表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/149

第104話 テンプレートでお願いします

「なんだ、これは?」




 長机(ながづくえ)の上に置かれた2枚の木の板を見て、ティークはそう質問してきた。


「はい。御説明(ごせつめい)(いた)します。まずは、こちらの資料を御覧(ごらん)ください」


 俺はそう言いながら、片方(かたほう)の木の板を手で(しめ)す。


「これは、この村全体の収穫量(しゅうかくりょう)と、この村の各世帯(かくせたい)の収穫量、それら2つの予想収穫量よそうしゅうかくりょうを私が計算したものを(しる)した資料で御座(ござ)います」


 俺は1つ目の木の板について説明した。




 今、俺がティークに提示(ていじ)した木の板……もとい資料は、俺が虚偽(きょぎ)報告の世帯を調べるために作ったものである。


 ここには、この村全体の予想収穫量と、各世帯の予想収穫量が書かれている。


 ここに書かれている2つの予想収穫量は、各世帯の畑の面積(めんせき)や育てている農作物(のうさくもつ)の種類、畑の状況や、村長が保管(ほかん)していた俺が手伝いを始める以前の村全体や各世帯の収穫量が書かれた資料、俺が調べた各世帯の虚偽報告の常習性(じょうしゅうせい)などから計算した予想収穫量となっている。


 もう少し具体的(ぐたいてき)な計算方法を説明すると……


 まず、畑の面積や生育(せいいく)している農作物(のうさくもつ)の種類、畑の状況から大体(だいたい)の予想収穫量を計算する。


 次に、各世帯の虚偽報告の常習性から、村長が保管(ほかん)していた資料に書かれている過去の収穫量の信憑性(しんぴょうせい)評価(ひょうか)する。


 そして、過去の収穫量から信憑性に(とぼ)しい収穫量の数値(すうち)除外(じょがい)する。


 最後に、除外しなかった過去の収穫量と、先ほど計算した予想収穫量を比較(ひかく)して、実際の収穫量との誤差(ごさ)修正(しゅうせい)する。


 そうすることで、村全体と各世帯の収穫量が予想できる、という方法である。


 ちなみに、ティークには今説明した予想収穫量の計算方法は教えていない。


 俺が教えたのは、この資料に予想収穫量が書かれていることだけである。


(今教えたら、俺の"手札(てふだ)"が無くなってしまう)




「ああ」


 1つ目の資料の説明を聞いたティークは相槌(あいづち)を打つと……


 スッ


 2つ目の資料に目を向けた。


「では、そちらは?」


 ティークは2つ目の資料の説明についても求めてきた。


 2つ目の資料には、数十個の四角形が書かれていた。


「こちらは、徴税報告(ちょうぜいほうこく)(さい)村側(むらがわ)から提出(ていしゅつ)する資料のテンプレートで御座(ござ)います」


 俺はそう答える。


「テンプレート?」


 男は俺の回答を聞き返してくる。


「はい。今までの徴税報告では、村長や私が独自(どくじ)の方法や書式(しょしき)(もち)いて、収穫量の計算や記入(きにゅう)(おこな)っておりました。そして、これはその独自の方法や書式をやめさせるためのテンプレートで御座(ござ)います」


 俺はそう説明する。


 俺や村長は、徴税報告をする時、アーテス側から書式や記入項目(きにゅうこうもく)の指定をほとんど受けていない。


 徴税報告の際に、村全体の収穫量を提出(ていしゅつ)するだけでいいのだ。


 しかし、俺はこのテンプレートを使わせることでその仕組(しく)みを変えることを提案(ていあん)する。


「このテンプレートには、これまでにも()せていた村全体の収穫量の項目(こうもく)だけでなく、この村に存在(そんざい)する約40世帯全ての収穫量を記入する項目、そしてその約40世帯を10のグループに分けて、そのグループに(ぞく)する世帯の合計の収穫量を記入する項目が用意(ようい)されております」


 俺は、テンプレートに用意されている項目を一つずつ説明した。


 テンプレートに書かれている四角形は、それらの記入項目を書くための空白(くうはく)である。


「村全体の収穫量、各世帯の収穫量、グループの収穫量、この3つの項目を全て書く。これを義務化(ぎむか)して(いただ)くことを私は提案(ていあん)(いた)します」


「もしこのテンプレートを(もち)いた徴税報告をして頂けるのであれば、私が虚偽報告の是正(ぜせい)(おこな)わずとも、村長が記入したテンプレートの数値と……」


 俺は先ほど説明した予想収穫量が書かれた資料を手で(しめ)す。


「こちらの資料に書かれている予想収穫量の数値を比較(ひかく)して頂ければ、簡単に虚偽報告の有無(うむ)とその程度(ていど)を知ることが可能です」


 俺は2つ目の資料の説明を終えた。




「なるほど」


 俺のプレゼンを聞いたティークはそう(つぶや)く。


 そして……


「このテンプレートに書かれているグループ……これはなぜ作った?」


 そう質問してきた。


「グループを作らせて頂いたのは、このテンプレートを見る方々(かたがた)御不便(ごふべん)を増やさないようにするためで御座(ござ)います」


「ああ」


 ティークの相槌(あいづち)を聞きながら、俺は話を続ける。


「もし私の提案を御採用(ごさいよう)して頂いた場合、このテンプレートに書かれた数値と予想収穫量を比較することで虚偽報告を防止する仕事は、(おも)徴税官様(ちょうぜいかんさま)()されることになると思われます」


「しかし、徴税官様にわざわざ40以上の世帯の収穫量を比較して頂く、というのは今までの村全体の収穫量を見るだけであった徴税報告と比べると、徴税官様の御仕事(おしごと)が増えることは(あき)らかで御座います」


「なので、それを少しでも減らすために、10のグループの項目を作り、それを見るだけで虚偽報告を確認できるようにしたので御座います」


 俺は説明を終える。


「なるほど。確かに、このグループを確認するだけであれば、お前が提案した徴税官やこっちの人間が各世帯の収穫量と予想収穫量を比較する作業の短縮(たんしゅく)ができる。だが……」


 ティークは俺の説明を肯定(こうてい)するが……


「村長が、うまいことグループ内で収穫量の数値を改竄(かいざん)して、実際(じっさい)の収穫量との不足分を分散(ぶんさん)してしまえば、虚偽報告を隠蔽(いんぺい)できるのではないか?」


 反論(はんろん)もしてきた。




 今ティークが指摘(してき)してきたのは、俺が虚偽報告の是正に使った方法と同じようなことである。


 グループ内にいる虚偽報告の世帯が虚偽報告をしたことで発生した実際の収穫量との不足分をグループ内にいる虚偽報告をしていない世帯に分散してしまえば、予想収穫量と比較しても異変(いへん)に気付けないのではないか?ということである。


 (よう)するに、グループという隠蔽(いんぺい)余地(よち)(あた)えてしまうのではないか?ということである。


 俺はティークの反論に対して……


「いえ。それについては問題(もんだい)御座(ござ)いません」


 問題無い、と答える。


 そして……




「グループを利用した隠蔽の可能性を排除(はいじょ)するために、各世帯の収穫量もテンプレートに書かせるので御座います」




 問題無い理由を()げる。

「面白かった!」


「続きが気になる!」


「この作品を応援している!」


と思ったら


下にある【☆☆☆☆☆】から作品への応援をしていただけるとうれしいです!


あなたのお好きな☆の数で大丈夫です!


ブックマークもいただけると幸いです。


よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ