第140話 州都アーテス
タッ……タッ……
街へと入った俺は、とりあえず一番近くにあった大通りを歩く。
タッ……タッ……
タッタッタッタッ!
「そっち持ってけ」
カタカタッカタカタッ
「それでねぇ~」
「えっ!?そうなの~?」
タカタッ!タカタッ!
タタッ……タタッ……
早朝にも関わらず……いや早朝だからこそ大通りには、人とその活気が溢れていた。
カタカタカタカタ……
道の真ん中には馬車が通り……
「そっちも合わせてくれるなら安くしとくよ?」
「いやぁーそんなんいらねぇよ」
道の端には露天商が店を構え……
タッ……タッ……
タッタッタッタッ!
「そうなのよ~」
タタッ……タタッ……
「いやねぇ」
馬車と露天商の間を歩行者が歩いていた。
タッ……タッ……
俺は歩行者の波に揉まれながら歩く。
(結構多いな)
現代の地球の都市部ほどでは無いが、この街の人口密度は少々手狭に感じた。
この州都アーテスの人口は約3万人。
州都アーテスの総面積が約5平方キロメートル(㎢)であることから考えれば、まあそんなものだろう、と納得できる人口密度だった。
タッ……タッ……
俺は手狭に感じる大通りを歩く。
すると……
(視線を感じるな)
俺は周りから視線を向けられていることに気が付いた。
だが……
(まあ、どうせ俺の容姿のことだろう)
俺はそう思って、視線を気にしないことにした。
俺を見る視線は俺を監視するもの……とかではない。
だって、俺に向けられる視線は360度色んなところから向けられているもの……つまり、俺の周囲にいる大抵の人間が俺に目を向けているものだからだ。
これはおそらく、俺の容姿が幼児にしか見えないのに、1人で街を歩いているからだろう。
俺は今、6歳半である。
だが、俺の身長は相変わらず成長が遅いので、97か98センチメートル(cm)くらいしか無い。
だから、俺の年齢を知らない人から見れば、俺は3、4歳の幼児にしか見えないのだ。
そんな幼児が保護者も連れずに街の中を1人で歩いていれば、声は掛けずとも、つい見てしまうことはほとんど必然だろう。
タッタッタッタッ
ただし、俺に話しかけてくる人間もいるとは思うので、俺は話しかけられないように、早歩きで大通りを進んだ。
タッタッタッタッ
俺は街の中に見える様々なものに目移りさせながら、歩いた。
しかし、寄り道はすることなく、真っ直ぐ大通りを歩き続けた。
すると……
タッタッ……タッ……タタッ
俺は足を止めた……否、足を止めることになった。
先ほどまで歩いていた街のエリアが終わり、俺の目の前には"壁"があったからだ。
フッ
俺は目の前の壁を見上げる。
(いやぁ、近くまで来ると10メートルはやっぱりデカいな)
俺の目の前にある壁の大きさは、高さが10メートル超、厚さが10メートル弱あるらしい。
そして、この壁はこの様な大きさにも関わらず、この州都の外周およそ8キロメートル(km)を全て囲っている。
横に広がる壁を見て見ると、街の中にある建物より数倍も大きいせいで、その高さが際立っていた。
……ススッ
俺は目の前の壁に手を触れる。
(変な感じだな)
触れた感じからすると、壁の材質は土のような石のような……イマイチ良く分からない材質だった。
それに、この壁はコンクリートで作ったようにほとんど繋ぎ目が無いのだ。
俺は壁の材質について……
(やはり……文明不相応なものだな)
と思った。
この壁は、人がせっせと石を運んで積み上げたり、土を盛り上げて作ったり……して作られた訳じゃない。
この壁、実は……スキルによって作られたものなのだ。
「城壁建築」:スキル使用者周辺の素材を基に城壁を作ることができる
というスキルを持つ者が、この壁を昔作り上げたらしい。
(まあそうでもしなければ、こんな高さと厚さ、素材の壁を8キロメートル(km)も作るのはここの文明レベルから考えれば、容易じゃないだろう……全く、スキルというのは、ほとほと便利なものだな)
俺は壁を見ながら、そう思った。
タッタッタッタッ
俺は壁に沿って都市の外周を歩く。
すると……
「通って良し」
……カタカタッカタカタッ
視線の先で、1台の馬車が壁の穴を通っていく様子が見えた。
その穴は、この州都の壁に存在する門だった。
この門は南門と呼ばれている。
そして、この州都アーテスの出入り口はこの南門しかない。
西門とか東門とか北門とかは無く、この南門だけが州都アーテスと外を繋ぐ唯一の場所なのである。
何故、州都アーテスには門が1つしか無いのか?
それは、アーテス州の形に起因している。
アーテス州の土地の形を一言で表すと……雫、である。
上の方が尖っていて、下の方が丸みを帯びて膨らんでいる……あの形である。
正確には、落ちる雫、若しくは涙滴やティアドロップと言えば分かるかな?
アーテス州の北が雫の尖っている方であり、南が雫の膨らんでいる方である。
そして、州都アーテスは、雫の尖っている先よりも少し下の方にあり、州都アーテス以外の村や町、都市は雫の膨らんでいる方にあるのだ。
だから、南側にだけ交通の門を開いておけば、不便では無いし、余計な門を作って防衛の穴を作ることも無いのだ。
ただし、俺が生まれたメイシュウ村だけは州都アーテスの北側、つまり雫の尖っている先の部分にあるのだ。
というより、メイシュウ村をアーテス州へと取り込んでいることで、アーテス州の形が雫のような形になっている、と言える。
北門を作らないのは、メイシュウ村との交通のために、わざわざするほどのことでも無いからだろう。
そして、俺は南門を見ると……
タッ……タッタッタッタッ
壁から離れて、街の中へと戻っていく。
わざわざ、門のところまでやってきたのに……
何故、州都の外へと出ないのか?
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「この作品を応援している!」
と思ったら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!
あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!
ブックマークもいただけると幸いです。
よろしくお願いいたします!