第104話 テンプレートでお願いします
「なんだ、これは?」
長机の上に置かれた2枚の木の板を見て、ティークはそう質問してきた。
「はい。御説明致します。まずは、こちらの資料を御覧ください」
俺はそう言いながら、片方の木の板を手で示す。
「これは、この村全体の収穫量と、この村の各世帯の収穫量、それら2つの予想収穫量を私が計算したものを記した資料で御座います」
俺は1つ目の木の板について説明した。
今、俺がティークに提示した木の板……もとい資料は、俺が虚偽報告の世帯を調べるために作ったものである。
ここには、この村全体の予想収穫量と、各世帯の予想収穫量が書かれている。
ここに書かれている2つの予想収穫量は、各世帯の畑の面積や育てている農作物の種類、畑の状況や、村長が保管していた俺が手伝いを始める以前の村全体や各世帯の収穫量が書かれた資料、俺が調べた各世帯の虚偽報告の常習性などから計算した予想収穫量となっている。
もう少し具体的な計算方法を説明すると……
まず、畑の面積や生育している農作物の種類、畑の状況から大体の予想収穫量を計算する。
次に、各世帯の虚偽報告の常習性から、村長が保管していた資料に書かれている過去の収穫量の信憑性を評価する。
そして、過去の収穫量から信憑性に乏しい収穫量の数値は除外する。
最後に、除外しなかった過去の収穫量と、先ほど計算した予想収穫量を比較して、実際の収穫量との誤差を修正する。
そうすることで、村全体と各世帯の収穫量が予想できる、という方法である。
ちなみに、ティークには今説明した予想収穫量の計算方法は教えていない。
俺が教えたのは、この資料に予想収穫量が書かれていることだけである。
(今教えたら、俺の"手札"が無くなってしまう)
「ああ」
1つ目の資料の説明を聞いたティークは相槌を打つと……
スッ
2つ目の資料に目を向けた。
「では、そちらは?」
ティークは2つ目の資料の説明についても求めてきた。
2つ目の資料には、数十個の四角形が書かれていた。
「こちらは、徴税報告の際に村側から提出する資料のテンプレートで御座います」
俺はそう答える。
「テンプレート?」
男は俺の回答を聞き返してくる。
「はい。今までの徴税報告では、村長や私が独自の方法や書式を用いて、収穫量の計算や記入を行っておりました。そして、これはその独自の方法や書式をやめさせるためのテンプレートで御座います」
俺はそう説明する。
俺や村長は、徴税報告をする時、アーテス側から書式や記入項目の指定をほとんど受けていない。
徴税報告の際に、村全体の収穫量を提出するだけでいいのだ。
しかし、俺はこのテンプレートを使わせることでその仕組みを変えることを提案する。
「このテンプレートには、これまでにも載せていた村全体の収穫量の項目だけでなく、この村に存在する約40世帯全ての収穫量を記入する項目、そしてその約40世帯を10のグループに分けて、そのグループに属する世帯の合計の収穫量を記入する項目が用意されております」
俺は、テンプレートに用意されている項目を一つずつ説明した。
テンプレートに書かれている四角形は、それらの記入項目を書くための空白である。
「村全体の収穫量、各世帯の収穫量、グループの収穫量、この3つの項目を全て書く。これを義務化して頂くことを私は提案致します」
「もしこのテンプレートを用いた徴税報告をして頂けるのであれば、私が虚偽報告の是正を行わずとも、村長が記入したテンプレートの数値と……」
俺は先ほど説明した予想収穫量が書かれた資料を手で示す。
「こちらの資料に書かれている予想収穫量の数値を比較して頂ければ、簡単に虚偽報告の有無とその程度を知ることが可能です」
俺は2つ目の資料の説明を終えた。
「なるほど」
俺のプレゼンを聞いたティークはそう呟く。
そして……
「このテンプレートに書かれているグループ……これはなぜ作った?」
そう質問してきた。
「グループを作らせて頂いたのは、このテンプレートを見る方々の御不便を増やさないようにするためで御座います」
「ああ」
ティークの相槌を聞きながら、俺は話を続ける。
「もし私の提案を御採用して頂いた場合、このテンプレートに書かれた数値と予想収穫量を比較することで虚偽報告を防止する仕事は、主に徴税官様が為されることになると思われます」
「しかし、徴税官様にわざわざ40以上の世帯の収穫量を比較して頂く、というのは今までの村全体の収穫量を見るだけであった徴税報告と比べると、徴税官様の御仕事が増えることは明らかで御座います」
「なので、それを少しでも減らすために、10のグループの項目を作り、それを見るだけで虚偽報告を確認できるようにしたので御座います」
俺は説明を終える。
「なるほど。確かに、このグループを確認するだけであれば、お前が提案した徴税官やこっちの人間が各世帯の収穫量と予想収穫量を比較する作業の短縮ができる。だが……」
ティークは俺の説明を肯定するが……
「村長が、うまいことグループ内で収穫量の数値を改竄して、実際の収穫量との不足分を分散してしまえば、虚偽報告を隠蔽できるのではないか?」
反論もしてきた。
今ティークが指摘してきたのは、俺が虚偽報告の是正に使った方法と同じようなことである。
グループ内にいる虚偽報告の世帯が虚偽報告をしたことで発生した実際の収穫量との不足分をグループ内にいる虚偽報告をしていない世帯に分散してしまえば、予想収穫量と比較しても異変に気付けないのではないか?ということである。
要するに、グループという隠蔽の余地を与えてしまうのではないか?ということである。
俺はティークの反論に対して……
「いえ。それについては問題御座いません」
問題無い、と答える。
そして……
「グループを利用した隠蔽の可能性を排除するために、各世帯の収穫量もテンプレートに書かせるので御座います」
問題無い理由を告げる。
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