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第146話 スーツ

 極限まで目を()らしてみると、俺の皮膚と服の間に、透明な何かが()(めぐ)らされているのが見えた。




 村にいた時、俺がある植物の繊維(せんい)を利用して、ネット罠を作ったことを覚えているだろうか?


 ゆっくりと燃え、燃えている間に大量の煙を出し、乾燥させてから燃やすと無色透明で強靭(きょうじん)な繊維になる植物を利用した罠のことである。


 アーテスで本を読めるようになってから知ったが、あの植物は「リシィ」という名前の植物らしい。


 俺は村でリシィの繊維を使ったネット罠を作った時、実はネット罠だけでなく、別の物も作っていた。


 それは、スーツである。


 リシィの繊維を俺の全身に張り巡らせるようにしたスーツである。


 強靭という特徴を持ったリシィの繊維を使ったこのスーツには、斬撃(ざんげき)刺突(しとつ)に対する耐性がある。


 俺は、このスーツを作ってから、常に頭部を含めた全身に身につけておいたのだ。


 何か、不測の事態があっても良い様に。


(まあ、今回の不測の事態は馬に蹴られるという滑稽(こっけい)なものだったがな)


 俺が村でウィピに襲われた時、逃げなかったのは、このスーツという保険があったからである。


 ネット罠に捕まったウィピが抜け出せないのを見て、最悪()まれてもスーツを破って肌に到達することは無いだろうと思ったからだ。


 ちなみに、このスーツを作ってからは自分の体を動かす時、スーツを動かして自分の体を動かすことが多くなった。




 ただし、今回の事態に対して、このスーツでは俺が無傷で済むことはあり得ない。


 それは何故(なぜ)か?


 このスーツは斬撃や刺突には強いが打撃の衝撃はほとんどそのまま俺の体に通してしまうのだ。


 だから、馬に蹴られたという今回の打撃を無傷で済ませるにはこのスーツだけでは力不足である。


 ではどうやって無傷で済んだのか?


 本当に奇跡か?


 いや違う。


 俺が打撃の衝撃も減衰(げんすい)できるように細工をしていたからである。


 チラッ


 俺はスーツと自分の皮膚の"間"を見る。


 すると、両者は密着している訳では無く、両者の間には数ミリメートル(mm)から数センチメートル(cm)の空間があった。


 この空間は、皮膚とスーツの間に入れた圧縮空気の層である。


 俺はスキルを使って、この空間の中に圧縮した空気の(つぶ)を無数に入れておいた。


 そうすると、この圧縮空気の粒が打撃の衝撃を(やわ)らげるクッションになるのだ。


 俺の体の表面は……


 皮膚→圧縮空気の粒→スーツ


 このようになっており、斬撃や刺突にはスーツが、打撃には圧縮空気の粒が対応することで、俺に襲い掛かるほとんどのダメージに対抗できるようにしたのだ。


 そして、今回の事態に対して、見事にその役割が果たされ、俺は無傷で生還することができたのだ。




 それと、このスーツと圧縮空気の粒にはスキルを使って、常にとある力を働かせている。


 スーツには俺の体に張り巡らされている状態から一塊(いっかい)の形に圧縮されようとする力が、圧縮空気の粒には皮膚とスーツの間から抜け出して霧散(むさん)されようとする力が、常に"延長(えんちょう)"によって働いている。


 延長とは、俺のスキルの制限である「俺の視界内に対象物が無いとうまく動かせない」「俺が意識していない対象物は上手く動かせない」(など)の制限を無視できる、俺のスキルの仕組みである。


 延長を使えば、俺の視界内に無くても俺の意思通りの動きをさせることができたり、俺が寝ている時に能力を使い続けたりできる。


 俺はこの延長という仕組みを使って、2つの力を働かせているのだ。


 しかし、その2つの力をそのままにしておくと、俺の全身に張り巡らせているスーツは俺の体中に張り巡らせている状態から一塊に収納されてしまい、圧縮空気の粒は空気中へと霧散して消えてしまい、俺は防御機能を失ってしまう。


 なので、そうなるのを防ぐために、俺はスキルで常にその2つの延長の力を押さえつける為の逆の力を働かせている。


 しかしこれは、一見するとわざわざ生み出した力を逆の力で()き消す、という無駄な力を使う行為に思える。


 では何故、俺はこのような無駄に思えることをしているのか?


 それは、隠蔽(いんぺい)のためである。


 先に述べた2つの力は延長で働かせているので、俺が気を失ったとしても、それらの力は働き続ける。


 だが、2つの力を押さえつけるための力は、延長によって働かせている訳では無いので、俺が意図的に解除したり気を失ったりすると、自動的に解除されてしまう。


 もし解除したとなると、押さえつける力が無くなった2つの延長の力が、圧縮空気の粒を霧散させ、スーツを小指の先くらいのサイズに圧縮させる。


 もし、俺が今回の様に気絶してしまった時に、スーツや圧縮空気の粒のことがバレてしまうと、スーツの存在や俺がスキルを使えること、俺のスキルの正体などが他人に知られてしまう。


 なので、俺が気を失ったとしても、俺がスーツを利用していること……そして、俺がスキルを使っていることがバレないように、わざわざ俺は2つの力とそれを押さえつける力を常に働かせているのだ。


私見(しけん)だが、正直"俺のスキル"を知られるのは得策(とくさく)ではない。それどころかかなりの愚策(ぐさく)だと思う)


 なので、俺はスキルのことを"特に"知られないように、その証拠となるスーツと圧縮空気の粒を隠蔽しているのだ。


 ちなみに、今回の事態が発生した時、俺はすぐに気を失ったので、スーツは街の中で圧縮されたと思う。


 だが、圧縮されたスーツは今、街の中では無く、俺の手元もとい全身に張り巡らされている。


 これは何故(なぜ)かというと、スーツを圧縮した後、圧縮されたスーツが俺の耳の穴に入るように延長の力を調整しているからである。


 なので、俺は街の中にスーツを落としてくることは無かったのだ。


 ちなみに、耳の穴の中に入れているのは、圧縮された後のスーツも見つからないようにするためである。




 まあ、そういった訳で俺は今回の事態を無傷で乗り切れた。


 その上で、俺のスキルやスーツがバレることにもならなかったと思う。


 だが……




(なんか……急に都合の悪いことが起きたな)




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