第126話 9日終了
「…………はぁ」
俺は自分に与えられた三畳一間の部屋でくつろいでいた。
使用人見習いとしての仕事を始めてから9日が経過した。
その間、俺は家政婦長に言われた通り、廊下の掃除だけをしていた。
はっきり言って、単純作業なので無心になって、ひたすら掃除をするだけの仕事だった。
そして、この邸宅に来てから11日が経っていたが、何か重大な発見がある……という訳では無かった。
(だって、この部屋と掃除用具部屋にしか行けないからな)
(それでもまあ、一応この邸宅にある全ての廊下を掃除することはできたから、この邸宅の大まかな間取りは覚えたがな。というか、最初に廊下の掃除をさせたのは、今後の仕事のために、この邸宅の間取りを俺に覚えさせたかったからだろう)
1日目にこの三畳一間の部屋へとやって来た時、家政婦長は他の部屋に行くなと俺に言ってきた。
さらに、家政婦長は俺が今いる部屋がある廊下、その廊下に存在する他の部屋にも行ってはダメだと言ってきた。
それが何故なのか、この9日で大体わかった。
それは、俺以外にこの廊下にある他の部屋に住んでいる人間が全員女だからだ。
俺はこの9日間でこの廊下にある他の部屋から誰が出入りするのかを観察したのだが、出入りしていたのは全員女だった。
その女達は家政婦長と同じ様な厳粛なメイド服を着ていたので、彼女達も使用人の身分ということだろう。
そして、この廊下には数十の部屋があるのだが、男は俺だけだった。
家政婦長が俺に他の部屋に行くなと言ってきたのは、男女のアレコレを未然に防ぐためだろう。
その証拠に、俺は他の部屋にはいけないが、その他の部屋に住んでいる女同士は普通に互いの部屋に行ったり来たりして交流している。
(まあ、ただ単に女達が規律違反をしているだけなのかもしれないがな。この廊下を見張っている奴とかいないみたいだし)
ガタッ……ギキィ……
タッ……タッ……
俺が他の部屋に住む女達について考えていると、物音がした。
その音はこの部屋の壁から聞こえてきた。
(薄いんだよなぁ)
そして、ここの部屋はとにかく壁が薄い。
両隣の部屋の生活音が丸聞こえなのである。
タッ……タッ……
ダタンッ……トトッ
その薄さはかなりのもので、静かな夜になれば隣の住人の息遣いが聞こえてくるほどである。
(もしかしたら、隣の部屋の物音だけじゃなくて、そのさらに向こう……又隣の物音も聞こえてきてるかもしれないな)
ダタッ……ガタガタッ
ギッ……トットッ……
両隣からの物音が聞こえ続ける。
(……正直、睡眠妨害だから静かにして欲しいのだが?)
バファ……
俺はそう思いながら、ベッドに横になった。
(何かするにしても……せめて俺が寝付いてからにしてくれ)
寝る時に隣の部屋から聞こえてくる物音がうるさくて、眠りに就くのが遅くなるのは、この9日間で何度も経験している。
正直、それが日常になりつつあった。
俺は睡眠妨害を受けつつも寝ることに励んだ。
パァァァァ
小窓から太陽の光が差し込んできた。
「…………」
いつもの睡眠妨害を受けつつも、俺はいつも通りの夜明け前に起床し、今はベッドの上に座っていた。
しかし、既に夜明けが来たというのに俺は部屋でまったりとしていた。
これまでは夜明けと同時に部屋を出て、掃除用具部屋に行っていた。
だが今日は部屋から出なかった。
タッ……タッ……
夜明けから1時間が経過した頃、扉の向こうから足音が聞こえて来た。
すると……
コッコッコッ
この部屋の扉がノックされた。
「ただいま参ります!」
俺は扉の向こうに聞こえるように、ノックに対して返事をした。
タッ……タッ……ガチャッ
そして、扉を開けると……
「…………」
そこには、村からこの邸宅まで一緒にやってきた隊長がいた。
隊長は俺が部屋から出て来たことを確認すると……
「付いてこい」
俺に付いてくるように言った。
昨日……仕事が終わった後、俺のところに隊長がやってきた。
すると彼は、明日俺の部屋に行くからどこにも行かずに待っていろ、と言ってきた。
なので、今日俺は掃除用具部屋に行かず、部屋で待っていた。
「付いてこい」
そして今、隊長は俺の部屋にやってくると、俺に付いてくるように言った。
タッ……タッ……
隊長は歩き出す。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺も彼の後に付いて行く。
タッ……タッ……タタッ
歩くこと数分、隊長は1つの扉の前でその足を止めた。
そして……
ガチャ……ガッ、スススゥゥゥゥゥ……
隊長はその扉を開き始めた。
その扉は荘厳な音を立てながら開いていく。
スゥゥゥゥ……
そして、扉は開かれた。
タッ……タッ……
隊長は開かれた扉の先の部屋へと入っていく。
「来い」
そして、首だけ俺の方に向けると、俺にも部屋に入ってくるように言ってきた。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺もその言葉に従い、部屋へと入っていく。
タッ……タタッ
そして、俺と隊長は部屋の中へと入った。
(おぉ、これは……)
その部屋は……
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