第28話 指さし
「…………」
指をさされて呆然としてしまっている父親。
それに対して、俺は毅然として指をさし続ける。
「…………」
俺はポカンとした顔を崩さない父親に対して別のアクションをとった。
「Sui」
それは自分の名前を言う事だった。
「?」
俺の名乗りを受けた父親はその顔を少し変化させてはいたが、大した変化ではなかった。
そんな父親に対して俺は……
「Sui」
もう一度自分の名前を言うことにした。
「Sui」
さらにもう一度。
「SuiSuiSuiSuiSui」
そして、最後には何度も伝えるように言った。
「?????」
俺の指さしと名乗りを何度も受けたことで、父親はその表情を呆然ではなく疑問一色に染めた。
「SuiSuiSui」
そんな表情が変化した父親に対して、さらに名乗りを続けた。
それと同時に……
ブンッブンッブンッ
父親へと指さした右手指を右腕ごと振ることで、連続で何度も父親へと指をさし直した。
「???…………SUI?」
それに対して、父親は俺の名前を呼びながら疑問顔を深める一方であった。
「SuiSuiSuiSui」
ブンブンブンブンッ
しかし、俺は名乗りと指さしを続けた。
(ここが限界……気づけ……)
俺はそれらの行動をしながら、願いを募らせていた。
「SuiSuiSui」
「…………?」
俺が指をさし名乗りを上げ、それに対して父親が疑問を示す。
そんな時間が数分続いていた。
(んん……これだけだと伝えられないか?)
俺はそんな状況に落胆を見せていた。
(あれをするか……いや……でも、あれはなぁ……)
そして、何かに葛藤する心まで現れてきた。
(どうするか……んん……)
俺は自分が伝えたいことが父親へと伝わらないことに、逡巡の気持ちを抱いていた。
すると……
「……SUI、SDVNIUESNUENV?」
それまで大して喋らずに疑問顔を浮かべていた父親が、何かを喋った。
そしてそれは、俺に質問を投げかけているようだった。
「Sui」
何を言っているのか分からないので、俺はとりあえず自分の名前で応じる。
「………………」
俺の名乗りを受けた父親はそれまでの疑問顔を少し思案顔に変化させた。
そして……
「……………………SWU」
父親が絞り出すように何かを言った。
(これか?)
俺はそれを聞いた途端……
「Sふぅ……」
父親が喋った言葉を真似した。
ただし、それは父親の発音とはかなり違っていた。
「Sう……S……ふぅ、Sw……」
俺は父親の発音を真似することができなかったのを直ぐに理解し、それを直そうと試行錯誤を始めた。
「?…………!!」
そんな俺の発音練習を聞いた父親は、聞いた直後はその顔に疑問を浮かべていたが、直ぐに何かに気づいたようだ。
「す、u……S……ふぅ、Sぅu……」
「……SWU」
何かに気づいた父親は先ほど言った言葉をもう一度、俺に向けて言ってくれた。
それを聞いた俺は……
「Sw、ぅ……S……we……すwu」
その発音を道標にして、さらに発音に磨きをかける。
「!!!」
そんな俺の様子を見た父親は驚きを見せつつも……
「Sw、u……すwe、Sw……u……」
「SWU……S、W、U……SWU、SWU」
正しい発音で喋ることで俺の発音を訂正してくれた。
「Swe……Sw、u…………Swue」
「SWU、SWU、SWU」
俺はその訂正に合わせるように発音を修正し、その発音をさらに父親が訂正してくれる。
そして……
「Sw……u……Swue…………Swu」
「!!!!」
遂に父親と同じ発音で喋ることに成功した。
それを受けて、父親が驚きとその他様々な感情を表していた。
「Swu、Swu、Swu」
俺はその単語を復唱する。
「!……SUI!SDVNIUEVJKSDVMUI!?」
その復唱を聞いた父親は驚きと、そして喜びも見せながら俺に何かを言ってきた。
「SwuSwuSwu」
言っている内容はもちろん分からないので、俺は先ほど覚えた単語で応えることにした。
(よし、特に変なことになることもなく、父親の名前を手に入れることに成功だ)
俺は父親から教えてもらった単語……父親の名前を覚えることに成功した。
(まあ……正確にはこの単語が父親の名前なのか父親に対する呼び名なのかは分からないがな……)
先ほど父親から教えられた「Swu」という単語、これが父親の名前なのか、それとも「父さん」とか「パパ」みたいな父親に対する呼び名なのかどうかについては分からない。
だが、便宜上この単語は父親の名前ということにしておく。
(どちらにしろ、この「Swu」という単語自体はあまり重要なことではないしな)
俺は遂に父親の名前を知ることができた。
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