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第25話 メニュー試食会

 開店に向けてあれこれ準備が進んでいくなかで、私はある日、村のみんなを集めた。

 オープンする店で提供する予定の料理を、実際に試食してもらうのだ。

 みんな、刺身がよっぽど気に入ったのか、他のメニューも楽しみにしてくれている。

 転移装置で行ける場所をあちこち飛び回って、必要な材料を集めてきたからね。

 料理人の私にも気合が入る。

 自分でいうのも何だけど、私って料理のセンスがあるみたいで、たいていのものはイメージ通りに作れてしまった。

 すっごい自画自賛になっちゃってるけど。


「はーい。まずは1品目」


 私は村のみんなへ料理を乗せた皿を運ぶ。

 1人では手が回らないので、ニナも手伝ってくれていた。

 実際に店がオープンしたら、ニナはウェイトレスとして手伝ってくれることになっている。

 面白そうだから、店で働いてみたいんだそうだ。

 本当に働くのが好きなんだよねぇ。


 1品目は、マグロに近い赤身の魚のステーキだ。

 表面は火が通っているけど、中はレアになっている。

 このレア加減は、新鮮な魚でなければ表現できない。

 刺身と同じように、王都という海から離れた場所で売りに出来るメニューだ。


「ステーキだよ。さあ召し上がれ」


 丁寧に切り分けたり、かぶりついたり、みんなそれぞれの方法でステーキを試食する。

 そして一様に言った。


「「「「「美味しい!」」」」」


「良かったぁ~」


 赤身のステーキは採用っと。

 ミョン爺が感心しながら、ばくばく食べている。


「美味いのう……。中は生に見えるが、ちゃんと火はとおっておるから温かい。旨味がぐっと増しておるが、刺身の良さも残っておる。これは売れること間違いなしじゃ」


「ありがとう。そう言ってもらえると自信がつくよ」


 さてさて、どんどん行こう。

 続いての料理を運ぶと、ミョン爺や隣に座るティガスは不思議そうな顔をした。


「これは……刺身じゃないのか?」


 ティガスの質問に、私は引っかかってくれたねと笑う。

 私が運んだのは、確かに見た目には白身魚の刺身。

 日本人なら、結構な数の人が「なるほどな」となるだろうけど、異世界人になじみがないのは当然だ。


「まずは食べてみてよ」


 不思議そうな顔のまま、みんなが料理を口に運ぶ。

 すると表情が驚きに変わった。


「これは……ただの刺身じゃない!?」


 まんまと騙されてくれたので、私はニヤリと笑った。

 ミョン爺が、これまたバクバク食べながら食レポをしてくれる。


「火は通っていない。生の状態じゃ。でも刺身よりねっとりした食感で、風味も違う。魚の旨味はもちろんじゃが、また別の旨味があるのう。これは……海藻じゃな?」


「ご名答。さすがミョン爺だね」


 いわゆる昆布締めってやつだ。

 タイやヒラメなんかの白身魚を、酒で湿らせた昆布に包んで置いておく。

 日本酒はさすがに手に入らなかったので、仕方なく水で代用したけど、これもなかなかの美味しさだ。

 前日に仕込んでおけば、注文されてすぐに出せるというのも店側からしたらありがたい。


「これも合格かな?」


「もちろんじゃ」


「よしっ」


 私は軽くガッツポーズを決める。

 順調順調。

 この調子で3品目もいってみよう。

 ニナに手伝ってもらって、新たな料理をみんなに運ぶ。

 今度は一転して、きっちり火を通した料理だ。

 最初に刺身で食べた味がアジに近い魚。

 これをカラッと揚げてフライにした。

 今日はもうみんな仕事終わりということで、大人たちにはビールも出す。


「揚げ物じゃな」


「うん。ミョン爺、油とかきつい?」


「何を言うか。肉や揚げ物は大好物じゃ」


 さすがの健啖家だ。

 運ばれてきたビールを一気に飲み干すと、ニナにお代わりを頼んでいる。

 料理と一緒に楽しめよ……。料理と一緒に。


「これは何ですか?」


 フェンリアが、フライと一緒に運ばれた茶色っぽい粘土の高い液体を指さす。

 これもまた、異世界では見慣れないものだろう。


「中濃ソースって言うんだよ。フライにかけて食べてみて。味が濃いから、あんまりかけ過ぎないように」


 何でかは知らないけど、私は中濃ソースの作り方を知っていた。

 野菜やスパイスはこの世界でも手に入る。

 ワインやお酢も手に入る。

 配合を試行錯誤して作り上げたのが、この自慢の中濃ソースだ。


「美味い! 美味いぞ!」


 ソースをかけてかぶりついたミョン爺が、ビールを飲んで大きな声を上げた。

 元気なお爺さんだよ、本当に。


「これは素晴らしい取り合わせじゃな! フライ、ソース、そしてビール。どれも最高にマッチする。これは大人気になるぞ」


「それは良かった。じゃあこれも合格だね」


「当然じゃな」


「ちょっと提案なんだが」


 3品目の合格を勝ち取ったところで、ネロが手を挙げた。

 ……何か某バラエティ番組みたいなになってるな。

 私は大手飲食チェーンの開発担当じゃないし、村のみんなも一流料理人じゃないんだけど。


「このソース、めちゃくちゃ美味しい。単体でも売れると思うんだ。お持ち帰りとかで売ってみるのはどうだ?」


「なるほど……。それは考えたことなかった。でもありかもね。検討してみるよ」


 新しく商売の幅が広がったところで、いきましょう4品目。

 ちょっとヘビーだけど、次も揚げ物だ。

 それも日本人なら泣いて喜ぶ揚げ物。

 天ぷらだ。

 魚や貝、そして野菜も天ぷらにした天盛り。

 醤油がないので天つゆは作れなかったけど、お塩や魚から取ったお出汁で食べてもらう。

 小麦粉と卵、それに揚げる材料と油があれば和を再現できるんだから、これまた偉大な料理だ。


「おほっ……これはっ……」


 ミョン爺が恍惚の表情を浮かべる。

 これも気に入ってもらえたみたいだ。


「見事じゃの。サクッとした衣と、中の魚のふわふわほくほくとした食感……。だがどこか、親しみを感じる部分もある……」


「それは衣にビールが入ってるからじゃないかな?」


「何と! なるほどこのわずかに感じる風味はビールじゃったか!」


 ビールを入れることで衣がふわっとする効果がある。

 それにミョン爺が「親しみを感じる」といった通り、異世界人の味覚により寄せることもできる。

 ビール作戦、大成功みたいだ。


 みんなに食べてもらって美味しいと言ってもらえると、嬉しいし自信もつく。

 この調子で開店まで頑張るぞー。


「じゃあ次のメニュー行くよー!」


 私は元気よく叫ぶと、ニナと一緒に5品目を運ぶのだった。

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