第106話 内定までもう少し
「この是正方法は、この村だけでなく"他の村"でも使えます」
俺は、ティークの告げた"もう少しのメリット"として、予想収穫量とテンプレートを用いた虚偽報告の予防と是正がこの村だけでなく他の村でも使えることを提示した。
それを聞いたティークは……
「その方法だと、村の予想収穫量を知らなければ、そもそも予想収穫量と報告された収穫量の比較ができないのではないか?」
と疑問を呈した。
「はい。御指摘の通りで御座います」
俺はその疑問を肯定した。
予想収穫量とテンプレートを用いて虚偽報告の予防と是正をする、この方法には予想収穫量を知らなければならないという前提がある。
予想収穫量とは言い換えるなら、虚偽報告されていない正しい収穫量の数値の仮定である。
それが分からなければ、村から報告された収穫量が正しいものなのかが分からない。
だから、予想収穫量はこの方法には絶対に必要なのである。
この予想収穫量を知るために必要な情報の中には、村に住んでいなければ知ることのできない情報もある。
だが、住んでいなくても知ることのできる情報もある……というより、住んでいなくても知ることのできる情報の方が、予想収穫量を知るために必要な情報の中で、重要な情報である。
住んでいなくても知ることのできる情報とは、畑の面積や生育農作物の種類、畑の状況といった情報である。
これらは、その村に住んでいなくても、村に来て少し観察するだけで分かる情報である。
そして、これらの情報を知ることができれば予想収穫量を概算することができる。
さらに、その村に過去の収穫量のデータが保管されていれば、それを見ることで、先ほど概算した予想収穫量を修正できる。
その他にも、その世帯の家族構成やその世帯の状況などを簡単に知るだけでも、困窮を理由とした虚偽報告の可能性がその世帯にあるのかどうかを知ることができるので、そこからその世帯の虚偽報告の常習性などを知ることで、さらに予想収穫量を正確なものにできる。
ただし、これらの予想収穫量を調べる具体的な方法は、ティークに教えていない。
「はい。御指摘の通りで御座います」
俺はティークの疑問に肯定で返し……
「ですが、予想収穫量を知る方法も御座います」
予想収穫量を調べる方法があることを告げた。
そして……
「その具体的な方法をお教えさせて頂く……こちらをメリットとして提示させて頂きます」
俺はティークの言っていたもう少しのメリットを提示した。
それは、先ほど説明した予想収穫量を調べる具体的な方法をティークもといアーテス側に教えることである。
「…………」
ティークは考え込む表情と姿勢になる。
そして……
「……もし、お前が希望する報奨は認めないが、その方法だけ教えろ、と俺が求めたらどうする?」
と、ティークは聞いてきた。
俺はそれに対して……
「それがアーテス長様やティーク様の御望みなのであれば、喜んでお教え致します」
特に反論することは無かった。
さらに……
「もとより、この予想収穫量の具体的な調査方法については、報奨の有無に関係なく、この村に住まわせて頂いている者の当然の義務として献上する次第で御座います」
とも俺は言う。
もちろん、俺が今言った内容は本心などでは無い。
俺とティークの立場を考えれば、当然の回答である。
そして俺の答えを聞いたティークは……
「そうか…………」
と一言呟くと、またもや考え込むような様子になってしまった。
「…………」
ティークが考え込んでから30秒ほどが経つ。
だが、その口は開かない。
「…………ふむ」
そして、ティークが考え込んでから1分が経過する。
すると、ようやくその口が開いた。
その口から……
「お前……名は何と言う?」
俺の名前を聞いてきた。
俺はその質問に対して即座に……
「『スイ』と申します」
自分の名前を告げた。
「…………ふぅ」
ティークは俺の名前を聞くと、一呼吸を置く。
そして……
「スイよ。お前に、アーテス長様の下で奉仕する権利とアーテスが所有している本の一部の閲覧許可を今回の件の報奨として与える」
採用と閲覧許可を出した。
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