第122話 心を揺さぶる圧迫面接
「私はアーテス・リ・アーテス。このアーテスを統治するアーテス長である」
俺の目の前にいる男は、自分のことをアーテス長であると名乗ってきた。
すると……
「お前の出身村であるメイシュウ村では、ここ2年で異常な税収増加、もとい収穫量増加が発生した」
アーテス長は名乗りから間髪を入れずに、メイシュウ村の収穫量増加について話し始めた。
そして……
「その原因について説明せよ」
俺に収穫量増加の原因を説明しろと言ってきた。
「畏まりました」
俺はアーテス長からの命令に対して了承を返すと……
「まずは……」
アーテス長に収穫量増加の説明を始めた。
「……ということで御座います」
俺はアーテス長への説明を終える。
俺は徴税報告の場でティークに説明した内容と同じ内容でアーテス長に説明した。
「そうか」
俺の説明を聞いたアーテス長は、俺の説明に対して一言告げるだけだった。
そして……
「お前はなぜここに来た?」
アーテス長は話を変えた。
「アーテス長様の下で奉仕させて頂くため、そして書物の閲覧許可を頂くため、私はアーテス長様の下へと参りました」
俺はアーテス長の質問に淀みなく答える。
「私の下でお前を奉仕させると、私にどんなメリットがある?」
アーテス長は質問を重ねる。
「先ほどご説明させて頂いた、虚偽報告の是正と予防方法をお教え致せます」
俺はティークに話した時と同じ回答を、メリットとして挙げた。
「ではなぜ俺の下に来る?働くなり、書物を読むなり、他の所でもできるのではないか?」
アーテス長はさらに質問してくる。
俺は「なぜ他の所じゃダメなんだ?」というアーテス長の質問を聞くと……
(うわぁ……圧迫面接か……)
と思った。
(俺みたいな村人が他の選択肢なんて取れるわけが無い。そして、それがアーテス長の下で働くことと本を読むことを選んだ理由なのだ。他の理由など大して無い)
しかし、そんなことはアーテス長も分かっているはずである。
(それなのに、そんなことを聞いてくるって完全に俺の思考を乱すための圧迫面接なんだよなぁ……)
俺はアーテス長が圧迫面接を始めたことを察した。
だが……
「アーテス長様の下を切望させて頂いた理由はティーク様に御座います」
それはそれとして、回答はする。
「メイシュウ村での徴税報告の場で、私はティーク様の聡明さを即座に感じ取りました。ティーク様のような聡明な方が御所属なされているアーテス長様も必ずや聡明であると確信するに至り、私はアーテス長様の下を切望しているので御座います。そして、今まさにアーテス長様の聡明さをひしひしと感じております」
俺はティークの知性を引き合いに出して、回答した。
俺の答えを聞いたアーテス長は……
「…………」
黙って考え込むような顔をし始めた。
「…………」
「…………」
アーテス長が黙り込んでから30秒ほどが経過した。
すると……
「入室後の挨拶」
アーテス長は唐突に喋り始めた。
「着席時の是非、長い回答の事前申告、その他諸々……」
アーテス長はそこまで言うと、口を一瞬閉じる。
そして……
「お前は俺に多数の無礼を働いている」
アーテス長はこの部屋に入ってからの俺の無作法、無礼を急に指摘してきた。
すると……
スンッ!
俺の首元に鈍色の物体が突き付けられた。
それは、この部屋に控えていた護衛の1人が俺に向けた剣であった。
しかも、俺に向けられている剣はそれだけではなく、この部屋に控えている護衛全員の剣が俺に向けられていた。
そして……
「それらの無礼はお前を死罪とするに値する」
アーテス長は俺に唐突の有罪判決を下してきた。
フッ!
アーテス長が判決を言った途端、俺の首元に剣を突き付けていた護衛がその剣を振り上げて上段の構えを取った。
そして……
スンッッ!!!
護衛はその剣を俺の首に向けて叩き下ろしてきた。
しかし……
スッ!
その剣は俺の首元に触れた瞬間に止まった。
「ただ、値すると言っても俺の癇癪次第。今回は赦そう」
アーテス長がそう言うと……
スッ
護衛達は俺に向けていた剣を下げた。
護衛全員が剣を鞘にしまうと……
「退室しろ」
アーテス長は採用の合否を言うことなく、俺にこの部屋からの退出を命じた。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺はアーテス長の命令に従い、回れ右して扉まで向かった。
タッ……タタッ
「失礼致しました」
タッ……タッ……
俺は扉の下まで辿り着くと、後ろを振り返り、アーテス長へと退室の挨拶をしてから退室した。
タッ……タタッ
廊下に出ると、そこにはティークと隊長がいた。
ティークは俺が部屋から出たことを確認すると……
タッ……タッ……
俺と入れ替わるように部屋の中へと入っていった。
そして……
「付いてこい」
隊長は俺に付いてくるように言って歩き出した。
タッ……タッ……
タッ……タッ……
俺は隊長の後ろへと付いて、アーテス長と面接をした部屋から遠ざかっていった。
俺は歩きながら……
(下手な芝居だったな)
そう思った。
アーテス長は俺に圧迫面接をしたり、俺のマナー違反を指摘したり、それを死罪に処そうとしたりしてきた。
だが……
(芝居にしか見えない)
俺にとってそれらは芝居にしか見えなかった。
まず、この面接はティークが俺の採用を許している時点で最終確認以外の要素が無い。
だから、特別な何かをする必要は特に無い。
なので、俺は護衛に剣を向けられた時、殺されることは無いだろうと思った。
それでも殺されることが無いと確信することまでできたのは、そもそも虚偽報告の是正の具体的な方法をまだ誰にも教えてないのに殺されるわけが無い、と思っていたからである。
金のなる木を切り倒すという愚行はさすがにしないだろう。
アーテス長は俺と話したいだけなら、わざわざあんなことをする必要なんか無かった。
それでもあんなことをしてきたのは、何か知りたいこと或いはやりたいことでもあったからなのだろう。
(何がしたかったのかねぇ)
俺はそう思いながら、隊長の後ろについて歩いていく。
「…………」
「…………」
スイが居なくなった後の面接部屋。
そこには、アーテス長、ティーク、そしてスイが居た時よりも少ない数の護衛が数人だけいた。
そして……
「……あれは"スキル"か?」
アーテス長がそう口火を切った。
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