第137話 2周要らず
「では恐れながら……」
俺は一言断りを入れてから、質問を始めた。
「以前家政婦長より、使用人見習いからの卒業に掛かる期間は基本的に1、2年だと伺っていたのですが、少し……いえ、相当に早いと存じます。何故私の卒業が早いのでしょうか?」
俺は自分の昇進が普通よりもかなり早い理由を尋ねる。
すると……
「それはお前が優秀だったからだ」
ティークは最初に結論を告げた。
「家政婦長が言っていただろ?早く卒業できる場合もあると」
「はい。確かに、早く卒業できることもあるので励むように、と言われていました」
俺はティークの質問にそう返す。
「お前が半年で使用人見習いを卒業できたのは、お前の仕事が良くて、早く卒業できる場合が適用されたからだ」
ティークは俺が早く使用人見習いを卒業できた理由をそう述べた。
「お前が相当にできるものだから、家政婦長が『1回教えたら直ぐに覚えるどころか、元から知っていた様に仕事の習熟速度が速いので、"2周"すら掛かりませんでした』と言っていたぞ」
ティークは家政婦長の言を言ってきた。
しかし……
「申し訳ございません。"2周"とは何でしょうか?」
俺はティークの言葉の中に意味が良く分からない単語が出てきたので質問した
「ん?聞いてないのか?」
「左様です」
俺は、ティークの知らないのか?という質問に、知らない、と答えた。
「基本的に使用人見習いは家政婦長が仕事を1日で教えて、教わったことを1人で8日やる、というのが使用人見習いの仕事だろ?」
「はい」
「その1日教え8日1人、というのを使用人見習いが覚えるべき全ての仕事でやらせる。全ての仕事が終わったら1周と数えて、1周目の仕事で出来の悪かったものを2周目と言って、もう一度やらせる。こういうことだ」
「そして、2周目でも出来ない仕事があれば3周目、3周目でもダメなら4周目……という風に続けていく。大多数の使用人見習いは、これを2周から4周で終わらせる。だが、お前は1周で全ての仕事に合格点を出したので、使用人見習いを半年で卒業できた。ということだ。」
ティークは俺の質問に答えてくれた。
「なるほど……」
「お前の卒業を知らせに来た家政婦長が、お前のことをどこの御子息ですか?と聞いてきたから、村の子供だ、と言ってやったら、久しぶりに家政婦長の驚く顔を見ることができた。これに関しては、面白かったのでお前に感謝だな」
ティークは思い出したように顔を綻ばせた。
「他に聞きたいことはあるか?」
「はい、御座います。これから私は徴税官見習いになるとのことですが、ティーク様と私はどういった関係になるのでしょうか?」
俺は別の質問をする。
「ああ、俺はアーテス長様の秘書官を務めているが、それと兼任して、アーテス州の財務長官も務めている。そして、財務長官の下には、総合財務部門、会計部門、徴税部門がある。お前は徴税部門に属する。まあ、そういった関係だ。」
「なるほど」
俺とティークは直接の上司部下の関係になるらしい。
「もう質問はないか?」
「はい。御座いません。御答え頂き感謝申し上げます」
「そうか」
タッ……タタッ
ティークはそう言うと、その足を止めた。
そして……
「ちょうど着いたな」
と言う。
ティークの目の前には一つの扉があった。
ガチャンッ……スゥゥゥゥ……
ティークはその扉を開けた。
「よし、入って来い」
タッ……タッ……
ティークはそう言いながら、部屋の中へと入っていった。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺もティークに続いて、部屋の中へと入った。
タッ……タタッ
俺は部屋に入ると、部屋の中を観察し始めた。
(15……いや、30畳だな)
この部屋の広さは30畳ほどであった。
入って手前側には机と椅子がそれぞれ十数個置かれていた。
そして、部屋の広さは30畳ほどと言ったが、その半分は使えなくなっていた。
何故なら……
(……ギチギチ)
部屋の奥側に、棚が大量に置かれており、部屋の真ん中から奥までを埋め尽くしていたからだ。
おそらく、棚には財務に必要な資料が入っているのだと思われる。
カキッ……キキ、カカッカカ……
そして、手前の机と椅子のところには数名の人間がいた。
彼らは、机に向かって何かしらの作業をしているようだった。
すると……
カカ…………タタッ
彼らの内の1人がこちらを見ると、立ち上がった。
そして……
タタッ
タタッ
タタッ
その1人が立ったことに気付いた他の者達も立ち上がった。
そして……
「「「おはようございます」」」
全員がティークに向かって、朝の挨拶をしてきた。
「おはよう」
ティークは彼らに挨拶を返した。
そしてティークは挨拶の直後……
トッ
「こいつは今日から徴税官見習いになった、スイだ」
ティークは俺の肩に手を置いて、彼らに俺を紹介した。
「本日付けで徴税官見習いへと相成りました、スイと申します。"若輩者"ですが、どうぞ宜しく御願い致します」
俺は、ティークの紹介を受けて、彼らにそう告げた。
俺の言葉を受けた彼らは……
「おう……よろしく」
「……よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
まばらな返事をしてきた。
どうやら、俺の容姿を見て、俺が本当に"若輩者"なことに戸惑っているようだ。
「こいつらは、俺の下で働いている総合財務官や会計官、徴税官達だ。まとめて呼ぶときは財務官と呼べ。そして、ここは財務官が働く仕事部屋だ」
ティークはそう告げた。
「じゃあ、お前に仕事内容を教える」
そして、ティークは俺に仕事を教えると言ってきた。
俺の仕事は……
「お前の仕事は……マニュアルの作成だ」
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