第123話 天才とも言えるし、早熟とも言える
「あれは"スキル"か?」
先ほどまでスイとアーテス長が面接をしていた部屋の中で、アーテス長はティークにそう問いかけた。
ティークはその問いに対して……
「まず前提として、これから話す内容は断定できないものであることを先にお伝え致します」
と告げてから語り始めた。
「あの者……スイが天才であることは確かです」
「ただし、それは子供だからです」
「メイシュウ村からここまであの者と話してみたところ、私はあの者の知性が普通の大人と同等程度のものに感じました」
「つまり、あの者は子供という皮を被っているせいで一見おかしく見えるだけなのだと思います」
「しかし、村での聴取やこの邸宅に来る道中で会話してみたところ、あの者は1歳の頃から物心が付いていたようです」
「なので、私の所感を述べるのであれば、天才が半分、"早熟系のスキル"が半分、といったところでしょうか」
ティークはそう結論付けた。
「……なるほど」
アーテス長はティークの説明に対して、そう告げる。
続けて……
「だが、テンプレートや予想収穫量を編み出したのは只の大人の知性とは異なる、天才と呼べるのではないか?」
アーテス長はティークにそう尋ねる。
それに対してティークは……
「いえ、それらも子供だから天才に見える要素だと思います」
否と答える。
「テンプレートや予想収穫量を用いた虚偽報告の是正……これらはアーテス長様や私でも思いつける、そんな陳腐なことに感じるのです」
「思い付けなかった身分で言うのは傲慢なのですが、それらは何かきっかけや気付きがあれば私達でも気付ける可能性があった、その程度の考えだったと思います」
「やはり、それらもあの者が子供だから強調されているに過ぎない発想だと思います。なので、あの者を天才だと断定するのも、"スキルに依る影響"だと断定するのも些か早計でしょう」
ティークの意見を聞いたアーテス長は……
「なるほど……では間諜の可能性はどうだ?」
頷いた後、また別のことをティークに尋ねる。
「それにつきましては、あの者の出身村の村長からあの者の素性を聞き出しましたが、出生の段階から特に不自然な点は無かったので、まずあり得ないでしょう」
ティークはアーテス長の質問にそう答えた。
「うむ。それなら良い。ただ……」
アーテス長は一呼吸置くと……
「あの者に"私のスキル"が効いている感じがしなかった」
と言う。
「ああ……時々効かないことがありますね」
「悪いな。わざわざジョーマを"誘き寄せてもらった"のに」
「いえ、ジョーマの皮の入手と護衛の実地訓練のついでのついでなので、わざわざ時間を割いた訳では無いので、お気になさらず」
「そうか。なら気にしないでおこう」
「それで……おそらくあの者にアーテス長様のスキルが効いていない訳ですが、奉仕は取りやめになられますか?」
ティークはアーテス長にそう尋ねる。
「いや。お前があの者の間諜の可能性を肯定したら取りやめにしようかと思ったが、そうでは無いのだろ?」
「はい」
「なら、私から言うことは特に無い。元々お前が決めたことだ、私がとやかく言う事でもない。ただ私としてはスキルを掛けておいて保険としたかっただけだ」
「畏まりました」
ティークがそう返事をすると、2人の会話は終了した。
「…………」
俺はベッドの上に転がっていた。
アーテス長との面接が終わると、俺は隊長に昨日泊まった客間まで連れてこられた。
そして、客間で待機するように言われた。
俺はその客間で待っているのだが、今は面接から丸一日が経過して翌日の夜明けになっていた。
(ただ待ってろと言われただけなのに、丸一日経っているんだが)
俺は待ちぼうけに辟易としていた。
…………ッ
(ん?)
しかし、扉の向こうに人の気配を感じた。
タッ
俺はベッドから起き上がり、床へと立った。
すると……
ガッ……ススゥゥゥ……
客間の扉が開かれた。
タッ……タッ……
そして、1人の人物がこの客間に入ってきた。
その人物はティークでも隊長でもアーテス長でも無かった。
その人物は……
「おはようございます」
女だった。
そして、その女はメイド服を着ていた。
メイド服と言っても、フリルとかが大量に付いたファッションメイド服では無く、厳粛で面白味の無い白黒のメイド服だった。
本場のメイドが着るメイド服と言えば分かるだろう。
そして、その服を着るのは……
(40代……いや、30代くらいだな)
30代くらいの愛想が無さそうで、パッとしない女だった。
一瞬40代くらいに見えたが、どうやら今は化粧をしていないからそう見えただけのようだ。
「おはようございます」
俺は女に挨拶を返した。
「……あなたの奉仕が決まりました」
そして、唐突に女は俺にそう言ってきた。
「アーテス長様があなたの奉仕希望を受諾されました」
どうやら、俺はここで働けるようになったらしい。
そして……
「私はフィーセ、このアーテス邸で家政婦長をしている者です。そして、これからあなたの教育担当を務めます」
女はそう言ってきた。
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