第128話 幼児使用人
隊長が居なくなったことで、図書室に俺1人……となった訳では無かった。
スススゥゥゥゥゥ……ガチャンッ
扉の方を見ると、護衛の格好をした1人の男が図書室の扉を閉めていた。
タッ……タタッ
その男は扉を閉めると、扉の真横の壁に休めの姿勢で立った。
どうやら、この男はこの図書室の護衛兼俺の監視のようだ。
フッ
俺は護衛の男から目を離し、男が立っている壁とは別の壁を見る。
すると、そこには長机と椅子が置かれており、その椅子には護衛とは別の男が座っていた。
その男は本を片手に持って、それを読んでいた。
タッ……タッ……
俺は本を読んでいる男のもとへと向かって歩き出した。
タッ……タタッ
俺は男のもとへと辿り着くと……
「アーテス長様よりこの図書室にある書物の閲覧許可を頂戴致しました、使用人見習いのスイと申します。休日と月休暇にこちらを利用させて頂きたいと考えております。どうぞ宜しくお願い致します」
その男に名乗りとこれからこの図書室で世話になることを告げた。
しかし……
「……ああ」
男は俺には目を向けず、本に目を落としたまま、俺に不愛想な返事だけしてきた。
「失礼致しました」
俺はそんな男にそう返した。
タッ……タッ……タタッ
俺は本を読んでいた男から離れると、次は扉の横に立っている護衛のところへ行った。
そして……
「アーテス長様よりこの図書室にある書物の閲覧許可を頂戴致しました、使用人見習いのスイと申します。休日と月休暇にこちらを利用させて頂きたいと考えております。どうぞ宜しくお願い致します」
護衛の男にも名乗りとこれから世話になることを告げた。
すると……
「おおっ!よろしくな!俺はドリトっつうんだ」
護衛の男、もといドリトは結構気さくな感じで応じてくれた上、自分の名前まで教えてくれた。
「ドリト様、御名前を教えていただけるとは感謝の念に堪えません」
俺は名前を教えてくれたことに礼を告げる。
「いやいや、気にすんな!」
「恐縮です」
俺はドリトの気にするなという言葉にそう返す。
「お前だろ?"幼児使用人"っつうのは?」
「幼児使用人?」
すると、ドリトが急にそんなことを言ってきた。
「ああ、俺達使用人の間で話題になってるぜ?3、4歳くらいの幼児が使用人見習いをしてるってな。それ……お前のことだろ?」
どうやら、俺のことが使用人の間で話題になっているらしい。
(まあ、そりゃそうか。俺5歳だし、その上身長は3、4歳の平均くらいに小さいしな)
しかも「幼児使用人」という安直なあだ名まで付けられているようだ。
俺が自分に付いたあだ名について考えていると……
「7歳くらいになると、どこぞの坊ちゃんが社会勉強だとか奉仕だとかで、この邸宅で使用人になることがあるが、お前みたいな"幼児"が使用人になるのは聞いたことがねぇな」
ドリトがそう言ってきた。
どうやら、大人だけでなく子供もアーテスに従事することがあるようだ。
だが、子供では無く俺みたいな"幼児"が従事することはほとんど無いらしい。
そのせいで、使用人達が俺の事を物珍しく感じているみたいだ。
(まあ、俺はもうすぐ6歳になるから、幼児じゃなくて子供に近いけどな)
俺は心の中でそう思いつつ……
「なるほど。確かに言われてみればそうですね」
ドリトにそう返した。
「『言われてみれば』って…………ハハハッ!」
ドリトは俺の言葉に笑う。
「言われなくても気づくだろ!ハハッ!というかお前みたな幼児からしたらもっと違う感想があるだろ!ハハハ!」
ドリトは再び笑った。
「ハハハ!お前中々面白いな!……あぁ、いやすまんすまん。ここに来るってことは何か読みたい本でもあるんだろ?俺と話してちゃぁ、読みたいもんを読む時間が無くなっちまうな」
ドリトは笑いを止めると、そう言ってきた。
「いえいえ。ドリト様とお話できることも貴重な経験です故、お気になさることなど御座いません」
俺は気にする必要は無いと答える。
「おっ、そうか?だがまあ程々にしておこう。しかし、お前と話すと幼児を相手にしているとは思えないな……お前が使用人になれたのはそういうとこなのか?……まあそれはいいか」
ドリトはそう言うと……
「あっ、そうだ。さっき第三隊の隊長……お前と一緒に来た護衛がここの使い方について色々説明してたと思うが、一応俺からも追加の説明をしといてやろう」
続けて、俺にこの図書室の追加説明をしてくれると言う。
「俺はこの図書室の護衛の任務に就いているからある程度のことは分かるから、困ったら俺に聞いてくれても構わない。ただし、俺だと知らないことや俺の権利ではできないことが結構ある。だから、そういうのを聞きたい時はあそこにいる司書に聞いてくれ」
ドリトはそう言いながら、俺が先ほど挨拶をした本を読んでいる男に目線を向ける。
どうやら、あの男はこの図書室の司書をやっているらしい。
「あの司書は本を読んでいる時は不愛想な上、邪魔されると機嫌を損ねるから、あの司書が本を読んでいないタイミングで上手いこと話しかけると良いぞ」
ドリトはアドバイスをくれた。
(なるほど、礼儀作法と思って挨拶をしたつもりだったが、あの司書相手では逆効果になっていたかもしれないな)
「畏まりました。わざわざ教えて頂き有難う御座います」
俺はドリトに礼を告げる。
「ああ、気にするな」
「それじゃあ俺はここに立ってるけど、お前は好きに本を読むと良い」
「はい。有難う御座います」
タッ……タッ……
俺はドリトから背を向けて、部屋の中央……この図書室に置かれた本が広く見渡せる場所に来る。
そして、俺はこの図書室の壁に整然と並べられた本を見ながら……
(……遂に来たな)
そう思った。
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