第109話 俺を守るために隠すわけでは無い
「では、今回の件に対する聴取と報奨についてはこれで終了とする」
ティークはそう告げた。
俺はそれに対して……
「畏まりました」
特に止めることは無かった。
チラッ
「おい」
ティークは視線を俺から、俺の後ろに立っている護衛の1人に向けると、その1人に呼び掛けた。
「村長を呼んで来い」
そして、この部屋から退室していた村長を呼び戻すように命令した。
「了解致しました」
タッ……タッ……
護衛はその命令に即座に答えると、扉へ向かって歩き出した。
ガチャ
そして、廊下へと出て行った。
「失礼致します」
護衛に呼ばれた村長がこの部屋へと戻ってきた。
村長の後ろには先ほど村長を呼びに行った護衛もいた。
タッ……タッ……タタッ
俺は村長が入ってきたことを確認すると、今まで座っていた椅子から立ち上がり、その椅子の傍に控えるようにして立った。
タッ……タッ……タタッ
「失礼致します」
スッ
村長は先ほどまで俺が座っていた椅子の前まで来ると、一言断りを入れてからその椅子に座った。
「戻ったな。では、単刀直入に伝えるが……」
ティークは村長が座ったことを確認すると……
「それ……スイをこちらに連れていくことにした」
俺の処遇を伝えた。
「……え?」
村長は思わず疑問の声を漏らしてしまう。
「ああ、心配しなくても良い。それを罰するためであるとか、何か危険なことをさせるとか、そういうことのために連れて行くわけでは無い」
ティークは疑問顔になってしまった村長に俺を連れて行くことを説明する。
「それをこちらで働かせるために連れて行くのだ」
ティークは村長に俺がアーテス長の下で働くことを伝えた。
それを聞いた村長が……
「…………」
わずかな驚きの感情を示していること、そして同時に少しの納得の感情を示していることが俺には分かった。
しかし……
「ん?些か驚きが少ないのではないか?」
ティークは村長の驚きが少ないことに目が行っているようで、村長になぜあまり驚いていないのか?と質問をした。
それに対して村長は……
「どのような経緯でこれがそちらで働かせて頂けることになったのかは分かり兼ねます」
「ですが、私はこれが優秀であることに疑問を持っておりません」
「故に、驚きが振り切れるには至りませんでした」
と、説明した。
「なるほど」
ティークはその答えを聞くと、納得したようで、それ以上村長に追及することは無かった。
ちなみに、ティークは俺をアーテス長の下で働かせることについて、村長にその是非を問うことは無かった。
これは、俺のような村人の人権は俺本人や村長、両親に帰属するのではなく、おそらくアーテス側に帰属するので、わざわざ村長に許可を取る必要などないからだと思う。
「では……スイ」
村長との会話を終えると、ティークは俺に語りかけてくる。
「お前はこの部屋から一時退室しろ」
そして、ティークは俺にこの部屋から出るように言ってきた。
「畏まりました」
俺はその命令にすぐ応えた。
「村長、お前はこの部屋に残れ」
「畏まりました」
そして、村長にはこの部屋に残るように言った。
タッ……タッ……
俺はこの部屋の扉へと歩いて行った。
ガチャ
「失礼致します」
そして、扉を開け、一言断りを入れた後……
タッ……タッ……
退室した。
村長が部屋に残り、俺が退室する。
先ほどまでとは逆の状況になった。
「…………」
俺の横に、部屋には入らなかった護衛の1人が俺を見張るように立っていた。
俺は護衛に見張られながら、廊下に立ち……
(今から、虚偽報告の聴取を受けるんだろうな)
と考えていた。
ガチャ
俺が廊下で待ってから約15分が経過すると、部屋の扉が中から開いた。
「入れ」
そして、部屋の中にいた護衛の1人が俺にそう告げた。
「畏まりました」
タッ……タッ……
俺は護衛に了承の返事をすると、部屋の中に戻った。
タッ……タッ……タタッ
そして、俺は部屋に中に戻ってくると、村長が座っている椅子の傍に立った。
チラッ
俺は村長の顔を見た。
「…………」
その顔は若干……いや、かなりげっそりしているように感じた。
(やっぱり、聴取を受けたのか……いや、聴取じゃなくて"詰問"だな、この様子だと)
俺は村長の顔を見て、そう思った。
チラッ
村長も俺に目線を向けて来た。
その目は……
(……変わってないな)
今までと特に変わっているものでは無かった。
ティークから虚偽報告の詰問を受けたのは明白なのに、俺に対する信頼が揺らいでいないことがその目を見れば分かった。
(なるほど……隠したな)
どうやら、ティークは俺の存在を上手いこと隠しながら、村長に虚偽報告の聴取をしたみたいだ。
俺が虚偽報告の是正に関与していることを隠したのは、ティークが俺のことを村長から守りたいから……
などではないだろう。
ティークが俺の存在を隠したのは、その方が虚偽報告の再発を防げるからであろう。
「今回、虚偽報告がアーテス側にバレた原因は俺という密告者がいたから」と村長に伝えると、村長からすれば「密告者が居なければバレることは無かった」という認識になってしまう。
そうなると、俺がこの村から居なくなってしばらく経てば、村長が「また虚偽報告をしても大丈夫かもしれない」と思う可能性がある。
しかし、アーテスが報告された資料を見ただけで虚偽報告に気付いたことにすれば、村長にとっては「アーテス側の管理能力が高いから虚偽報告がバレた」という認識になる。
そうすれば、本当の原因である俺がこの村から居なくなった後に、村長が虚偽報告を再発しようとしても、村長からすれば「再発の難易度が高い」という風に認識することになる。
だから、ティークは俺の存在を隠して聴取をしたのではないだろうか。
さらに言えば、ティークは報奨の件に関して、俺に秘密にするように言ってきた。
あれも、村長が俺という密告者に気付かないようにするためだったのだろう。
「…………」
ティークは俺が部屋に戻ってきたことを確認すると……
「では、今回の徴税報告を終了とする」
と告げた。
「私はこれからアーテス長様の下へ帰還する。お前もこのまま行くぞ」
そして、俺をこのまま連れて行くことも告げた。
俺はそんな急なことを言われて……
(まあ、早いに越したことはないか)
特に焦っていなかった。
「ただ……私には特に急ぐ用事が無い」
しかし、ティークが話を転換させた。
「なので、お前が両親などと話す時間くらいはある」
どうやら、ティークは俺の人権を気にすることは無いが、人情のようなものが無い、という訳では無いらしい。
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