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片思いの子にフラれたら、東京一の美少女に「あたしがいるでしょ」とキスされた

作者: 相野仁

 同じ中学で、同じクラスだった浅川さん。


 美しい黒髪がよく似合う優等生で、窓際で本や教科書を開いている姿はまるで絵のようだった。


 クラスで一番とは言わなくても、三番目くらいには可愛い女子。

 おとなしくて目立たないけど、男子の人気はひそかにあった子。


 学力の違いってやつはなかなか残酷で、彼女は偏差値70あるという公立高校に進学した。


 ……告白できないままに。

 せめてもの救いがあるとすれば、通学に使う路線が同じだったことだ。


 俺のほうが調整すれば、彼女と同じ車両に乗ることは可能だったのだ。

 

「おはよう」


 と俺を見ると微笑してくれるのがうれしい。

 

「おはよう」


 毎日だと彼女目当てだとばれそうなのが怖くて、二、三日に一回ペースだったけど、充分幸せだった。


 いつの間にか我慢できなくなってしまって、


「前から君のことが好きだったんだ」


 駅のホームでつい言ってしまった。


「ごめんなさい。彼氏いるの」


 答えは無情だった。

 申し訳なさそうな顔をされたことが余計につらい。


 冷たくあしらわれたほうがまだマシだったかもしれない。

 ……あまりにきつかったので、彼女と同じ電車に乗れず、一本遅らせてしまった。


 もともと浅川さんに合わせて早めに出ていたので、何の問題もなかった。

 泣かないようにするので必死だった。


 後悔の念が脳をぐるぐると渦巻いて、どうやって学校にたどり着いたのか、よく覚えてない。


「どうしたんだ?」


 同級生や先生に聞かれたが、まさかフラれてダメージを受けたなんて言えるはずがなかった。

 

 授業がまったく頭に入ってこず、昼休みに屋上に向かった。

 季節は六月で蒸し暑くなってきてるけど、今日は風があるからいい。


「ダメだな、俺は」


 と青空を見上げて自嘲をこぼす。

 オッケーをもらえるという手ごたえがあったわけじゃない。


 なのにまさかここまでダメージを受けるなんて。

 自分の繊細さに自分でも驚いている。


 ……ご飯を食べようと思ったが、そんな気分じゃない。


「あら、君、いたんだ?」


 と思っていたらいきなり女子の声が上から降ってくる。


 俺がもたれてる壁の横にははしごがあって、そこからさらに上に登ることも可能だ。


 そしてそこに誰がいるのか、声の主のことを俺は知っている。


「ええ」


 上を見れば予想通り、飛びぬけて顔がいい女子の姿があった。

 茶色く染めたボブヘアーがよく似合った女子は、一年上の先輩だ。


 はしごを降りてきて、俺の横に並ぶ。

 猫を思わせる目でこっちを見上げながら、


「今日はとりわけ元気がないね?」


 と話しかけてくる。


 この人は雨宮愛梨紗先輩で、ただモデルをやっているだけじゃない。

 「東京一可愛い女子高校生グランプリ」で優勝したことで話題になった人だ。


 たしかにいままで見たことがある女子の中で、雨宮先輩が間違いなく一番美人だと思う。


 ブラウスの上からでもふくらみがわかるので、視線が吸われないように意識を強く持つ必要がある。


「ええっと」


 事実を打ち明けるべきかためらって、言葉を濁して座り込む。

 すると雨宮先輩が当然という顔で隣に座る。


「お姉さんに話してごらん?」

 

 いつもはこんな食い下がってこないので戸惑う。

 ……迷ったけど、俺は結局しゃべってしまった。


 一度話すと決めたらすらすら出てくる。

 本当は誰かに聞いてもらいたかったのか、と思ったくらいに。


「つまり片思いの女の子にフラれて失恋しちゃったんだね」


「はい」


 容赦ないなと思ったけど、恥の上塗りにならないように耐える。


「それでこの世の終わりみたいな顔をしてたのね」


 その通りだろうけど、ニヤニヤするなんて雨宮先輩ってけっこう性格が悪いんだな。


 ムッとすると、


「こわい顔しない。別にバカにしてるわけじゃないんだから」


 雨宮先輩に言われてしまったので反省する。

 たしかに過剰反応だったかも。


「女なんてほかにいくらでもいるでしょ? 元気出しなさいよ」


 と言われたけど、正直はげましの定型文だとしか思えない。

 

「そんなこと言われましても……」


 すぐに切り替えられるわけがない。


 雨宮先輩のような誰もが認める美少女なら、きっとフラれるなんてこともないんだろう。


 俺みたいな恋愛弱者の気持ちなんて彼女には理解できないのだ。

 八つ当たりしたくなりそうだ。


「そっとしてくれませんか?」


 と言ってそっぽ向く。


「ヤダ」


 まさかの即答だった。

 さすがにイラっとして、


「何でですか?」


 と彼女をにらむと、とんでもない綺麗な顔が目と鼻の先にあった。


「!?」

 

 ぎょっとした固まった瞬間、柔らかいものが俺の唇に触れる。

 …………。


 雨宮先輩にキスされているんだって脳が理解するまで、たっぷり五秒くらいは必要だった。


 風のせいか、先輩のほうからとても甘くていい香りがする。

 シャンプーの匂いか、それとも香水でも使ってるんだろうか?


 ようやく唇を離した先輩は真っ赤になってこっちをにらみながら、


「あんたにはあたしがいるでしょ?」


 と言う。

 ……彼女の気持ちを何とか理解したけど、混乱はおさまらない。


「え? えっ?」


 思わず声に出してしまうと、


「何で毎日屋上にあたしがいたのか、ほんとに気づいてなかったのね」


 呆れた顔で言われる。


「はい」


 まったく気づいてませんでした。


 クラスで目立たない男子にすぎない俺のことを、学校の女子全員が黙って白旗をあげるような美少女な先輩がなんて、普通は予想しない。


 これは俺の責任とは言えないはずだ。


「あんたを振るような女なんて、あたしが忘れさせてあげる」


 と言って雨宮先輩はもう一度キスをしてくる。

 数秒後、唇を離した先輩はガチ恋距離から


「返事は?」


 と甘い声でささやいてきた。


「……はい」


 失恋のショックなんてすっかり吹っ飛ばされてしまっていた俺は、反射的に受け入れてしまう。



 ……それから先輩は俺にべたべたしてくるようになった。

 周囲が騒いでも完全に無視を決め込んでいた。


「あんたは磨けば光るんだから、ちょっとはオシャレして」


 と雨宮先輩は要求してくる。

 

「えー」


 オシャレに興味がない俺としては簡単には承知できない。


「いい男になったら、ご褒美あげる♡」


「がんばります」


 もっとも雨宮先輩に甘い声で言われると、すぐに陥落する程度にはちょろいのだが。


「風間君ってかっこよかったんだね」


「雨宮先輩って見る目あったんだ」


「惜しいことしたかも。雨宮先輩じゃ勝ち目ないし」


 半信半疑だったのだが、クラスの女子たちから好意的な意見を言われるようになって、すぐに先輩のセンスのすごさを知ることになる。


 まさか俺が女子からかっこいいって言われる日が来るなんて……。


「お前って雨宮先輩と付き合うようになって変わったよな」


「そうか?」


 男子たちからさえも言われるようになった。

 雨宮先輩マジックってすごい。


「ねえねえ、デートに行こうよ」


 いつものように雨宮先輩の誘いで駅前デートする日。


「あっ」


 浅川さんとばったり遭遇した。

 綺麗なワンピースを着て、オシャレを頑張っていると俺でもわかる。


 隣にいるのは知らないイケメンだった。


「風間君?」


 浅川さんが驚いた顔で俺を見つめる。


「ああ、久しぶりだね」


 動揺がまったくないことに俺自身が一番驚きだ。

 隣で腕を絡めてくる雨宮先輩の存在がそれだけ大きいのかも。


「まさか、雨宮愛梨紗?」


 浅川さんの彼氏は先輩のことを知っていたらしい。


「そうよ」


 先輩は俺に体を密着させてくる。

 

「彼氏とラブラブデート中」


 と言ってから俺に素敵な笑顔を向けて、


「行きましょ? 時間がもったいないから」


 と言ってきた。


「そうだね」


 先輩のおかげで浅川さんのことがすっかり過去になっていると自覚できたので、俺は言われた通りその場を離れる。


「あ……」


 と声が聞こえたのは気のせいだろう。

 


 浅川さんと同じ学校に進学した旧友から、「浅川さんは男を見る目がない」という噂が流れていると聞いた。


 ……そんな悪い男には見えなかったけど、浅川さんは騙されたんだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 学力の違いは残酷→✕ 学力の差を埋めるために勉学に励んでいたわけではないし、彼女ほどの努力なんて最初からしていなかった→○
[気になる点] ほんとに好きなら自分磨きしろよ
[気になる点] お洒落に興味が無いからといって、自分磨きをしない主人公が女に告白って、主人公って相当な地雷だな
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