第107話 バランスの良いバレ方
突然だが、そもそもなぜ俺はこの村の虚偽報告を是正しようと思ったのか?
前にも言ったように、アーテス側からの罰則を回避するため、という保身も真の理由の"一つ"である。
だが、俺にはもう一つ別の真の理由があった。
むしろ、その理由の方がより重要な理由であった。
その理由とは……
「スイよ。お前に、アーテス長様の下で奉仕する権利とアーテスが所有している本の一部の閲覧許可を今回の件の報奨として与える」
今目の前にいるティークのような人物にこの村へと来てもらうためであった。
俺はこの体に生まれてからすぐにこの村から出て行くことを決心していた。
しかし、村長や両親、その他の村人の話を聞く限りでは、どうやらこの村に生まれた時点で、その人間はこの村に骨を埋める運命になっていることを知った。
それどころか、生きている間もこの村から出られることはほとんど無いことも知った。
しかし、俺はこの村に骨を埋めるつもりは無いし、こんな村の中で一生を生きるつもりも無い。
それでは困るし、なにより……
『幸せ』では無い。
だから、俺はどうにかこの村を出るために、策を弄することにした。
村を出るとなれば、まず一番簡単に思いつく方法と言えば、自分の足でこの村から勝手に出て行く方法である。
しかし、こんな方法は絶対に取りたくない。
この方法は、村の外の情報をほとんど持たない俺からすれば、村を出てもどこに向かえばいいのか分からないし、その道中で何が起きるのかも分からない、そんな方法なのだ。
まさにハイリスクハイリターン……いや、リターンに関しては未知数なのだ。
そんな方法は当然取れない。
では、どんな方法で村から出て行くのか?
それは、自分から勝手に出て行くのではなく、誰かに連れ出してもらうという方法である。
つまり、俺はこの村を出るために、誰かにこの村の外へ連れ出してもらえるように仕向ける、ということである。
そして、その方法の一つとして取り入れたのが、まさに今回やっていた虚偽報告の是正なのである。
今回、俺が虚偽報告の是正をしたことで、この村にティークが出向いてきた。
しかし、ティークがこの村に来ないように……つまり、アーテス側が是正したことに気付かないようにする方法もあった。
その方法とは……
長い時間を掛けてじっくりと虚偽報告を是正していく、という単純な方法である。
具体的には、今回のように2年で10%以上上昇という是正では無く、5年や10年を使って10%以上上昇させるという方法である。
長い時間を掛ければ、アーテス側がある程度念入りに確認をしないと、是正の事実には気付かないだろう。
しかし、俺はあえて2年で一気に虚偽報告を全て是正し、アーテス側が虚偽報告の事実とその是正に気付くようにした。
まともにアーテス側が仕事をしているのであれば、2年で10%以上税収が増えるという異変に気付くはずである。
実際、アーテス側はまともな仕事をしていたようで、今回この村にティークを送ってきた。
ちなみに、なぜ2年なのか?というと……
そこが、アーテス側に気付かれて、村長に気付かれない、是正になると思ったからである。
俺がこの村で結構自由に出来ているのは、村長という俺の保証人がいるからである。
そして、村長が俺の保証人になってくれているのは、俺にかなりの信頼を寄せているからである。
もし、その信頼を虚偽報告の是正を勝手にするという形で失えば、俺の自由が無くなることは容易に想像できる。
それどころか、村八分にあう可能性さえある。
確かに、村八分の方がアーテス側から罰則を受けるよりもマシだと俺は言ったが、あくまでも"マシ"である。
村八分にもあわない方が断然良いのだ。
だから、1年で一気に全てを是正するのではなく、2年を使って分散させることにしたのだ。
本当は1年で一気に全てを是正したかったのだが、確認を疎かにしている村長といえども、1年で10%以上も収穫量が増加してしまえば、さすがにその異変に気付いてしまう。
もし、1年で全てを是正させてもティークのような人物が来ず、村長には是正がバレる、そんなことになってしまえば、今後村を出て行く別の計画を考える時に、取れる選択肢が減ってしまう。
そうなれば、村から出られる可能性が減少してしまい、最悪の場合、自分の足で勝手に村から出て行く方法を取らざるを得なくなってしまう可能性さえある。
だから、アーテスには気付かれるが、村長には気付かれない、そんな見極めが虚偽報告の是正には必要だったのだ。
その結果、俺は2年という結論に達したのだ。
そして、アーテス側が収穫量の異変に気付いたのだとすれば、アーテス側は何らかの措置を取る必要があるのだ。
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