第25話 動けないけど動かせる
シュルッ……シュ……シュ………………シュ……
部屋の中を燦々と照らす光があった。
その光は部屋の隙間から入って来ている。
そんな光に照らされる部屋の中で、消え入りそうな程に微かな衣擦れの音が鳴っていた。
シュ……シュルルル……スゥゥゥゥゥゥ…………
その音は俺の敷布団になっている布から、数本の糸が解かれている音だった。
スゥゥゥ……スルスルッ……スルルルルゥ……
解かれた糸は俺の右腕を伝い……右手首……掌、手の甲……指の順番に巻き付いていった。
「さてと……一応、本番になるかもな……」
糸が自分の右手に巻き付いていく様子を平然と見ながら、俺は少し意気込んでいた。
両親に自分の名前を伝え、それが成功に落ち着いてから……5日が経過した。
ガチャッ……キィィィ……ィィィイ、バタンッ
明らかに建付けが悪そうな扉の開閉音が部屋に響いた。
「SUI!VASDMWEHUASE!」
そして、その音を響かせた原因である、父親が部屋へと入ってきた。
……タッ……タッ……タタッ
父親は後ろ手で扉を閉めると直ぐに俺のもとに来たが、それはいつものことであった。
「ASDVNUEVHIUVEAE!SUI」
父親は俺の元へ来たと同時に、自分の顔を笑顔にして俺の顔を覗き込んできた。
「SUI!SUI!SUI!」
父親は俺の顔を覗き込んだまま、俺に対して俺の名前を言ってきた。
「Sui!」
そんな父親に対して、俺もそれに応えるように名乗る。
(最近はずっとこれだからな……)
俺が自分の名前を両親へと伝えた日から父親は部屋へと入って最初に俺の名前を言うようになった。
(よほど嬉しいんだろうな)
そんな父親に対して、俺はしっかりと自分の名前を言って応えることにしている。
ちなみに母親も同じような感じだ。
「SUI、SDUIDSVMMSUICEC」
そして父親は名乗りを終えると、いつものマッサージを始めた。
(……今日は短かったな……やはりやるしかない、ということか)
俺は父親との名乗り合いから何かの後押しを受けていた。
俺は自分の体が能動的には動かないことを知っている。
それは産まれてすぐに判明した。
そして、その後に何回確かめても動かないことが分かり、諦めろと言わんばかりの事実であることを思い知っている。
俺は動くことができない。
だが……
"動く"ことはできなくても……"動かす"ことはできる。
俺には能力があることが分かった。
ならば、筋肉を使った動きはできなくても、その能力を使って自分の体を動かすことはできる。
でも、それは自分の体に直接能力を使って動かすというものではない。
俺は能力が使えるようになってから、直ぐに自分の体を動かすことに挑戦して失敗に終わっている。
なので、俺の体が能力によって直接的には動かせないことを、俺は知っている。
だが、直接的には動かすことが出来なくても"間接的"であれば動かすことができる。
要するに、他の物を能力によって動かして、それを自分の体に巻き付けたり、俺がその物に乗ったり、といった間接的なものであれば、俺は結果的に動くことができる。
実際、最初の検証の時もベビーベッドを動かすことで視点の変更が出来ていた。
これも、俺を間接的に動かした例だろう。
そして……
今、俺の右腕と右手指には敷布団から解かれた糸が数本巻き付いていた。
それは俺が能力を使って起こした結果であった。
では何故、俺は糸を自分の右腕から先に巻き付けているのだろうか?
それは……
能力で糸を動かして、自分の体を動かしたいからだ。
能力で糸を使えば……
右腕をあげる時には右腕ごと糸を上昇させ、手首を曲げる時には掌や手の甲に巻き付いている糸を腕の方へと引っ張り、指を曲げる時は指に巻き付いている糸を掌の方へと引っ張ることで、それぞれの動きを実現することができる。
もちろん、手や腕の動きだけでなく、自分が来ている服を動かすことで脚を曲げたり、体を捻ったりすることもできる。
「SUI、SHUIDNIDCUSEC」
俺が能力による体の可動について考えていると、父親が俺の体のマッサージを終えていた。
(………………)
俺はマッサージの終わりを受けて、その施術時間が前よりも短くなっていることを感じていた。
(……やるとするか)
俺は能力を使って体を動かしたいと思い、右腕から先に糸を巻き付けた。
だがそれは、何となく自分の右腕を動かしたいから巻き付けたのではない。
でもそれは別に、能力の検証や遊ぶため、ということでもない。
もっと別の目的のためだ。
それは……
…………スッ
突如父親の方に向けられたものがあった。
「…………」
向けられたものに対して父親は気づいた。
向けられたのは俺の右手であった。
その形は、全ての指が曲げられることで作られるグーの形であった。
ただし、それは人差し指が曲がっていれば、だが。
俺に"指をさされて"しまった父親はその状況に……
「?」
いかにもな困惑顔になった。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この作品を応援している!」
と思ったら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!
あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!
ブックマークもいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!