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09. 謁見の間

 謁見の間は、左右を円柱状の列柱で支えられたとても細長い作りの空間だ。

 部屋の端から端まで長々と緋色の絨毯が敷かれ、最奥の数段高くなったところには、一脚の豪華な椅子が置かれている。

 そして、その椅子に不機嫌そうに座っているのは、豪華な黄金の髪を無造作に束ね、騎士団の略装に身を包んだ青年、勇者王子こと第一王子アレクサンダ。


 アレクの無事な姿を見て、私は安堵と嬉しさで思わず声が出そうになるのを全力で我慢した。

 魔王城で最後に見たときの彼の満身創痍で私の名を呼ぶ姿が、ずっと頭から離れなかったからだ。

(良かった! 本当に無事脱出できたのね。

 ここからではちょっと離れていてよくは見えないけど...どうやら元気そうだわ)


 ほんの数日前までは、手を伸ばせば届く所にいたのに、今はこんなにも遠い。

 この距離が、そのまま私とアレクの今の関係を表しているようで、転生して別の人間になってしまったという現実を再認識して悲しくなる。


「トレポ・レモス三級神官、よく戻った。

 して、次代の聖女は何処に」

 アレクの傍らに控えていた恰幅の良い年配の男性がレモスさんに声をかける。

(宰相さまのお声だわ)

 聞き覚えのある声に、私は思わず耳をそばだてた。

 上座からの声は、風魔法を応用した魔術機器で謁見の間の隅々まで届くようになっている。


「はい、宰相さま。トレポ・レモス、ただ今戻りました。

 聖女候補はこちらにー」

 そう言うとレモスさんはスッと一歩下がり、必然的に私が一歩前に進み出たふうになった。

(ふぁっ?!)

 いきなり紹介されてあせる私に周囲から視線が集まる。


「その幼子が?」

「はい、この子は奇しくも魔王が討伐されたその日、どこからともなく忽然と現れたのです。」

「ほほう?」

「そしてオケアという村の神官に助けられたとき、なんと全く記憶を失くした状態だったというのです。

 これは、『ムツア師による福音録』にある女神に愛されし聖者の出現の一節に酷似しています。

 まさしくこの子こそ次代の聖女である可能性が高いかと!」

「ほう...」

 レモスさんの説明を聞き、宰相様は見極めるかのようにじっと私を見つめたが

 対照的にアレクはあっさり興味を失ったように言った。

「なんだ、そのみすぼらしい子供は?

 私は次代の聖女を見つけてお連れせよと命じたのだぞ。

 はぁー、またハズレか」

「殿下、何度も申し上げますがお言葉が過ぎます。

 また、先ほどのような騒ぎにー」

諫める宰相様をアレクは面倒臭そうに手を振って遮り

「あー わかった、わかった。

 レモスとやら、ご苦労だった。

 しかし我が国の勇者、即ち私の傍には今すぐ聖女が必要なのだ!

 わかったら直ちにまた聖女探索の任に戻るように。

 行け!」

 レモスさんに改めて探索続行の命令を下した。

「はっ」


 平伏しながら、レモスさんは私のことを心配そうに見て言った。

「殿下、今一つだけ、この子の処遇ですが...」

「中央神殿預かりにすればよかろう、もう行け! 次っ!」

「は、はーっ!」

 

 こうして、アレクとの再会は慌ただしく、かつ、あっけなく終了した。


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