第24話 細かい不安に素直な喜び
「…………」
俺の名乗りを受けて、父親は思案顔になっていた。
(…………)
そんな父親の様子に対して、俺は固唾を飲むような気持ちになっていた。
「…………」
(どうなんだ……)
未だ変らぬ父親の様子に俺は不安を募らせながら、その行く末を見る。
「…………」
(…………)
そんな俺と父親の無言が続いていた。
しかしその状態が……
「kyhaaaaaaaaaaaaaa!!!」
突如部屋に響いた母親の叫びによって終わりを迎える。
(っ!)
俺は母親の叫び声にビクリと驚いてしまう。
「kyha!!kyha!!kyhaa!!!」
そして、母親の叫び声はすぐには止まることなく未だに継続していた。
(…………)
母親の突然の叫び声に驚いてしまった俺はその驚きから徐々に平静を取り戻していた。
それと同時に、母親の叫び声が悲嘆によるものではなく、歓喜や快哉を叫ぶものであることに気づいた。
(……ふぅ……どうやら、杞憂になったみたいだな)
最初に俺の名乗りを聞いた時の呆然とした様子が嘘のように嬉しさを爆発させている母親の様子を受けて、俺はそれまでに考えていた不安が結果的には杞憂になったのだと感じ、安心の一途にたどり着けた。
「kyh!kyh!kyh!kyh!kyh!」
タンッ!タンッ!タンッ!
歓喜する母親は、爆発するようにその場で飛び跳ねていた。
タンッ!タンッ!…………タタタッ!
さらに母親は飛び跳ねることを途中でやめると、先ほどまで垂直飛びに使っていたエネルギーを転用するかのように、俺が寝ているベビーベッドへと急速に近づいてきた。
「adsfhuiewfiuaef!!!sui!!sui!!」
そして、その勢いのまま俺へと何かを嬉しそうに語りかけてくる。
(はぁ……)
俺はそんな母親の歓喜を伴った語り掛けに対しても、内心では引き気味になりつつ、とりあえず自分の名前で答えてみる。
「Sui!Sui!Sui!」
「!!!……sui!!asdhuiaefoaeihasg!!!」
俺の返事を受けて、母親がさらに嬉しさを増した様子でまたもや何かを語り掛けてきたので、俺はそれに対して、もう一度自分の名前を用いて受け答えをする。
「SuiSuiSui!!」
「!!!」
タッ!!
俺の答えにまたもや歓喜を増した様子の母親は俺の答えを聞いた直後、急に俺から背を向けた。
そして、背を向けた母親の視線の先にいたのは俺の名乗りを受けて思案顔になっていた父親であった。
「afehuiesf!!sadfhiuase!dhfivuavnawev!!!」
そんな父親に視線を向けた母親は未だに思案顔であった父親に向けても、嬉しそうに何か話しかけていた。
(……なるほど)
俺は母親が歓喜を纏いながら俺へと語り掛けてきたのには、自分が感じている歓喜をより確かなものにするための確認行為の意味があったのだと感じた。
「asnuvermv!!vmdudisdvevervmiev!!」
「…………………………」
再度嬉しそうに父親へと語り掛ける母親に対して、父親は思案顔を保っていた。
だが……
「…………HWA」
その顔が変化を見せる。
「HW……HWA、HWA、HWA!」
父親はそれまでの思案顔から徐々に破顔させていく。
「HWA!HWA!HWAH!!!」
最後にはその顔は母親と同じ、歓喜に包まれたものになっていた。
「asdfmiwef!!!sui!!dghuieagoasgmi!!!」
「SUI!VDSIMHIEFGIWEGNOISD!!!」
そして、嬉しさに身をゆだねた両親はその気持ちのまま、喋り合っていた。
(んん……どうやらあの顔は考えてた……という感じじゃなくて、母親と同じく呆然としてた、ってとこか)
俺は歓喜の会話を続ける両親を見ながら、父親の先ほどまでの思案顔が俺の名乗りに対して何かしら考えていたのではなく、名乗りを受けて呆然としていただけなのではないかと思い至った。
そして、そんな顔をしていた父親も母親の喜色につられ、母親に遅れる形で俺の名乗りに対する嬉しさを表に出せたことも俺は理解した。
「sadfoiwe!!sui!sui!sui!」
「SUI!SUI!DNEANAO!SUI!!!」
俺が父親の先ほどまでの様子について考えていると、いつの間にか二人での会話をやめた両親が、今度は俺を混ぜて会話を始めてきた。
(おっと……応えなければ……)
「Sui!Sui!Sui!」
それまでの考え事をやめ、両親によって混ぜられてしまった会話に、自分の名前を名乗るだけではあるが、参加した。
(今もまだ半信半疑……いや、造語を使って表現しても良いなら九信一疑ってとこかな……まあそれでも一応は確かめさせてやらないとな)
俺は両親の様子から、俺が自分の名前を言えることを彼らが半分程度……というわけではないが、まだ100%確信しているわけではないと感じ取り、それを100%にしてもらうために再度名乗りを上げた。
「sui!sui!sui!」
「SUI!SUI!SUI!」
「Sui!Sui!Sui!」
両親が俺に問いかけ、俺がそれに答える……
そんな問答が続いていた。
(さて……一応は成功だが……どこまでやっていいものか……)
そんな問答を繰り返す中で、俺は何かに思考を巡らせていた。
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