに過ぎないからだ。


(まあ、物に指をさすよりも父親か母親に指をさしたほうがスルーされずに気に()めてくれると思ったから、という理由もあるがな)




「EIP」


「Ei……ぷ、えip……Eいpぅ……」


 父親はさらに別の物を取り出して、それを指さしながら、それの名前を教えてくれる。


「EIP、EIP、EIP」


「Eいp……いp……Eip」


 そして、それを俺は復唱(ふくしょう)する。




 俺と父親の言語レッスンは続く。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ