第102話 長の甥
「名乗ろうか」
俺に視線を向けながら、男はそう呟いた。
「今回、お前がどのように是正を行ったのか……そして、その理由も理解した」
男は続ける。
「であれば、こちらも少し語るとしよう」
男はそう言った。
「まず……お前の説明によれば、お前はこの徴税報告の場に数年前から出ているのだな?」
男は俺に質問する。
「はい。その通りに御座います」
俺は肯定で答える。
「では、今回俺が来た時、毎年来ていた徴税官と俺が違う人物であることに疑問を感じたのではないか?」
男はもう一つ質問してくる。
「はい。左様に御座います」
俺はそう答える。
そう……
実はこの男、俺が徴税報告の場に立ち会うようになってから、毎年会う徴税官とは全然違う人物なのだ。
毎年やってくる徴税官は俺が徴税報告に参加するようになった3歳の時から、全て同じ人物である。
その徴税官は目の前の男よりも10歳ほど若くて30歳くらいであり、身長も男よりは5センチメートル(cm)ほど高い。
その服は、男が来ているような上下の服が一体化した服では無く、普通に上下が分かれている服であった。
そして、その質は男の服よりは低品質なものだが、俺や村長の服よりは高品質なものであった。
つまり、目の前の男は毎年来る徴税官とは明らかな別人なのである。
では、この男は一体誰なのか?
男は……
「俺の名はティーク・リ・アーテスと言う」
「アーテスの長であらせられるアーテス長様の甥に当たる」
「そして、俺はアーテス長様の下で秘書官の役職を与えられている」
自分のことを、そう説明した。
俺はそれを聞いて……
(なるほど)
と思う。
(この続柄、この地位……なるほど。どうりで人数が多い訳だ)
俺が続けてそう考えていると……
「いつもの徴税官が連れている人数よりも、今回俺が連れてきた人数の方が多くて、不思議に思ったのではないか?」
男……もとい、ティークは自分の後ろと俺の後ろに依然として立ち続けている3人に目を向けながら、俺にそう言ってきた。
「はい」
俺は肯定で返した。
去年まで来ていた徴税官は1人でこの村に来ていた訳では無い。
毎年、その傍らに2人の男を連れていた。
だが、連れてくる人数は毎年2人だけであり、ティークみたいに4人も連れてくることは一度として無かった。
(確かに、いつもの徴税官とは連れている人数が違う。だがそれは……)
「ここにいる3人とこの部屋には入ってこなかった1人は俺の護衛の者でな。俺の立場上、少し増えてしまうのだ」
ティークは自分が連れて来た4人のことを護衛である、と説明した。
(やっぱり護衛だよな)
俺はその説明を聞いて納得する。
俺は、いつもの徴税官が連れている2人を見た時にも、その2人が護衛であると思った。
そして、その考えは当たっていたようだ。
ティークがいつもの徴税官よりも多くの護衛を連れてきているのは、身分の違いであろう。
アーテス長の親戚で、しかも秘書官という役職も持っている……そんな身分の高い人物が来るとすれば、そんな人物が連れてくる護衛の数が平の徴税官よりも多くのなるのは当然であろう。
スッ
ティークは自身の護衛に向けていた視線を、俺へと戻した。
「そして、お前は、なぜいつもの徴税官ではなく俺が来たのだ?と思っているのではないか?」
ティークは俺にそう質問する。
「はい。その通りに御座います」
俺は肯定で答えた。
「今回俺が来たのは……いつもの徴税官には裁量権が無いから、とだけ言っておこう」
ティークは至極簡潔に答えた。
(……なるほど)
俺はその答えに疑問を感じることは無かった。
キッ
ティークは俺のことを観察するように視線を強めてきた。
「……ふむ」
しかし、その表情はすぐに何かに納得したような表情になった。
「では……」
ティークはそう口火を切ると……
「今回の件に対する報奨へと移ろうか」
俺にそう告げた。
俺はそれを聞くと……
(最高に都合が良いぞ)
と思った。
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