第112話 馬車で悶着
フ゛ル゛ル゛ルルルッッ
1頭の馬が鳴いた。
フ゛ルルルッ
もう1頭の馬も鳴いた。
目の前の馬車には2頭の馬が付けられていた。
(…………)
俺は目の前に止まっている馬車を見て、唖然としていた。
(この村の文明が低いとはいえ……ここまでとは)
俺はそう思った。
この村の文明レベルは低い。
この事実はこの体に生まれてからすぐに気付いたことだ。
だが、さすがに複数の村を抱えているアーテスという自治体クラスであれば、文明レベルがある程度は現代のものに近いだろう、と俺は考えていた。
しかし、その考えが全然違ったことを俺は思い知らされていた。
(さすがに、"ティークくらい"なら自動車で来ると思ったんだけどなぁ……)
俺は、この村を離れれば、現代文明との隔絶とおさらばできると思っていた。
そして、その最初の一歩として「ティークくらいの身分の者なら自動車でこの村に来る」という考えがあった。
しかし、ティークがこの村に来るために使ったのは、まさかの馬車であった。
(いつもの徴税官が馬車を使ってるのは知ってたんだけどなぁ……)
実は、俺はいつもの徴税官が馬車で来ていることは知っていた。
だが、自治体の長の甥くらいなら、さすがに自動車で来るものだと思っていた。
(もしかして、この道は自動車では来られない特別な理由があるのか?それとも……もっと別の理由でもあるのか?)
そんな馬車の横には……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
この場所まで一緒に歩いてきた8人の護衛とは別の4人がいた。
その4人も8人の護衛と同じ格好をしていた。
どうやら、この4人も護衛のようである。
おそらく、この場所で馬車を守りながら待機していたのだろう。
つまり、これ以上の合流が無ければ、ティークと護衛12人の計13人でこの村にやってきたらしい。
(随分な大所帯だな)
俺はそう思った。
俺が馬車を見ながら立ち止まっていると……
キィッ……
「どうぞ」
護衛の1人が馬車の扉を開いた。
ザッ……ザッ……ダタッ
そして、ティークがその扉から馬車に乗り込んでいった。
ザッ……ザッ……ダタッ
「失礼致します」
そして、馬車の扉を開いた護衛も馬車に乗り込んだ。
「…………」
俺がその様子を黙って見ていると……
「何をしている?お前も早く乗れ」
ティークが俺も馬車に乗り込むように言ってきた。
ザッ……
その命令に応えて、俺も馬車に乗り込むために足を進めようとした時……
「お待ちください」
先ほど馬車に乗り込んだ護衛がティークに待ったをかけた。
「このような者をティーク様と同じ車内に乗せるのは如何なものでしょうか?」
その護衛は俺のことを馬車に乗せない方が良いのではないか?とティークに告げた。
(ん?……ああ、そういうことか。馬車はこの1台だけだからな)
この場所に止められている馬車はティークが乗り込んだ1台だけであった。
その1台も大した大きさではなく、おそらく定員が4人の馬車であった。
では、ティーク以外の護衛の12人はどうするのか?
それは、歩くしか無いだろう。
馬車の中で護衛をするためであれば、護衛の1人か2人はティークと一緒に乗れると思う。
だが、残りの10人か11人はこの馬車に並走する形になるだろう。
つまり、この馬車に乗れるのがティークのような身分の高い者と、そういった者の護衛だけだから、この護衛は俺の乗車に待ったをかけたのだろう。
(そういうの面倒だなぁ……そもそも俺がアーテスまでの道を、)
「何を言っている?それがアーテスまでの道を歩いて踏破できるわけないだろ」
ティークは護衛の意見にそう反論した。
「それを歩かせて、途中で倒れられでもしたら結局は馬車に乗せることになる。だから、それを馬車に乗せることに変更は無い」
ティークは俺の同乗を変更することは無かった。
「出過ぎた真似を致しました。申し訳御座いません」
護衛は自分の発言を謝罪し、引き下がった。
「おい、さっさと乗れ」
ティークは、護衛から俺に視線を戻すと、再度俺に馬車に乗り込むように言ってきた。
「畏まりました」
ザッ……ザッ……
俺はティークの命令を受けて、ようやく馬車に向かって歩き出した。
ザザッ
そして、馬車の前に辿り着くと……
「失礼致します」
ダタッ……タッ
一言断りを入れてから、馬車のステップに足をかけて、車内へと乗り込んだ。
「…………」
車内には、ソファのような席が対面で向かい合うように2つあった。
ティークは片方の席のど真ん中に座っていた。
護衛はその反対の席のど真ん中に座っていた。
タッ……ススッ……
しかし、護衛は俺が車内に入ってくるのを確認すると、それまで座っていた席の奥側に座り直した。
俺はそれを確認すると……
タッ……タタッ
「失礼致します」
スッ
護衛の隣に座った。
チラッ
(なるほど、お前が車内での護衛担当か)
俺は隣に座っている護衛を見て、そう思った。
そして……
「ティーク様。御心遣い深謝致します」
俺はティークに同乗させてくれたことへの感謝を伝えた。
「構わん」
ティークはそう応えた。
ゴタッ、タタッ
ティーク、俺、護衛の1人が乗車すると、外に居た護衛の1人がこの馬車の御者台に乗った。
シュスッ
そして、2頭の馬の手綱を握った。
シュスス…………パチッ
護衛はその手綱を動かした。
すると……
フ゛ルルルッ
フフ゛ルルッ
2頭の馬がその足を動かし始めた。
ガッ……カカカカカ
そして、馬車も動き始めた。
カカカタカカカカタ……
動き出した馬車はすぐにこの村から離れていく。
「…………」
俺は車体の窓にかけられたカーテンの隙間から村を見た。
この村……メイシュウ村は俺がこの体に生まれてからずっと過ごしてきた村である。
そして、世話になった村長や両親も住んでいる。
俺はそんな村を見ながら……
(うわぁ……乗り心地最悪なんだが……)
馬車への文句を垂れていた。
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