第27話 天才で無くてはならない
俺が今回の指さしに関して最も危惧している不自然さとは、大前提として俺が生後5か月である、ということだ。
俺に相応の知能がある理由をどれだけ論理的に考えたとしても、それは全て俺が早熟で、言わば天才や神童であるからということに行き着く。
つまり、俺が天才であることが大前提の理由として存在しなくては、俺が指さしをできる知能を持つことの説明ができないのだ。
俺が天才であるというのは別に自画自賛しているとか、俺がナルシストだからとか、そういうことではない。
生後5か月で話したり、指さしをしたり、これらの事実だけを見れば、俺という赤子はどう考えても異常で、俗に言う天才と呼称される赤子に見えてしまうということだ。
だから、何故俺が生後5か月で話せるのか?指をさせるのか?などの疑問の答えには全て俺が天才だからという理由を必要としてしまう。
そして、それこそが俺の思っている不自然さであり、その不自然さには危惧されることがある。
(自分の名前を言った時は猜疑心を抱かれたり嫌悪感を示されたりすることは無かったが、今後俺が天才であることを前提にした行動にマイナスな感情を抱かれないとも限らないしな……それに今回は天才であることを前提にした行動の、まだ二回目だ。まだまだ悪い方に可能性を残している段階だからな)
俺が危惧していることとは、両親からのマイナス感情である。
今後、俺に対して徐々に天才というレッテルが貼られることで両親が先入観によって俺のことを天才であると認識すれば、俺がどのような尋常では無い行動をしたとしても両親から不自然だと思われることは無くなるだろう。
だが、二回目である今回はまだ先入観が薄い或いは無い状態である可能性がある。
(まあだからこそ、5日は開けたんだからな)
俺は両親に自分の名前を伝えてから直ぐに指さしをやらず、5日を開けた。
それはあくまでも、俺が成長によってできるようになったと思われた方がいいと思ったからだ。
自分の名前を言えるようになったそばから、指さしまでできるようになってしまえば、あまりにも成長としては早すぎるし急すぎるだろう。
論理的に見て早いこともそうなのだが、両親が俺の成長を受け止めきれない可能性もある。
両親は俺の話始めにあれほどまでに喜んでおり、その中でさらに指さしという成長を投下してしまえば、どうなるか分かったものではない。
色々ごちゃ混ぜになって中身が分からない化学物質の中に火を入れるようなものだ。
もしかしたら爆発どころか火もつかないかもしれないが、その逆で、大爆発が起きてしまえば正に大惨事だ。
今回の件で言えば、両親が俺にとてつもない嫌悪感を抱くという爆発が起きてしまうかもしれない。
だからこそ、期間を開けることにしたのだ。
では何故、5日という期間を開けたのか?
それは、最初に俺が両親に名前を伝えた時とその翌日に両親が俺に会うたびに俺の名前を連呼してきて俺がそれに応えるということを延々とやっており、それが昨日今日でようやく落ち着いてきたからだ。
ある程度テンションが落ち着いてきた両親であれば、彼らに新たな成長を見せたとしても、予測不能な反応にはなる確率は下がるだろう。
また、期間を開けすぎることも不都合だと思ったからだ。
俺はあくまでも早熟で天才であるという前提があるため、成長の段階が遅すぎると逆に不自然だということになるかもしれないということだ。
だが、遅すぎるという理由からは5日という具体的な期間を決めたことは説明できない。
何故なら、俺は赤子が一般的にはどれくらいの成長速度でどのように成長するのかはある程度知っていても、天才と呼称されるような赤子がどのようにどれくらい成長するのかはほとんど知らない。
なので、今回は具体的な参考が無い状態で期間を決めなくてはならなかった。
そもそも、相対的に人数が少ないからこそ天才であるからして、そんなデータを専門家でもない俺が知っているはずも無かった。
だが、だからといって具体的な期間を決めるための理由を探していると、ずるずると先延ばしになってしまうと考えた。
先延ばしにして天才という前提が崩れてしまう期間になってしまうことは問題だ。
そもそも、遅すぎるという具体的な期間も分からない。
だから、5日という期間は両親のテンションが収まってきたら、という決まりを設けて決めたものなのだ。
逆に言えば、天才であるという前提……先入観は俺が一般的な赤ん坊の知能や行動から逸脱した行動を取った場合に、その不自然さを払拭してくれるメリットにもなる。
他者から不自然だと思われることを乗り切ることで、自由を獲得できることにもなると俺は思った。
そして、そんな苦悩を乗り越えて達成したい"目的"というものがこの指さしにはある。
それは"父親の名前"を知ることだ。
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