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第1話・6

 なんという、……非道な人間か!!!

 女性の、股間を、国の国防をかけた確認のためとはいえ、触ろうとするなんて! 

 しかもそれは、アキラが人生で初めて気持ちを伝えた、相手なのだ。


 相手なのだぞ!


 その女性の、


 股間を、


 自身の敗北の最中に、


 触るだなんて!


「許せない、絶対に許せない」


 アキラは絶叫しそうになり、殴りかかろうとしそうになった。


 だが、……アキラはにはできなかった。


 殴りかかろうとする気配すら、出せなかった。

 

 なぜなら、相手は国際的殴り合いに参加するほどのファイターであるという事実に、アキラは、ただの高校生は、丸刈りの、文化部なのに丸刈りの童貞は、気おされていたからだ。


 気おされて、いたからだ!


 だから、できない。


 自分はただの高校生だから、国際的殴り合いに、出場できるような人間に、


 立ち向かうことが、できない。


 ……できない。


 できない、のだ……。


「ああ……」


 アキラは一人で絶望している。その絶望の間にも、ラーメンはぺらぺらとしゃべり続けた。


「そうですそのとき、あなたから頭蓋への攻撃と、正中線連打、空中二段回し蹴りを同時多発的に喰らっている最中――わたしは、あなたの股間を触り、確認しました……」


「あなたには、男性器が付いていない! それは確認、したのです! したのです!」


「しかし――」


「平塚ミツル! あなたが宦官、という可能性もあるッ! つまり男性器を切除した人間という可能性です。……古代中国では性欲を絶ち、自身の集中力を高める方法として、男性器の削除を自主的にやっていたという風習もあります」


「つまり、なにが、いいたいかというと……ラーメン!」


 次の瞬間、ラーメンはミツルに飛びかかってきた!


「私の無事はどうでもいい! 祖国の防衛のため、日本の誇る国防の象徴が男性か女性か、それを確かめるために、私は今から、あなたのパンティを脱がせ、女性かどうか確認をさせていただくのですラーメン!!!!」


 そう絶叫すると、飛びあがったラーメン氏の体は胴体から真っ二つになり、ジェット噴射をしながらロケット上半身として体当たりしてきたのだった!


「なんだ、なんだこの体は!!!!」


 アキラは驚く。胴体が真っ二つに分裂しジェット噴射しながら「ラーメン」と言って笑う人間なんて、初めて見たからだ!


 初めて見たからだ!


「ラーメンラーメン!! ふはははは! この体にしたのは理由がある! わがユーゴの誇る少林寺相撲術は、確かに発展途上で、最強の武、たりえないかもしれない! しかし、この体で世界各国の国防情報を得て、上半身ジェットで脱出すれば、故郷の国防の一助になり、分裂した祖国をふたたび……。ええい、行くぞ!! ラーメン!!!」


 ラーメン氏のような、上半身の中にジェット機を仕込むというのは、この演習のレギュレーションの完全なる違反である。そんな事は国際政治上、許されるはずがない。

 この演習では、火器、そして補給が必要になる武器の持ち込みは禁止なのだ。

 ぎりぎり許されると言えば、たまたま身に着けていた扇子、たまたま身に着けていたベルト、機内で読もうとしていた藤子不二雄Aの『まんが道』、たまたま尻の穴の中に隠せていた毒クナイ、腹の脂肪の間に隠し通せていた毒クナイ……武器として許されるとすればそんなところだろうか。

 厳密に言えば「民間航空機に乗客として乗れるかどうか」がルールとなっている。だから、尻の穴の中に毒クナイを隠していたとしても、金属探知機を通過できない事もある。

 そんな時、誤魔化せる技術があればいいが、そもそも尻の中に毒を仕込んだら、自身が毒におかされてしまうのではないだろうか? そのうえでクナイを奪われてしまったら、目も当てられないと思う。


 ともかく、「民間航空機の乗客としてチェックを受けても通過できるかどうか」。

 それが「ピンポイントの武力制圧」のための、絶対必須条件なのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……ピンポイントの武力とは、どういうことか。


 ここで話はわき道にそれる。文字を読むのが苦痛だという方は、この間にトイレに行くなり、読み飛ばしてくださっても構わない。


 従来までの、重火器やミサイルは、確かに強力な破壊兵器だ。正直言って格闘家は、銃やミサイルには勝つことはできない。これは、事実である。


 だが、現在世界で紛争解決手段に、重火器は役に立たなくなった。


 国と国との争いで「大量に破壊」をしていては、争いをしない第三国に大いに利することになってしまう。さらに、大量の破壊ののち、賠償金を得るような政治手法が取れなくなった。一時的に相手国の通貨を根こそぎ奪ったからと言って、それは、なんにもならない。タダ同然の紙屑を、相手国を焦土にしてまで得ても、得することは何もないのだ。


 そのことを、世界は先の大戦で学んだ。

 破壊で得られる賠償金の利益より、その後の経済混乱した国家から移民やテロ、憎悪による損益のほうが、結果として戦争という政策を決定した国家として危機を招く。


 今、国防に必要な「武」とは、個人・少数で突発的に起こるテロや、カルトの首魁、国家転覆扇動者を、破壊を伴わず鎮圧する力だ。


 だから、各国はスモウを欲した。


 スモウは、領域を定め、その領域から敵を押し出すか、地に付け調伏せしめるという手段で勝利が決される。

 まさに、「国防」にぴったりの概念である。

 なにより、敵を無傷で「敗北」せしめることができるのも大きい。


 殺戮を生まず、しかも、お相撲さんは人であるから山や建物、地下、人が隠れるどんなところにも入り込むことができる。これは現在のドローン技術にもできることではない。お相撲さんは、破壊を伴う事もなく、立場や主張の違うものをどこまでも追跡し、一時的に制することができるのだ。


 これは前述した『刃牙』シリーズでの漫画の爆発的ヒットによる、世界的啓蒙も大きい。たった一人の格闘家が国防バランスを担いえることを示したこの漫画は、各国の国防論に大きな影響を及ぼしたのだ。

 世界各国はスモウを研究し、今ではテロ対策に当たり前のように世界各国お相撲さんを採用している。


 世界を旅するバックパッカーにはもはや常識なのだが、今世界中の警察官や軍隊に、必ず一人はお相撲さんがいる。

 必ずいるのだ。

 見かけなかったとしたら、それはきっと、事務所や詰所で待機しているのだ。


 絶対に、お相撲さんは、世界中に、いる。


 日本に居て、ネットだけしているあなたのような人間には分からないかもしれないが、今、世界中にスモウはあり、スモウはテロの抑止力として、銃にとって代わりつつあるのだ。


 代わりつつ、在るのだ。


 しかし、その、世界最強の抑止力あるお相撲さんを、一撃で凌駕する「道」が、もしこの世にあったとしたら……。


 あったとしたら……?


 それはいったい、なんなのだろうか? どんなものに……なるのだろうか? 

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