第125話 三畳一間
「今日はここまでとします」
近くの窓から差し込む光が、もう直ぐ日没になるのを示す頃、家政婦長がそう言ってきた。
「有難う御座いました」
俺は家政婦長に礼を告げた。
俺の使用人見習いとしての初仕事が終わった。
掃除を始める前、家政婦長がこの邸宅にある全ての廊下を掃除することが俺の仕事だと言っていた。
だが、俺と家政婦長が掃除した場所は1階の廊下の一部だけだった。
俺達は、そこだけしかやらなかったのではなく、できなかったのだ。
俺と家政婦長が掃除をしていた時間は12時間を超えている。
それでも、この邸宅にある全ての廊下を掃除できなかったのはこの邸宅が非常に広いからである。
その大きさは郊外に建設される大型のショッピングセンター……よりは小さいが、街の中にあるデパートくらいの大きさはあった。
そのせいで、1日掃除した程度では全ての廊下を掃除することは叶わなかったのだ。
おそらく、家政婦長は今日含めた9日で全ての廊下の掃除を俺にやらせようとしているのだろう。
あるいは、9日で終わらせられるのか否かというところで、俺の実力を測っているのかもしれない。
(使用人見習いからの卒業は実力でも測るらしいからな)
カタッ
「では、付いてきなさい」
タッ……タッ……
掃除用具を片付けた家政婦長は俺に付いてくるように言って、歩き始めた。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺は家政婦長の後を付いて行く。
タッ……タッ……タタッ
そして、家政婦長に付いてやってきたのは1つの廊下であった。
この廊下は俺が昨日と一昨日泊まった客間がある廊下では無かった。
俺はこの廊下を見ると……
(扉多っ)
と思った。
この廊下はアーテス邸にある他の廊下よりも圧倒的に扉の数が多かった。
普通の廊下は3メートル(m)から10メートル(m)くらいの間隔が扉同士にあった。
しかし、この廊下の扉同士の間隔は2メートル(m)に届かないくらいの距離しか無く、扉同士が廊下の中で窮屈に詰められていた。
そして今、俺と家政婦長はこの廊下にある1つの扉の前に立っていた。
ガチャッ
すると、家政婦長はその扉を開けた。
「入りなさい」
そして、家政婦長は俺にその扉の部屋へと入るように言ってきた。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺は扉をくぐって部屋の中へと入っていく。
タタッ
(……狭)
俺は部屋に入ると直ぐ、部屋の狭さに目が行った。
この部屋の広さは3畳よりも小さかった。
(まあ、あれだけ廊下の扉同士が狭いんだ。こうなるだろうな)
部屋の内装を見ると、部屋の中にはシングルよりも一回り小さいベッドと小さな机、小さな椅子が置かれているだけだった。
「今日からここがあなたの居室になります」
俺が部屋を観察していると、家政婦長がそう言ってきた。
俺はそれを聞くと……
(なるほど昨日までのあの客間は一時的な部屋だったということだな)
と思った。
(この狭さと内装だと両親の家にある俺の部屋からほとんどグレードアップしてないな……というより狭さに関してはダウングレードだ。まあ、ベッドが少し良いような気がするかな?)
俺が部屋の程度に思いを巡らせていると……
「では、明日からはあなた1人で掃除用具部屋へと行き、モップやその他必要な掃除用具を取って、今日と同じ様に廊下の掃除をしなさい」
家政婦長が明日からの俺の予定を話し始めた。
「基本的には、夜明けと同時にこの部屋を出て、速やかに掃除を始めなさい。そして……」
家政婦長は部屋の一面を指さす。
そこには、外の光をわずかに入れるためだけの小窓があった。
「その小窓から差し込む光で夜明けを確認するように」
「それから、掃除中にも何度か言いましたが、用を足す以外の用事でこの部屋から許可無く出ないこと。そして、この部屋以外の部屋に許可なく入らないこと、これに関してはこの廊下にある他の部屋も同様です」
俺は家政婦長の説明に対して……
「畏まりました」
了承を返した。
「それでは、明日からしっかりと1人でやるように」
タッ……タッ……ガチャッ
家政婦長はそう言って、部屋から出て行き、部屋の扉を閉めた。
タッ……キキッ
俺は家政婦長が出て行ったことを確認すると、とりあえずベッドに腰かけた。
そして……
(はぁ……検証できないなぁ)
俺はここ数日出来ていない能力の検証に思いを馳せた。
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