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第20話 視界に収める

 グワンッ……グニャ……




 棚の周りで綺麗な円を(えが)いていた品々が、突然雑で(つたな)い動きをするようになった。


(んっ!くっ!んぐぐっ……)


 俺はそんな雑然とした惑星系(わくせいけい)モデルを元の整然とされた状態へと戻そうと努める。


 だが……


 グニャニャァ……グニャグニャ……


 雑になった動きは修正されるどころか、崩壊の一途をたどっていた。


(ぐぅぅぅ…………だめだ……戻そう)


 俺は諦めの気持ちになると、ベビーベッドを後進(こうしん)させ、先ほどまでいた位置へと戻る。


 すると……


 ……………………スッ


 俺が元居た所まで戻ると、それまで修正できなかったことが嘘のように、惑星系モデルはその形をすぐに元の綺麗な姿へと戻した。


(んん……やっぱだめか)


 今、俺が自分の思った通りにものを動かすことができなくなったのは、惑星系モデルの中心に行ったからである。


 正確に言えば、中心に行ったことで俺が円の半分を"視界"に収めることができなくなったためである。


 この能力を十全に発揮して使用するためには、条件がある。


 その条件とは、俺が視覚で対象物を捉えていなければならない、というものだ。


 この条件を満たさずに、能力を使用する……つまり自分に見えていないものを動かすと、とてつもなく能力を使うことが難しくなるのだ。


 別に、能力それ自体が使えなくなったり、俺自身に向けて使用するときのようになったりする、というわけではない。


 条件を満たさなくても使うことはできる……ただし、"超"動かしづらいというだけだ。


(正直、なんで俺が見てないとこんなにも能力が使いづらくなるのかは分からん)


 このことについて考察しようかとも思ったが、一切の手掛かりも(つか)めないので、今は無理に考えないでおくことにした。




 ……タッ……タッ……タッ


 部屋の外から足音が響いてきた。


 タッ……タッ……タッ……


 聞こえてくる足音は徐々に大きくなる。


 そして……


 ……タタッ……ガチャッ……キィィィィ


「sui、adsfyuiefo」


 扉が開くと、母親が部屋へと入ってきた。


「sdfyuiawefof」


 タッ……タッ……


 そして、何かを喋りながら俺の元へと母親が近付いてくる。


 ……ススッ


 俺の元へとたどり着いた母親はそのまま俺を抱きかかえる。


(飯か)


 母親が部屋に入って来て早々俺を抱きかかえる時は食事……授乳のために来た時の流れであると、いつものことであるため理解した。


 今まで部屋の中で展開していた惑星系モデルは、既にその形を失っており、その形を構成していた物品は俺が能力によって動かす前の位置へと戻っていた。


 俺は少し前に母親が授乳のためにこの部屋へと訪れる時間がそろそろであることを思い出し、能力を使っているところを見られてしまうことが無いように、片付けを始めていたのだ。


 そして、俺を抱きかかえた母親は乳房(ちぶさ)を露出して授乳の準備を終えると、俺の頭を掴んで自分の胸へと俺の口を押し当てた。


 それを受けて、俺は素直に授乳されることにした。


(さて……能力に関してはこの一日で出来ることは大体やっただろう)


 俺は母親の助力を借りて食事をしながら、先ほどまで行っていた能力の検証と考察について思考を(めぐ)らせる。


(俺自身を動かせないことに関してはまだ検証の余地があるが、見えない物を動かせないことについては……後回しだ)


(その他、継続的で長期的なことは後々(のちのち)わかるだろうからな……そういったことは続けながら追々(おいおい)やっていけばいいだろう)


 俺はこの一日での能力の検証と考察結果を踏まえた今後の展開を思案(しあん)した。


 チュゥ……チュゥ……


不可思議(ふかしぎ)なことは明らかだが……便利なこともまた(しか)り、だな)




 俺は母親の乳首を片手間に吸いながら、能力に関する考え事に(ふけ)るのだった。

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