表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノクロとセピア  作者: 夏旗 二鹿
3/3

3章

 緑色の景色の中に、 さらさらと色がこぼれ落ちて行くような表情が見えた。

みるみると色を無くしたそれは、目を上げない。

 だから、

『暑いな。』

と言った。


 すると、その砕けた心の欠片に、 空の青さと、 緑の色が映り込んだ。

『暑いですね。』

と、あいつは言った。


 名前は、知らない。


 あれから、

「一年経ったのか」

と俺が言うと、

「一年経ったんだね。」

とあいつは言った。

「今年も去年も、 何も変わらないような。」

「変わっただろ。」

と俺は言う。

「そう。 何が?」

あいつは首をかしげて尋ねた。


 サツキ、背が伸びた。

 あいつ、の髪も伸びた。


「そうだね、 伸びた。」

あいつは、小さな声で呟く。


 その声が、 不意にくすぐったかった。


「君は、髪を切ったんだね。」

「....そうだ、 切った。」

言われて俺は呟く。


 変わったのだ、色々なものが。


 だけど、 あいつの 『時』は、たまに立ち止まっている。 あの夏で、 立ち止まっている。 草の匂いがするその世界は透明だった。

 それは、俺に背を向けて立っていた。 そして、ただ前を見つめている。 二つに分かれるその道を、 それ、 は見ていた。 一つの道の先にはジャンプ台、 もう 一つの道は、ただただ、 灰色の道が続いているだけだ。 それは振り返らない。


 でも、俺には分かっている。 それ、 はあいつだ。

 これは、あいつの世界だ。


 ゴチャゴチャした色に襲われそうだった。 かき分けても、かき分けても、 のっぺりとした色の大群が押し寄せて来る。 目が痛くて、前に進めなくなった。

 俺は、しばらく立ち尽くした。 どうしようもなくみじめで、 笑える気がした。

 もう、 後ろを向いて、逃げてしまおうか。 どうせ、ここに居た所で、何も、もう進 むべき道さえ見えない。

 俺は、後ろを向いて、走って逃げた。 方向も何も考えないまま、ただ色から逃げた。


 そして、そこに辿りついた。 色の無い、 あいつの世界に。


 まだ、道の途中であいつは立ちすくんでいる。 そして、 しゃがみ込んで呟いている。

「そうだよ、怖い。 怖いものは仕方無いでしょ? 今の私にはホラー映画も、人生の 何かを変えることも怖い。 いつかは変わるのだろうけど。」

 それで、俺は言う。

「面倒なやつだな。」

と。


俺は、その色の欠片を持ったまま、あいつを追い掛ける。

『嫌だ』

とあいつが言うのが聞こえる。

『そんなの嫌だ』

何が嫌なのか、何が怖いのか、本当はもう分かるのに。


 名前を呼びたかった。 だけど、俺はあいつの名前を知らない。 あいつは振り返らない。 追い掛けるしか無いのだ。



 そこに、奴が居た。

「涼しくなったね。」

と私が言うと、

「そうだな」

と奴は答える。

「秋になったんだな。」

「そうか、 秋なんだね。」

私は、いつものように隣に座る。

 すると、 奴は言った。

「去年から、 何も変わっていないものもある。」

「え?」

私はきょとんとする。


 だけど、 少ししてから分かった。

「私と君が、 ここに居る事。 そうでしょう?」

「そうだ。」

そして奴は言う。


「それはきっと、名前を付けても、 何も変わらない。」

「そう、なのかな…..」

普通に答えたつもりが、語尾が震える。

 だけど奴は、繰り返す。

「変わらない。」


 きっと、そこで奴は、私を見ていたのだ。


 二つに分かれた道の前に居る、 私のすぐそばに。 奴が揚げた色の欠片の乱反射で、 道が彩られて行く。

「変わらない」

と奴は言う。

「今のところ、俺はここに居る。」

それで私は呟く。

「そうか、変わらないんだね。」


 私と奴は、歩いて行く。 銀色のジャンプ台がある方へ。 振り返れば、二人分の足跡がついたその道は、 セピア色に染まっていた。


 そうしてやっと、口を開いた。


「君の名前を、教えてよ。」


[完]


これからもお互いを知るのには、まだまだ時間がかかるようです。でも、それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ