第108話 人事が来て欲しい
アーテス側がこの村の収穫量の異変に気付いたのであれば、アーテス側は何らかの措置を取る必要がある。
その措置とは、まず収穫量の異変の原因を突き止めることだと俺は考えた。
そして、そのためにはこの村にアーテス側から誰かを派遣する必要があるとも考えた。
収穫量の異変の原因が虚偽報告の是正にせよ、本当に収穫量が増加したからにせよ、どんな場合であっても、アーテス側としては、村まで来て村長や俺といった徴税報告に関わっている人間に聴取をする必要が出てくる。
つまり、誰かをこの村に派遣しなくてはならないのだ。
では、誰をこの村へと派遣させて、聴取をさせるのか?
いつもの徴税官に聴取を任せるのか?
否。
俺はいつもの徴税官が聴取を任されることは無いだろうと予想した。
なぜなら、徴税官には聴取の裁量権が無いと考えたからである。
聴取をするまで、今回の収穫量異変の原因が分からないアーテス側からすれば、その原因の中に本当に収穫量が上昇したからという可能性がある。
そして、本当に収穫量が上昇した原因が農業の新発明などであれば、その情報は秘匿されるべき情報であり、その情報を知る人間は限られるべきであると思う。
つまり、その情報を知る権限が徴税官には無いと俺は考えた。
もしこの考えが正しいのであれば、権限を持たない徴税官ではなく、権限を持つ別の人間が来るはずである。
そして、そういった情報を知る権限を持つということは、その権限だけでなく、他の権限も同時に持っている人物である可能性がある。
俺は、他の権限の中にアーテスで働く人間を採用する権限……つまり人事裁量権も含まれている可能性があると考えた。
要するに、新発明のような秘匿されるべき情報を知ることができる権限を持つ人間は人事裁量権も持っている可能性が高い……立場の強い人物であると考えたのだ。
つまり、俺が虚偽報告の是正をした真の理由は、人事裁量権を持った人物をこの村に来させることであった。
そして、今回見事にお目当ての人物である、アーテス長の甥兼アーテス長の秘書官であるティークが来たのである。
俺の目的はこの村を出ることであり、その方法として誰かにこの村から連れ出してもらうという方法を取ることにした。
俺が虚偽報告の是正をした真の理由は、人事裁量権を持ったティークのような人物に来てもらうことだが、その先の目的として、人事裁量権を持った人物にこの村から連れ出してもらう、というものがあったのだ。
つまり、俺が虚偽報告の是正をしたのも、その報奨としてアーテス長の下で働くことと本の閲覧許可を求めたのも、全ては俺をこの村から連れ出してもらうためだったのである。
(正直、報奨に関してはあったらいいな程度に考えていたが、報奨があったことで非常にスムーズに内定と閲覧許可を勝ち取れたな)
(まあ、もし報奨が無くてもどうにかなったと思うし、もしティークみたいな人間じゃなくていつもの徴税官が来たとしてもどうにかするつもりだったしな)
「スイよ。お前に、アーテス長様の下で奉仕する権利とアーテスが所有している本の一部の閲覧許可を今回の件の報奨として与える」
ティークは俺にそう告げた。
俺はそれを聞くと……
スススッ
「私の希望を聞き入れてくださり、深謝の念に堪えません」
椅子に座ったまま最敬礼をし、感謝の言葉を伝えた。
「ああ……」
ティークは俺の礼を受け取ると……
「お前をこちらで雇えば、より大きな利益をもたらしてくれるんだろ?」
と聞いてきた。
(なるほど。分かっているな)
それを聞いて、俺はそう思った。
そして……
「はい。私に可能な最大の利益を献上させて頂きます」
俺は、ティークの言葉にそう返した。
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