第136話 異動
パァァァァ……
居室の中に、夜明けの光が差し込んでくる。
「…………」
俺は、その光を背に浴びながら、ベッドに腰かけていた。
……ジワッ
すると、俺は背中から、汗が滲み出る。
(……暑い)
汗が、服を背中に、張り付かせる。
俺がアーテス邸に来てから……半年が経過した。
俺は、6歳になっていた。
そして、今は、徐々に暑さが煩わしくなってくる、季節だった。
(……今日は、何すんのかなぁ)
俺は暑さを尻目に、別のことを考え始めた。
(もう、ほとんど思いつくような仕事はやったけど……まだあんのかな?)
俺は、この半年の間に、使用人見習いとして、様々な仕事をやってきた。
炊事、洗濯、掃除、だけでなく、接客や事務作業、園芸までやっている。
(まあ、仕事によっては、本職の使用人の雑務を手伝うだけだがな)
それでも、俺は家事使用人がやりそうな、一通りの仕事はやってしまったと思う。
(うーん……)
なので、次に何の仕事が割り振られるのか、予想できなかった。
タッ……タッ……
俺が、次の仕事について考えていると、扉の向こうから、足音が聞こえてきた。
俺は、それを聞くと……
(あれ?家政婦長じゃないな?)
と思った。
(休み明けの日は、家政婦長が新しい仕事を教える日だから、今日は家政婦長が来るはず)
だけど、今俺が聞いている足音は、家政婦長のものではなかった。
(ん?これは……)
コッコッコッ
扉がノックされた。
「只今参ります!」
俺は、扉の向こうへ聞こえるように、返事をした。
タッ……タッ……ガチャッ
俺は扉まで歩き、来訪者を出迎える。
すると……
「…………」
扉の向こうには隊長が立っていた。
「…………」
隊長は、俺が居室から出て来たことを確認すると……
「アーテス長様が、お前を御呼びだ。付いてこい」
タッ……タッ……
一言告げて、歩き出した。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺は隊長に了承を返して、その後を付いて行く。
(これは、もしかして……だとすると、結構早いかな?)
タッ……タッ……タタッ
歩くこと数分、俺と隊長は、1つの部屋の前までやってきた。
この部屋は、俺が初めてアーテス長と会った、面接部屋だった。
「入れ」
到着して早々、隊長は俺に入室を命令する。
(ん?ああ……俺一人か)
俺は、部屋の中へ入ろうとしない隊長を見て、今回は、俺一人で入室する必要があることを悟った。
「畏まりました」
タタッ
俺は、隊長に了承を返すと、自分の体の数倍は大きい扉の前に立った。
そして……
コンッコンッコンッコンッ
「使用人見習いのスイで御座います!参上致しました!」
俺は、分厚い扉の向こうに、しっかりと聞こえるよう、強めのノックと名乗りをした。
すると……
「入れ」
部屋の中から、入室許可の声が聞こえて来た。
「失礼致します!」
ゴゴッ……スゥゥゥゥ……
俺は、扉を開いて、中へと入る。
タッ……タッ……
最初に来た時と同じように、アーテス長が、部屋の中心に置かれた執務机に座っていた。
タッ……タッ……
しかし、最初の時と、違うことがあった。
それは……
「…………」
アーテス長の横で、控えるようにして立っている、ティークがいたことと、面接の時に俺が座った、みすぼらしい椅子が置かれていなかったことだ。
タッ……タッ……タタッ
広い部屋の中を歩くこと十数秒、俺はアーテス長から4メートル(m)ほど離れた場所で、その足を止めた。
そして……
ススススッ
俺はアーテス長に対し、跪き、頭を下げた。
「使用人見習いのスイ、只今参上致しました。アーテス長様、ご機嫌麗しゅう存じます」
「うむ。楽にしていいぞ」
スッ
俺は、アーテス長の言葉を受けて、少しだけ頭を上げた。
ただし、アーテス長の方は、直接見ないようにして。
すると……
「早速だが、今日、お前を呼び出したのは、お前の異動が決まったからだ」
アーテス長は、いきなり本題を話し始めた。
俺はアーテス長の言葉を聞くと……
(やっぱり)
と思った。
「お前の役職を本日付けで、"使用人見習い"から"徴税官見習い"へと変更する」
アーテス長は、俺の役職が変わったことを告げる。
そして……
「以上だ。退室しろ」
話が終わった。
「承りました。失礼致します」
ススススッ……タタッ
俺は、立ち上がって、回れ右をした。
タッ……タッ……
そして、部屋を後にした。
タッ……タッ……
「…………」
部屋の外に出ると、部屋の前に隊長がいた。
チラッ
隊長は、俺が退室したことを視線で確認したが、特に何かを言ったり、どこかへと歩き出したりするわけでは無かった。
なので……
タタッ
俺も、隊長の傍で"待つ"ことにした。
ゴゴッ……スゥゥゥゥ……
1分ほど経つと、面接部屋の扉が開かれた。
タッ……タッ……
部屋の中から、ティークが出てきた。
タッ……タタッ
ティークは俺と隊長のもとまで、歩いてきた。
すると……
「付いてこい」
タッ……タッ……
ティークは、一言告げて、歩き出した。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺は、ティークの後を付いて行く。
タッ……タッ……
「お前は、徴税官見習いになった」
ティークの後を付いて歩いていると、不意に、ティークが俺に話しかけてきた。
「徴税官見習いになったお前の管轄は、家政婦長から俺に移る」
「詳しい仕事内容は、仕事部屋に付いたら話すとしよう……さて、何か聞きたいことがあれば、聞いていいぞ」
ティークは、質問を認める。
そして……
「では、恐れながら……」
俺は、質問を始める。
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