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第1話・1

 いま、目の前で起きている事を、冷静に言葉にしなければならない、と……時任アキラは思った。


 思ったのだ。

 いや、思ったのだ!

 だから、冷静に、ならなくてはならない――そう思って、……思ったので、アキラは、少しだけ、息を、吐いた。息を吐かなくては、冷静になどなれないのだ。絶対に――。絶対にそれはそうなのだ。


 ……まず、ここはどこか。


 どこなのか?


 静岡であることは、目隠しをされる前に確認した。

 乗車した車の車窓から看板が見えたのだ。

 ここは、静岡である。静岡であろう。

 そう、静岡で、間違い、ない。間違いないはずだ。


 そして、「あの人」のいう言葉を真に受けるならば、ここは、


 ――自衛隊の富士演習場――!


 そう、時々ニュースで、戦車や大砲の試射が行われる場所であり――その、「地下」であるらしい。


 いや、本当にここが、地下なのか?


 上空には無数の照明と、さらにその上にはぽっかりと、青空――太陽光が見えている。

 しかしその高さは想像を絶している。周囲は都心のビルの高さほどに岩肌があり、その天井がぽっかり穴が開いている。まるで、山の火口をくりぬいて、そのまま地下へ掘りぬいたような、そんな空間である。


 そしてその地底の中央。フラスコのようにぷっくりとした広がりがあり、それは野球場のような広さであって、そこに“グラウンド”と“観客席”がぐるりと取り囲んでいる。


 グラウンドと観客席。


 グラウンドと、観客席――?


 そう、グラウンドと、観客席だ! ここは、グラウンドを囲む、観客席だ!


 富士山付近の自衛隊演習地の地下約300メートルに、グラウンドと観客席が、そこにあったのだ!!!


 そしてその観客席、コンテナのような四角で括られたものが置かれている。それらは透明なガラスで覆われており、今アキラがいるところもそうだ。360度、すべて透明の壁で仕切られている。


 その数、ざっと300機。300機だ。

 そこに、椅子が数脚。観客は、ざっと計算するなら、ざっと3000人ほどが、ざっとその空間を見つめている。その誰もが、スーツやドレス、タキシード、ジェントルメン・ハット、もしくは民族衣装だ。ほぼ全裸の民族衣装の者もいる。しかし下卑な様子はない。限りなく全裸に近い誇りを身にまとっている。ざっと見る限り、それはそうなのだ。さらに、そのすぐそばにはミニテーブルがあり、そこには、ワインと、良く焼いたフォアグラが倶されている。


 そう、ここには、一言で言えば「上流階級」が、観客席を埋め尽くしているのだ。まるでここは……国会議事堂、いや、国連だ。国連総会だ! フォアグラのサービスのある国連総会といって、ほぼ間違いないのだ!!!!!


 なんでだ?


 アキラはそう思う。なぜ、自分が、ここにいるのか? ……そう思いながら、時任アキラ――普通の男子高校生、17歳、丸刈り、囲碁将棋部、得意科目は現国、童貞――は、本来「上流階級」がいるべき、観客席の椅子に座っている。


 何を見ているのか。


 女子高生だ。


 一人の、女子・高校生を、見て、いるのだ。


 見ているのだ!


 それはつい昨日、アキラが告白した彼女――平塚ミツルだ。

 平塚ミツルを、アキラは見ている。 


 平塚ミツル。

 平塚、ミツル――!

 平塚ミツルとは、何者か?!


「ミツルゥゥゥウウ!!!!」


 ミツルは、アキラと同じ学園の制服――ミニスカート、ブレザータイプ、紺のジャケットを纏い、手にはバンテージの代わりに学校指定の赤ネクタイが巻かれていた。

 身長は163cm。女子にしてはやや背の高いけど、サル顔で、ショートカットをバナナのピン止めでまとめている髪……アキラが告白した時、そうおととい、おととい、――7月14日。


 7月、14日だ。僕が人生で初めて、他人を好きだと言った日――!


 その7月14日と、何ら変わらない容貌のままで、グラウンドに相当する部分に、今日。今。平塚ミツルは、立っている!


 それは肉眼も確認できるし、いくつかあるカメラに捉えられ、座席脇に視界の邪魔にならないよう組まれた無数にある亀山モデルのディスプレイに大写しにもなっている。


 そこで、何が行われているというのか? 何が?


 何が?

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