第105話 バレると思うと動けない
「グループを利用した隠蔽の可能性を排除するために、各世帯の収穫量もテンプレートに書かせるので御座います」
俺は、グループの項目を作ったことで虚偽報告の隠蔽の余地を作ってしまったのではないか?というティークの質問に対して、そう答えた。
「ああ。確かに、各世帯の収穫量を書く項目も用意されているな」
ティークはそう言う。
「はい。各世帯の収穫量を書く項目があれば、徴税官様が各世帯の収穫量を全て御確認して頂かなくても、グループの項目だけを見て頂ければ問題御座いません。それどころ、今まで通り村全体の収穫量を御確認して頂くだけでも虚偽報告の隠蔽は防げるでしょう」
俺は説明を続ける。
「肝要なのは、村長が徴税官様ひいてはアーテス側に各世帯の収穫量が把握されている、と思うことであります。そうなれば、村長が虚偽報告を見逃すことや庇う可能性が格段に減ることでしょう」
「ああ……なるほど」
俺の説明を聞いたティークはその表情を納得顔にする。
「はい。お察しの通りかと存じますが、要するに徴税官様やアーテス側が各世帯の収穫量を把握している可能性を村長が認識した時点で、徴税官様やアーテス側が如何様な行動を取られたとしても、村長の心理的には虚偽報告の見逃しや隠蔽が困難になる、という事で御座います」
俺は詳細な説明をした。
「もし村長が虚偽報告を庇って数値の改竄をしたとしても、数年に一度全ての世帯の収穫量を確認するなどして頂ければ、その改竄を見つけることが可能で御座います」
俺は、村長が心理的な困難を乗り越えて、虚偽報告をしてきた場合であっても対策ができることも説明した。
「なるほどな」
ティークは俺の説明に納得の返事をする。
「そして、このテンプレートの義務化には別のメリットも御座います。説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
俺は虚偽報告の予防だけでなく、それとは別のメリットがあることをティークへと告げる。
そして、それを説明する許しを申し出た。
「構わん。続けろ」
許しは出た。
「深謝致します」
俺は礼を一つ告げる。
「このテンプレートの義務化には、徐々に予想収穫量の精度を上昇させることができる、というメリットが御座います」
そして、説明を始めた。
「このテンプレートには各世帯の収穫量の項目が御座います。それは、アーテス側に各世帯の収穫量の数値が蓄積していくことを意味します。その数値が虚偽ではない正規の数値であれば、このテンプレートを使った徴税報告がされる度に正確な各世帯の収穫量が蓄積する、という事で御座います」
俺は続ける。
「そして、その蓄積した正確な各世帯の収穫量を基に、予想収穫量を修正して頂ければ、より正確な予想収穫量を算出することができます。それすなわち、虚偽報告の発見のミスや見逃しを減らせる、という事で御座います」
俺は説明を終えた。
俺の説明を聞いたティークは……
「なるほど……」
納得の言葉を一言。
そして……
「…………」
考え込む顔になった。
ティークは10秒ほど考え込むような顔をすると……
「……もう少し」
口を開いた。
「"もう少しのメリット"があれば、こちらで働くことと本の閲覧許可を考えてやっても良い」
と、ティークは告げた。
俺はそれを聞いて……
(ほう、徴税官が一々確認する手間については触れないか……馬鹿では無いな)
と思った。
俺が先ほど提示した、予想収穫量やテンプレートを用いた虚偽報告の予防や是正には、今までには無かった各世帯の収穫量や各グループの収穫量を確認するという作業がある。
そして、それは主に徴税官の新しい仕事になってしまう、というこの方法の欠点であると言える。
要するに、徴税官の仕事が増える、ということである。
ティークもこの欠点には気付いているはずなのだが、それを指摘することは無い。
指摘しないのは、ティークがこの欠点を許容される欠点だと認識しているからだろう。
これを許容できない欠点であるとして、この提案を蹴ってしまっても良い。
だがそれは、1時間も掛からない作業を拒否することで、村単位で発生する10%以上の税収をみすみす見逃すことに他ならない。
ティークはそれを分かっているからこそ、この欠点については言及しなかったのだろう。
(おっと、そんなことを考えている場合ではない。ティークの言う"もう少しのメリット"を提示しなくては)
俺はティークに言われたもう少しのメリットについて思考を戻した。
(まあ……別に考えることでも無い。用意しておいた答えを出すだけだ)
俺はティークに対して、もう少しのメリットを提示する。
「この是正方法は、この村だけでなく"他の村"でも使えます」
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