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第22話 生後5ヶ月

「………………」




 俺の言葉を聞いて、母親は何とも言えない表情になった。


「SuiSui」


 俺はそんな母親に対して自分の名前をもう一度繰り返し伝える。


「………………?」


 そんな俺の再三(さいさん)に渡る語りかけが心に届いたのか、母親の様子に変化が見え始めた。


「Sui……SuiSui」


 俺は、変化を見せた母親に対してもさらに名前を伝える。


「………………」


 母親は表情を変化させつつ、一呼吸を置いた。


 そして……




「………………sui?」




 母親は俺の名前を問いかけるように言ってきた。


「Sui……Sui、SuiSui!」


 母親の問いかけに対して答えるように俺は自分の名前を言った。


「sui?sui?」


 そんな俺に対して、母親はその声に疑問を乗せながら語りかけてきた。


(……本当かどうか知りたい、って感じだな)


「SuiSuiSui」


 俺は、俺が本当に喋れるようになったのかの確認を母親が求めているのではないかと考え、俺が偶然ではなく意図して自分の名前を言えていることを母親に確認させる。


 そして、俺が自分の名前を言い続けていると……


 スッ


 母親はそれまで抱きかかえていた俺をベビーベッドへとおろした。


 ササッササッ


 そして、おろした俺を布で包むと……


 タッ……タッ……タッ……


 そのまま俺から背を向けて歩き始め……


 タタッ……ガチャッ……キィィィ……ィィイ、バタッ


 扉を開けて、この部屋を退出した。


 母親は部屋を出て行くまでずっと無言であり、そして呆然(ぼうぜん)とした様子であった。




(…………まずったか?)




 母親が退出するまでの様子を見ていた俺は一抹(いちまつ)の不安を覚える。


(もしや、早まったか?)


 その不安は自分の行動に対するものであった。


(んん…………だが、あれだと……なんとも……)


 そして、それは母親の態度に起因(きいん)する不安でもあった。




 俺には、自分の名前を正しく言えるようになる前から、一つの葛藤(かっとう)があった。


 それは……


 俺が名前を言えることを両親に伝えるのか(いな)か……この二択の葛藤であった。


(んん……いや、5ヶ月と決めといたんだ……できるにしろできないにしろ)


 そして、伝えるのかどうかというのは、すなわち生後何ヶ月で伝えるのか?ということだ。


 俺はそんな葛藤に対して、生後"5ヶ月"という答えを出していた。


(俺より早い赤ん坊もいるみたいな話を聞いたことがあるし、早くて8、9ヶ月だしな)


 赤子が一語文(いちごぶん)という一つの単語のみで構成された文を用いて話始めるのは、一般的に早くて8、9ヶ月くらいであると俺は聞いたことがある。


 そして、その一語文の前段階に喃語(なんご)という意味のない言葉、具体的には「あうー」とか「だー」みたいな言葉がある。


 喃語は赤子が言葉を試行錯誤しながら学習するためにあり、その喃語を赤子は生後5、6ヶ月から使い始めるという。


 赤子が生後5、6ヶ月から喃語を使い始めるのには、それまで未熟であった発声器官が発達したためという原因があるらしい。


 つまり、喃語から一語文へと移行するまでの3ヶ月程は、赤子が言語を実践しながら学習している期間であるということだ。


 そして俺は、赤子が実際に喃語(なんご)を話せるようになった時には、理論上相手へと伝えられるような発音で喋れるようになっているのではないかと考え、生後"5ヶ月"を自分の名前を両親に伝える時と決めたのだ。


 そして、実際に俺の発音はちょうど5ヶ月でしっかりとした形になった。


 さらに、そんな5ヶ月という期間よりも短い期間で一語文を喋れるようになった赤子がいる話を前に聞いたことがあったことも、この決断を後押しする結果となった。


(まあ、そういう赤ん坊はかなり例外的だとは思うがな……)




 では何故(なぜ)、俺は喋れることを両親へ伝えることに、ここまで悩み考えていたのか?

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