第141話 職人見習いは給金が出たり出なかったり
何故、州都の外へと出ないのか?
それは、アーテス邸の外へと出ることについては許可されたが、州都の外に出ることについては許可されていないからだ。
だから、俺は州都の外へと出るための門をくぐることは今のところ無い。
そもそも、門を通るためには通行税が必要になるのだが、今のところ俺は給金をもらっていないから、その通行税を払えないのだ。
使用人見習いに従事した半年間で給金が出たことは一度も無い。
(ひどい無賃金労働だろ?)
(だがまあ、ここは異世界で、俺の肩書きは"見習い"だからしょうがないと言えばしょうがない)
どうやら、この異世界では使用人に限らず、職人の下で働く見習いに給金が出ないことは往々にしてあるらしい。
一人前になるまでは金をもらうことはできない、ということだろう。
場合によっては、給金どころか家賃や食費まで自腹になる、ということもある。
それに関して言えば、俺は給金をもらっていないだけで、最低限生きていくための費用はアーテス側が負担してくれているので、マシだと言えるだろう。
(というか、この異世界に限らず、地球でも見習いが無賃金労働を強いられた事例なんて星の数ほどあるしな)
俺は州都の外へと出ることはできない。
それなのに、門までやって来たのは、この州都の散策に今日の時間を使うためである。
今日は、もともと具体的な予定が決まっていたわけでは無かった。
ただ、今日はこの州都の地理を覚えるために、散策をしようと思って来たのだ。
(さてと、次は隣の大通りだな)
そう思うと、俺は街の中を歩いた。
ササッ……ササッ……
俺は目の前の机に無造作に置かれた数十枚の紙から1枚を取ってそれを見ると、その紙を机の右側にある紙の山へと積む。
ササッ……ササッ……
また、別の紙を取ってそれを見ると、その紙を今度は机の左側にある紙の山へと積む。
ササッ……ササッ……
俺は、紙を取って見て積む、というのを繰り返した。
数十分ほど経つと、目の前に無造作に置かれていた数十枚の紙が無くなった。
タタッ
俺は、紙を取って見て積むという仕事……書類のジャンル分けの仕事を終えると、立ち上がった。
……スサッ
そして、俺は机の右側に置かれた紙の山を持ち上げた。
俺はその紙の山を……
タッ……タッ……
「ジャンル分け終了致しました。ご査収ください」
隣に座っていた財務官へと渡した。
「ああ。そこに置いといて」
「承知致しました」
スサッ……
財務官は俺が紙の山を机に置いたのを確認すると……
「じゃあ次は、向こうの棚から資料を取って、必要な財務官に渡して」
俺に新しい仕事を割り振る。
「承りました」
タッ……タッ……
俺は了承すると、部屋の奥に置かれている大量の棚へと向かった。
今は、邸宅の外に出られた日から翌週の平日最終日だった。
俺は徴税官見習いとして雑務と他の財務官の手伝いをしていた。
徴税官見習いになった最初は、新しいシステムのマニュアル作成、なんていうプロジェクトを一任させてもらったが……
やはり、俺の肩書は徴税官"見習い"なので、新人は雑務と手伝いから、ということらしい。
(もう少しで日没だな……明日は休日だけど、何をしようかな)
俺は、部屋の中に入ってくる光を見ると、そう思った。
すると……
ガチャンッ……スゥゥゥゥ……
財務官達が仕事をする、この仕事部屋の扉が開いた。
タッ……タッ……
部屋の中に入ってきたのはティークだった。
(ん?)
俺は、彼が手提げ袋を持っていることに気付いた。
すると……
タッ……タッ……タタッ
ティークは近くにいた財務官のもとへと行った。
スススッ……スッ
「ほら、今月のだ。ご苦労様」
ティークはその財務官のもとへと行くと、手に持っていた手提げ袋の中から小袋を取り出して、その小袋をその財務官に渡した。
……スッ
「有難う御座います」
小袋を受け取った財務官はティークに感謝を告げた。
タッ……タッ……タタッ
スススッ……スッ
「今月のだ。ご苦労様」
そして、ティークは先ほどの財務官の隣にいた別の財務官のもとへと行き、彼にも手提げ袋の中にあった小袋を渡した。
「有難う御座います」
その財務官は感謝を告げる。
タッ……タッ……タタッ
スススッ……スッ
「今月のだ。ご苦労様」
「有難う御座います」
また、ティークは別の財務官に小袋を渡す。
タッ……タッ……タタッ
スススッ……スッ……
「今月のだ。ご苦労様」
ティークは小袋を全ての財務官に渡すまで続けた。
タッ……タッ……タタッ
スススッ……スッ
「今月のだ。ご苦労様」
そして、ティークは最後に俺のもとまで来ると、俺にも小袋を渡してきた。
……スッ
「……有難う御座います」
俺はその小袋を受け取った。
ジャリッ
俺が小袋の膨らんでいる部分を触ると、金属同士が擦れるような音がした。
(これは……もしや)
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