第12話 感情は身勝手
(あれは、そう……夏休みの出来事、だったな)
(突然、教師から連絡が来るから、何かと思えば、俺が提出した宿題を、他の紙と間違えて捨ててしまった、とか言ってきた)
(その上、「悪いけど、もう一度提出してくれないか?」とか言ってきやがった)
(なんで、お前のミス、という名のケツを、俺が拭かなければならないんだ?と思った)
(もう一回提出するなら、宿題を、もう一度最初から書かなきゃいけないし、それをクソ熱い中、登校して持っていかなきゃならなかった)
(そして、本当にそれらをやらされて……あぁ、ムカついてきた)
(ムカついてきた、ムカついてきた、すんげぇムカついてきた)
(よし、この怒りを糧にして、もう一度……)
「ぶんっ!!んっ!ぶっっ!!」
(ふんっ!!んっ!ふっっ!!)
俺は、飛翔現象を起こそうと、念じる。
しかし……
(はっ!!はぁぁ!!かっ、はぁ…………)
(だめだ……ぜんぜん、何も、起こらん)
何も起こらなかった。
(んー……、怒ることで、ある程度、感情を高めることができた)
(だが、"ある程度"だった)
(黒い奴が近付いてきた時の、昂ぶりには、全然、届いてない)
(過去を回想する程度では、あの時の感情の再現には、ほど遠い、ってことか?)
(でもなぁ……。動けない俺ができることって、過去回想くらい、なんだよなぁ)
(なんか他に、俺の感情を、激しく揺さぶるような出来事は、ないものか……あっ、今の状況、とか?)
(赤ん坊にされて、黒い奴に顔を這われそうになって、その後、よく分からない飛翔現象に巻き込まれて……)
(普通に考えて、今までの状況って、感情を昂らせる、格好の要因だな)
(だけど……なんか、怒りとか、不満とか、そういう感情が、現状には、あまり湧かないんだよな~)
(今まさに、悩んでいる超常現象は、ただ悩んでいるだけ、って感じだし)
(黒い奴は、飛翔現象のせいで、奴に対する、怒りとか、嫌悪感とかは、ほとんど消えてしまったし)
(それと、俺が赤ん坊にされたこと、については……なんというか、その……うまく、言えない上、完全に、おかしいことなんだが……)
(俺は、意識が覚醒した時には、すでに、赤ん坊になったことを納得していた……というか、なんというか…………)
(ん~……いまいち、よくわからん)
(まあ、それよりも……)
(今、重要なのは、どうやって感情を高めるのか、ということだ)
(……だがしかし)
(ん~……。全然思いつかん。感情っていうのは、余計な時に昂るくせに、必要な時に、微塵も湧きあがらないもの、なんだな)
(ほんと、身勝手、だよな)
(まあ、感情に文句を言っても仕方ない)
(とりあえず、今は、試行錯誤するしかないか)
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