第16話 動く
(できた)
(おお、できた。……うん。できたな)
(挟まっていた鞠が、触ってもいないのに、浮かんだ)
(ほんの少しの、期待を込めて、やってみただけ、だったんだがな)
(こうして、実際に成功したのを見ると、嬉しい、という感じじゃなくて)
(成功した事実を、ありのまま受け止めてるだけ、って感じだ)
(念のため、もう一度……よっ)
フワッ……フワ……フワ……
俺が、浮かぶ意思を与えると、鞠は、浮かび上がった。
(やっぱりできるな……。ふぅ)
フワ……ストッ
俺が、意思を止めると、鞠は、浮遊を停止して、落ちた。
(偶然でもなんでもない、ということか)
(ふぅぅ……)
(ひょんなこと、だったな……飛翔現象が成功するための原因は)
(鞠の圧迫感と、それに対する不満、あとは、布以外で初めて飛翔現象をしてみたこと……これらが、成功のトリガーになった、ってとこか)
(まあ、これまでの練習も、あるとは思うがな)
(いやー、これは、鞠を置いてってくれた、父親のおかげ、かな?)
(いや、やっぱりイラつくから、父親の"おかげ"、ということには、しないでおこう)
━━数十分後
(むむむ……)
(よっ、ほっ、せいっ!)
スゥー……スン……ヒュンッ!
俺の目の前で、鞠が、空中を移動したり、突然静止したり、急加速したりする。
(なるほど)
(最初に布を飛ばした時や、二回目に鞠を浮かせた時みたいに、一方向に飛ばしたり、浮かしたり、するだけじゃなくて)
(今みたいに、かなり自由に、動かすこともできるな)
クルクルクルクルクル!
(おお、よく回る、よく回る)
(ほいっ)
クルクルクルッ……ヒュゥゥ、ストッ
俺は、高速回転させた鞠を止めて、自分の近くに、落下させた。
(ふぅ、なんか……気持ちいいな)
(この気持ちよさは、あれだな)
(鞠が、動けない俺の行動を、代弁してくれてるから、って感じだな)
(言わば、解放感の代弁、だ)
(あっ、そうだ)
(一応、あれも、確かめておかないと)
……バサッ!
(うん。普通に、大丈夫だったな)
俺は、掛布団を、浮かび上がらせる。
(「飛ばせる対象が、鞠だけなんてことはないよな?」と思って、布を飛ばしてみたが……今まで、散々できなかったことが、嘘のように飛ばせるな)
(できないことは無いにしても、もう少し、苦戦するかと思ったんだがな)
(……それっ、そいっ、よっと)
バササササ……ババサッ!
俺は、掛布団に意識を集中して、色々と動かしてみる。
(普通にできるな)
(鞠を動かしている時と、やりやすさに、大差は無いな)
(さて、飛翔現象ができるようになったし、色々と、検証を始めるか)
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