第1話・5
「こ、ここは!!!!!!!」
そこは……
まさに、先ほどまで見ていたバトルフィールドになっていたグラウンドの、通用口ではないか!
負傷した191の国と地域の代表選手たちが、救護班に抱えられながら通用口へ運ばれつつある。
殺気立ち、うめき声があちこちで聞こえる、凄惨な状況。
エンマとアキラはその中をゆく――
中には、顔面に大けがを負っていたり、関節が嫌な方向に曲がっている者もいて、アキラは思わず目をそらした。
こんな地獄の中に、ミツルは戦っていたのか――?
「ミツル……」
エンマが声をかけた。
アキラが顔を見上げると、そこには……
先ほどまでバトルロワイアル……生き残りの殴り合いをしていた、ミツルの姿があった。
アキラも声をかけようとしたとき、
母のエンマがすっと、
ミツルを抱きしめた。
「よく……頑張りましたね。そして、ようやく、はじまるのね……」
エンマがミツルにそう言って頭をなでる。
まるで美しい宗教絵画のような一瞬――アキラはただそれを見ている。
はじまる。
……はじまる?
今、始まると言ったのか?
いったい、何が――?
ミツルは母をゆっくりとほどくと、そのまま出口の階段を下ろうとする。
「ミツル!」
アキラは声をかける。
ミツルは階段を2、3、降りたところで立ち止まった。
「……見、ちゃった?」
ミツルがアキラに声をかける。
「見たよ。ミツルが、戦っているところ……。戦っているところ? ん?」
アキラはふと、思った。
自分は本当にミツルが、戦っているところを見たのだろうか?
ミツルはその戦いの全てが……一瞬であった。相手と対峙し、次の瞬間、相手は地に、伏せていたのだ。
「じゃあ、私のこと、わかったんだ」
「……わっ……。分からない。……分からないよ。なんだよ。なんなんだよ。君は! ……普通の、女子高生じゃないっていうのか!」
と言いかけたその時、割って入り、拍手しながら声をかけてくるものがいた。
「いやあ、ラーメン、ラーメン、ラーメン……ラーメン!」
ラーメン?
ラーメンとは、なんなのか?
茹でた中華麺にスープの入った、あれなのか?
そう思いつつアキラとミツルは振り向く。
「日本代表――平塚ミツルさんですか。いやあ、強かったラーメンですねー。」
見れば、キツネ顔で髪をざんばらにそり上げた、中国の国旗をあしらった赤いまわしに上半身が中華人民服を付けた男が話しかけてくる。
「あなたは……」
「ユーゴスラビア代表・マイティ・ラーメンです。少林寺流相撲術師として、あなたに挑み、48番目に倒された者です。ラーメン!」
中国代表じゃなかったのか。
明らかに格好からして中国だと思ったが、人は見かけによらないものだとアキラは真剣に思った。
しかしよく考えれば、なるほど、中国風の格好をしていれば、中国代表と思われ、あの国力を持った国が派遣する武人であればと警戒され、このバトルロイヤルルールの演習の中では、生き延びる時間が長くなるかもしれない。
だから名前を「ラーメン」とし、語尾にも「ラーメン」と中華発祥の料理の名前をつければ、「あっ、この人は、さては、中国人に、違いない」と誤誘導もできるだろう。
この男、意外に頭脳派ファイターなのかもしれない……とアキラは警戒する。
「あなたには一瞬で完膚なきまでに叩きのめされました。それは事実です。私はそれを受け入れます……、しかし、どうしても解せないのです。」
ミツルは、ぼんやりと生気のない目で、ラーメン氏を見つめている
ラーメン氏は一瞬、キッと眼光鋭くミツルに向き直る。
「あなた……本当に女性なのですか? 古来、白兵戦を主とする兵や格闘家に、女性はいませんでした。なぜなら、女性は圧倒的に、筋力が少ない……。さらに、月経により、体調も不安定になる。私はあなたと対峙した時、あなたが本当は男性で、女性の格好で擬態し、油断を誘っているのかと思いました」
「しかし――」
「あなたが本当に女性なのかどうか。それを知りたい……。だから敗北を覚悟したそのとき、私は祖国に日本の国防データを持ち帰らんがため、手を伸ばし、あなたの股間を触り、確認しました!」
「なんだって!」」
アキラは絶叫した。
ミツルは微動だにしていない。
「ラーメン! ええ、確認しましたとも! 私が攻撃を受けている間、私はあなたの、股間を、触りました、この手でね!! ラーメン!!!」
ラーメンは目を見開き、右手を高々と見せつける!!!!
「やー!」