第110話 別れはだいたい悲しいこと
「なので、お前が両親などと話す時間くらいはある」
ティークはそう告げた。
そして……
「村長よ、それの両親をここに連れて来い」
ティークは俺の両親を呼んでくるように村長へ命令した。
「畏まりました。直ちに呼んでまいります」
タッ……タッ……
村長はティークの命令を了承し、部屋の扉へと向かった。
「失礼致します」
ガチャ……タッ……タッ……
そして、部屋の外へと出て行った。
俺はその様子を受けて……
(別に、さっさと連れて行っても良いんだけどなぁ)
と思った。
村長が部屋を退室してから20分ほどが経過した頃……
コッコッコッ
部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。
ガチャ
そして、扉が開いた。
「失礼致します」
先ほどこの部屋から退室した村長が戻ってきた。
タッ……タッ……
「連れてまいりました」
村長は部屋の中に入ると、ティークにそう告げた。
そして……
「さあ、入って」
村長はティークでは無く、自分の後ろに声を掛けた。
すると……
タッ……タッ……
「お邪魔します……」
タッ……タッ……
「……お邪魔します」
たどたどしい敬語を使いながら、両親がこの部屋に入ってきた。
キョロ……キョロ……
……キョロ……キョロ
部屋へと入ってきた両親は、部屋の中や俺、ティーク、護衛、村長などを不安げな様子で見ていた。
「呼んできたな。お前たちがそれ……スイの両親か?」
ティークはそんな2人に声を掛けた。
「……はい。そうです」
ティークの質問に父親が答えた。
「俺はティーク・リ・アーテスと言う。アーテス長様の下で秘書官をしている。続柄ではアーテス長様の甥に当たる」
ティークは両親に対して、自分の名前と身分を明かした。
「!」
「!」
両親はそれを聞いて、あからさまに驚いていた。
しかし、その驚きは若干少ない感じがした。
(大方、ここに来る途中に村長から聞いたんだろ)
両親の驚きが少ないのは、ここに来るまでに村長からティークの身分について聞いていたからなのではないか?と俺は考えた。
ちなみに、両親もこの村がアーテスに属していることと、アーテスには長がいることを知っている。
なので、ティークが誰なのか分からない、ということにはならなかった。
このことについては、以前に両親から直接聞いたことがあったので知っていた。
「今回、お前たちをここに呼んだのは、お前たちの息子をアーテス長様の下で働かせることにしたことを伝えるためだ」
そして、ティークは本題を両親に伝えた。
「!!」
「!!」
それを聞いた両親は、ティークの身分を聞いた時の数倍驚いていた。
(村長より驚いているな……まあ、そりゃそうか)
村長が俺の内定を聞いた時よりも、両親が俺の内定を聞いた時の方が驚きは大きかった。
村長に比べて、両親の方が俺の内定に驚いているのは、村長の方が俺のことを天才だと思っているからだろう。
村長にとって俺は本当の天才児に見えており、両親にとっては親の色眼鏡越しの天才児に見えている。
言わば、村長は俺のことを論理的な目線で天才児だと認識しているが、両親は論理的ではない目線で俺のことを天才児だと思っているから、俺の内定を聞いた時の両者のリアクションに差が出たのだろう。
こうなったのは、俺が村長の前でしか自分の知性を披露していないからである。
俺が両親に対して年齢から逸脱した知性を披露したのは、最初の言語取得だけであり、その後はほとんど自分の知性を披露していなかったのだ。
だから、村長と両親の俺に対する認識の違いが出たのだろう。
「…………」
「…………」
両親は俺のアーテスへの内定を聞いて、驚き、固まっていた。
そんな2人に対して……
「俺は今から帰る。そして、それも今から連れて帰る」
ティークはこのまま俺も連れて帰ることを告げた。
「!!!」
「!!!」
それを聞いた両親はまたもや驚きを増してしまった。
もちろん、ティークは両親に対しても、俺の内定の許可を取ることは無い。
そういえば、俺はいつも森の中に罠を仕掛けたり、例の植物を乾燥させたり、色々と仕掛けているものがあるのだが、それを片付けずにこのままティークに付いて、この村から離れても大丈夫なのだろうか?
それについては問題無い。
というより、この時期になる前に、森の中に仕掛けた罠や植物などは全て撤去しているから問題無いのだ。
もしこの村から連れ出してもらう計画が成功した時に、ティークのような身分の者がわざわざ俺のような村人の準備を待ってくれるとは思っていない。
なので、すぐに連れていかれても良いように予め準備をしておくのは当然である。
「それを今から連れて帰る。何か言っておきたいことがあれば、今済ませろ」
ティークは両親に俺への別れの挨拶をするように告げた。
タッ……タッ……
俺はティークの言葉を聞くと、両親の元まで歩いて行った。
「スゥ、リコ」
俺が両親に呼び掛けると……
「……!」
「……!」
2人は驚きから戻ってきた。
「なんだか、すごいことになっているみたいだが……」
ギュッ
父親が俺のことを抱き締める。
「頑張れ……元気でな」
スゥは俺に励ましと別れの言葉を告げた。
ギュッ
そして、母親も俺のことを抱き締めた。
「…………」
リコは抱き締めてから数秒ほど喋らなかった。
そして……
「離れていても……愛しているわ。スイ……元気でね」
俺に別れの言葉を告げた。
俺はそんな2人に対して……
「アーテス長様に御奉仕させて頂ける栄誉を頂き僕は幸せ者です。粉骨砕身の努力で見事に御奉仕を成し遂げて見せます。スゥ……リコ……お元気で」
働くことへの喜びと抱負を語り、最後に別れを告げた。
「スイっ」
「……スイ」
ギュギュッ
両親は俺のことをより強く抱き締めた。
チラッ
俺は両親に抱き締められながら、近くに立っていた村長に目を向けると……
「村長も今までお世話になりました。本当にありがとうございました。お元気で」
村長にも別れの挨拶をした。
「ええ。元気でね」
村長は俺の挨拶に応えた。
そして……
スッ
両親は俺を抱き締めるのをやめた。
ススッ
俺は両親に頭を下げて敬礼をする。
そして……
タタッ
ティークの方を向いた。
「ティーク様。御待ち頂き誠に有難う御座います」
スススッ
俺はティークに礼を告げながら、最敬礼をした。
「ああ。では行くぞ」
スッ
ティークはそう言うと、椅子から立ち上がり……
タッ……タッ……
部屋の扉へ向かって、護衛を付き添わせながら歩き出した。
そして……
タッ……タッ……
ティークの後ろに付いて行くように、俺も歩き出した。
そんな俺の背中には何かが突き刺さるような感覚がした。
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