第149話 木から千切れたリンゴの実はどうなる?
「"運命"はあると思いますか?」
白い少女は俺にそう尋ねてきた。
少女の質問に対して俺は……
(は?予定調和とか、運命論のことか?)
普通に戸惑っていた。
(急になんでそんな……いや……今は、なんで?と考えるのはよそう)
だが、すぐに戸惑いを捨てて、少女の質問について考えることにした。
(とりあえず何かしら答えるとするか……いやでも、答えに対して何かしら不正解があって理不尽な目に合わされたりしないか?いやしかし、この国にそういった権力や宗教による理不尽な弾圧はあまり無いらしいしな……んん……)
俺が色々と考えていると……
「"自由"に答えなさい」
少女は"自由"に答えて良いと言ってきた。
俺はそれを聞くと……
(そうか……なら、大丈夫だな)
と思った。
そして、俺は毅然とした態度で自分の答えを少女に告げる。
「運命とは……」
(まあ、大して考えてこなかったことなので、今この場で思いついたことだが……)
「運命とは人の身では感じ取れぬもの……その存在を知覚又は干渉できるのは神か悪魔、或いはもっと別の存在かもしれません。故に、運命とはその存在を見定めるものではなく、人間には精々『利用』する程度のものでしかないと存じます」
と、俺は答えた。
俺の答えを聞いた白い少女は……
「…………」
俺の答えに言葉を返さず、黙っていた。
(質問の前提条件が少ないから、YES/NOじゃなくて質問自体の否定を展開してやったぜ。なんせ"自由"に答えていいんだからな)
少女と俺との間に数秒の沈黙が続いた。
……数秒後
「あなた、名前は?」
唐突に、白い少女が俺の名前を聞いてきた。
俺はそれに対して……
「『スイ』と申します」
素直に名乗った。
すると……
「そうですか……スイ、ありがとうございます」
少女は俺の名乗りに対して、感謝を返した。
そして……
「私は……"プリン"と言います。どうぞお見知りおきを」
少女も名乗りを返してくれた。
「プリン様……感謝致します」
少女……プリンに対して、俺は名乗りを返してくれたことに感謝を告げた。
「では、スイ。私はこの図書室を見たいのですが、案内して頂けますか?」
お互いの名乗りが終わると、プリンは俺に図書室を案内して欲しいと言ってきた。
「承りました」
俺は了承を返した。
…………
しかし、俺は体を動かさず、その場で跪く姿勢を続けた。
すると……
「立ち上がることを許可します」
プリンは俺にそう言ってきた。
……タタッ
そして、俺は立ち上がった。
「それでは、ご案内させて頂きます」
立ち上がると、俺は早速案内をすると告げた。
「ええ。よろしく……あら?」
しかし、俺が案内するという言葉に対して、プリンは返事をしようとしたが、途中で返事を途切れさせた。
先ほどまで、俺が床に跪いていたせいでプリンの視線は床付近にあった。
だが、俺が立ち上がったせいでプリンの視線は床付近から離れ、俺の顔……ちょうどこの図書室の机と同じ高さのところに向いた。
それによって、プリンは俺の近くの机に置かれた物に目が行っていた。
プリンはそれを見ると……
「それは……『バケモノと姫』ではないですか?」
俺にそう尋ねてきた。
プリンの視線が向いた机の上には、プリンが図書室に来る前に俺が読んでいた「バケモノと姫」という本が置かれていた。
「左様で御座います」
俺はプリンの質問に肯定を返す。
「もしかして、読んだことがありますか?」
プリンは、俺の口ぶりから俺が「バケモノと姫」を読んだことがあると察したようで、俺に読んだことがあるのか否かを尋ねてきた。
「はい、拝読しました」
俺は、読んだ、と答えた。
すると……
「あなたの感想を聞かせて頂けませんか?」
プリンは俺に本の感想を尋ねてきた。
俺はそれに対して……
「承知しました」
特に断る理由も無いので、本の感想を答えることにした。
「ありがとうございます。それで……どのような感想を抱きましたか?」
プリンの質問に対して俺は……
「惜しい気持ちが強く出る作品でした」
と答えた。
「惜しい気持ち……ですか?」
プリンは俺の感想を聞き返してきた。
「はい、読んでいて惜しい気持ちを抱きました。姫が自身の自己同一性……自分という存在を構成する要素に、自分とバケモノ以外を組み込んでしまっていたことが私としては失敗であると感じました。最初、或いはもっと早い段階から、姫が自分とバケモノのためだけに動いていれば破局する可能性は低かったでしょう……故に、惜しい気持ちです」
俺はプリンの聞き返しに対して、そう答えた。
(もしかしたら、この作者も俺と同じ様な考えで書いたのかもしれないし、違うテーマで書いたのかもしれないし、悲劇のラブストーリーを書くためにそれっぽい話を書いたのかもしれない……まあ、そういうのを曲解したり誤解したりして考えるのも創作を読む楽し……)
「…………」
俺が内心で本のことについて色々と考えていると、プリンは俺の回答に対して真顔になっていた。
俺はプリンの表情に気付くと……
(ああ、しまった……プリンくらいの年ならテーマとかメタファーとかじゃなくて……内容の衝撃さとかだったな。そうじゃなくても、こんな作品に対する感想と言うのは、問題解決じゃなくて共感だった……)
自分の回答がプリンにとっては不正解だったと思った。
(どうやら変に熱くなってしまったようだ)
俺は、変に熱くなったせいで忖度の無い率直な感想を言ってしまったことに気付いた。
(この回答はプリンにとって面白くな……)
そして、自分の回答が姫にとって面白くないものだと反省しようとした瞬間……
ドックンッッッ!!!
俺は自分の心臓が激烈に高鳴るような"気がした"。




