表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/149

第109話 俺を守るために隠すわけでは無い

「では、今回の件に対する聴取(ちょうしゅ)報奨(ほうしょう)についてはこれで終了とする」




 ティークはそう()げた。


 俺はそれに対して……


(かしこ)まりました」


 特に止めることは無かった。


 チラッ


「おい」


 ティークは視線(しせん)を俺から、俺の後ろに立っている護衛(ごえい)の1人に向けると、その1人に呼び掛けた。


「村長を呼んで来い」


 そして、この部屋から退室(たいしつ)していた村長を呼び戻すように命令した。


「了解(いた)しました」


 タッ……タッ……


 護衛はその命令に即座(そくざ)に答えると、(とびら)へ向かって歩き出した。


 ガチャ


 そして、廊下(ろうか)へと出て行った。




失礼(しつれい)(いた)します」


 護衛に呼ばれた村長がこの部屋へと戻ってきた。


 村長の後ろには先ほど村長を呼びに行った護衛もいた。


 タッ……タッ……タタッ


 俺は村長が入ってきたことを確認すると、今まで座っていた椅子(いす)から立ち上がり、その椅子の(そば)(ひか)えるようにして立った。


 タッ……タッ……タタッ


「失礼(いた)します」


 スッ


 村長は先ほどまで俺が座っていた椅子の前まで来ると、一言(ひとこと)(ことわ)りを入れてからその椅子に座った。


「戻ったな。では、単刀直入(たんとうちょくにゅう)(つた)えるが……」


 ティークは村長が座ったことを確認すると……


「それ……スイをこちらに連れていくことにした」


 俺の処遇(しょぐう)を伝えた。


「……え?」


 村長は思わず疑問(ぎもん)の声を()らしてしまう。


「ああ、心配しなくても良い。それを(ばっ)するためであるとか、何か危険(きけん)なことをさせるとか、そういうことのために連れて行くわけでは無い」


 ティークは疑問顔(ぎもんがお)になってしまった村長に俺を連れて行くことを説明する。


「それをこちらで(はたら)かせるために連れて行くのだ」


 ティークは村長に俺がアーテス(ちょう)(もと)(はたら)くことを伝えた。


 それを聞いた村長が……


「…………」


 わずかな(おどろ)きの感情を(しめ)していること、そして同時に少しの納得(なっとく)の感情を示していることが俺には分かった。


 しかし……


「ん?(いささ)か驚きが少ないのではないか?」


 ティークは村長の驚きが少ないことに目が行っているようで、村長になぜあまり驚いていないのか?と質問をした。


 それに対して村長は……


「どのような経緯(けいい)でこれがそちらで働かせて(いただ)けることになったのかは分かり()ねます」


「ですが、私はこれが優秀(ゆうしゅう)であることに疑問を持っておりません」


(ゆえ)に、驚きが()()れるには(いた)りませんでした」


 と、説明した。


「なるほど」


 ティークはその答えを聞くと、納得したようで、それ以上村長に追及(ついきゅう)することは無かった。


 ちなみに、ティークは俺をアーテス(ちょう)(もと)で働かせることについて、村長にその是非(ぜひ)()うことは無かった。


 これは、俺のような村人の人権(じんけん)は俺本人や村長、両親(りょうしん)帰属(きぞく)するのではなく、おそらくアーテス(がわ)に帰属するので、わざわざ村長に許可(きょか)を取る必要などないからだと思う。




「では……スイ」


 村長との会話を終えると、ティークは俺に(かた)りかけてくる。


「お前はこの部屋から一時(いちじ)退室(たいしつ)しろ」


 そして、ティークは俺にこの部屋から出るように言ってきた。


(かしこ)まりました」


 俺はその命令にすぐ(こた)えた。


「村長、お前はこの部屋に残れ」


「畏まりました」


 そして、村長にはこの部屋に残るように言った。


 タッ……タッ……


 俺はこの部屋の扉へと歩いて行った。


 ガチャ


「失礼(いた)します」


 そして、扉を()け、一言(ひとこと)(ことわ)りを()れた(のち)……


 タッ……タッ……


 退室した。


 村長が部屋に残り、俺が退室する。


 先ほどまでとは逆の状況(じょうきょう)になった。


「…………」


 俺の横に、部屋には入らなかった護衛(ごえい)の1人が俺を見張(みは)るように立っていた。


 俺は護衛に見張られながら、廊下(ろうか)に立ち……


(今から、虚偽(きょぎ)報告の聴取(ちょうしゅ)を受けるんだろうな)


 と考えていた。






 ガチャ


 俺が廊下で待ってから約15分が経過(けいか)すると、部屋の扉が中から開いた。


「入れ」


 そして、部屋の中にいた護衛の1人が俺にそう()げた。


(かしこ)まりました」


 タッ……タッ……


 俺は護衛に了承(りょうしょう)の返事をすると、部屋の中に戻った。




 タッ……タッ……タタッ


 そして、俺は部屋に中に戻ってくると、村長が座っている椅子の(そば)に立った。


 チラッ


 俺は村長の顔を見た。


「…………」


 その顔は若干(じゃっかん)……いや、かなりげっそりしているように感じた。


(やっぱり、聴取(ちょうしゅ)を受けたのか……いや、聴取じゃなくて"詰問(きつもん)"だな、この様子(ようす)だと)


 俺は村長の顔を見て、そう思った。


 チラッ


 村長も俺に目線(めせん)を向けて来た。


 その目は……


(……変わってないな)


 今までと特に変わっているものでは無かった。


 ティークから虚偽(きょぎ)報告の詰問(きつもん)を受けたのは明白(めいはく)なのに、俺に対する信頼(しんらい)()らいでいないことがその目を見れば分かった。


(なるほど……(かく)したな)


 どうやら、ティークは俺の存在(そんざい)上手(うま)いこと隠しながら、村長に虚偽(きょぎ)報告の聴取(ちょうしゅ)をしたみたいだ。


 俺が虚偽報告の是正(ぜせい)関与(かんよ)していることを隠したのは、ティークが俺のことを村長から守りたいから……


 などではないだろう。


 ティークが俺の存在を隠したのは、その方が虚偽報告の再発(さいはつ)(ふせ)げるからであろう。


「今回、虚偽報告がアーテス側にバレた原因(げんいん)は俺という密告者(みっこくしゃ)がいたから」と村長に伝えると、村長からすれば「密告者が()なければバレることは無かった」という認識(にんしき)になってしまう。


 そうなると、俺がこの村から居なくなってしばらく()てば、村長が「また虚偽報告をしても大丈夫かもしれない」と思う可能性がある。


 しかし、アーテスが報告された資料(しりょう)を見ただけで虚偽報告に気付(きづ)いたことにすれば、村長にとっては「アーテス側の管理能力(かんりのうりょく)が高いから虚偽報告がバレた」という認識(にんしき)になる。


 そうすれば、本当の原因である俺がこの村から居なくなった(あと)に、村長が虚偽報告を再発(さいはつ)しようとしても、村長からすれば「再発の難易度(なんいど)が高い」という(ふう)認識(にんしき)することになる。


 だから、ティークは俺の存在を(かく)して聴取(ちょうしゅ)をしたのではないだろうか。


 さらに言えば、ティークは報奨(ほうしょう)の件に(かん)して、俺に秘密(ひみつ)にするように言ってきた。


 あれも、村長が俺という密告者(みっこくしゃ)に気付かないようにするためだったのだろう。




「…………」


 ティークは俺が部屋に戻ってきたことを確認すると……


「では、今回の徴税報告(ちょうぜいほうこく)を終了とする」


 と()げた。


「私はこれからアーテス(ちょう)(さま)(もと)帰還(きかん)する。お前もこのまま行くぞ」


 そして、俺をこのまま連れて行くことも告げた。


 俺はそんな急なことを言われて……


(まあ、早いに()したことはないか)


 特に(あせ)っていなかった。


「ただ……私には特に(いそ)ぐ用事が無い」


 しかし、ティークが話を転換(てんかん)させた。




「なので、お前が両親などと話す時間くらいはある」




 どうやら、ティークは俺の人権(じんけん)を気にすることは無いが、人情(にんじょう)のようなものが無い、という訳では無いらしい。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ