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78話 鬼姫鎮圧戦~君の名を呼ぶ~

「キャハハハハ!」



 ギィンッ、ギィンッ、ギィィィィンッ——!



「くっ……戻って来い! ミリー!」


 ミリーの止まぬ剣撃に、俺は絶えずリベリオンを合わせ続ける。


『ナツキ! いくら名を呼んでも反応が無いぞ! リズは他に何か言ってなかったか!?』


『えーと、どうやら〝鬼丸〟には自我を取り戻すための《解呪》なる仕掛けがあるらしくて……刀を抜く前に、ミリーさんが設定するらしいのですが——』



「また仲間割れしてるぞ!」

「チャンスだ! まとめてやっちまえー!」

「撃てー!」



 次第に集まり始めた敵兵たちが、俺たちに向けて攻撃を仕掛けてくる。


「……鬱陶(うっとう)しいぞ! 《風切(かざきり)》!」



 ブワァン————ッ!



「ぎいやあああああ」

「うわあああああっ!」



 俺は斬撃を放ち、敵をまとめて薙ぎ払う。


「キャハハハハ!」


 ミリーも合わせるように俺から照準を外し、敵兵の中に飛び込んで行く。


(……俺を狙ってるわけじゃない? 向かってくる人間を狙っているのか——?)



『——その方法が、 〝特定の一人から名を呼ばれる〟ことらしいんです! そこまでしか……』


(名を呼ばれる……〝声〟か〝魔力〟に鍵がありそうだな——)


 ——しかしなるほど、前回捕まったのはそのせいだな?

 一人で【殿(しんがり)】を務めていたミリーの傍には、もちろん誰も居なかったはずだ。

 だとしたら、もはや《解呪》は叶わない。

 力尽きるまで暴れて、あとは地に伏すだけだ。


(そして普段は、共に戦場に出る〝誰か〟にそれを設定している——)




〝申し訳ないけど……私の見立てが甘かった〟




 ……リズの誤算は、恐らくここにあるんだろう。

 まさか今回の戦闘で、 〝自分(リズ)以外の声〟を設定されるなんて考えもしなかったはずだ。


 ——やはりこの状況では、リズの見立てが甘かったとは言えないな。

 俺が事前に仕掛け(それ)を知っていたとしても、やはりその相手はリズだと思うだろう。

 ミリーが降りたのがリズと同じ戦域であることに加え……そもそも、ここにはミリーの知り合いがほとんど居ないんだ。


(それが違うとなると……可能性があるのは、俺かヴァンしか居ないわけか——)


 ヴァンとミリーの関係はよく知らないが……とにかく、リズは俺にヤマを張ったということらしいな。



「……っ! ミリー!」


 集団に囲まれたミリーが、攻撃を(さば)き切れなくなってきている。

 (かわ)しているようで躱せておらず、受けているようで受けきれていない。

 敵からの刃や魔法を、一つ、また一つ……と、着実に被弾し始めている。

 だがその表情からは、一切の苦痛や(ゆが)みといったものが(うかが)えない。

 

(身体がダメージを認識していない……〝暴走形態(モード)〟の影響か——!)


「お前らぁ……! やめろおおおおお!」



 ズパッ、ズパッ、ズパァッ——!



「ぐはぁっ」

「ぎゃああああ」



 ミリーに群がる敵兵を、端から順に斬り伏せる。

 が——。



 ズバァッ——!



「なっ……ミリ——!」


「キャハハハハ!」


 ——相変わらず自我を失っているミリーが、左から俺を斬り付ける。

 恐らく……もう少しで、この左腕は完全に動かせなくなる。


(マズい……このままでは——)


 ——例え自我を失っているとはいえ、俺にはミリーを斬ることなどできない。

 仮に斬れたところで、その動きも止められるわけじゃない。

 そしてミリー本人は明らかに、その動きが鈍くなってきている。


(もし〝解呪の声〟が俺じゃなければ……完全に万策尽きるぞ——!)


 俺は一度後方に飛び退き、体勢を立て直す。


『はぁ……はぁっ……ナツキ、リズとチャンは……大丈夫か——?』


 俺がこうして手をこまねいている間に、全ての戦況が悪化していくのは間違いない。


『はい! リズさんに至っては、ずっとそちらを気にしています! 〝白狼はまだか〟、〝ミィは生きてるか〟と——』


字持ち(ネームド)〟を相手にしてなお、こっちを気にする余裕があるとはな。


(流石だな、リズ。俺も……応えなくっちゃな——!)


『……ははっ、約束したんだ。 〝俺は必ずやり遂げる〟と伝えろ。ミィも——』


 ——〝ミィ〟? ミリーのことか?

 あまり気にしたことはなかったが……リズはそんな風にミリーのことを呼んでたか?




〝……! ()()が——!〟




 ——そういえば確か、ミリーはリズのことをそう呼んでいた。



 本来は〝字持ち〟でさえ動かないという、捕虜の奪還任務。

 それにリズは、地位や名誉を捨ててまで出陣している。

 ……しかもこんな小隊でだ、明らかに危険過ぎる。


 あとは……特別な武器のためとはいえ、二人でわざわざサンテレシアまで行くか?

 戦争中のハルメニアを大きく(また)がなければ行けないような、遥か向こうの国だぞ?


 加えて、仮にも〝字持ち〟であるアイネに対してのあの態度——。



 ……俺が知ってるだけでも、これだけの示唆(しさ)がある。

 もはや間違いなく、二人は〝単なる知り合い〟のレベルじゃない。


(そんなリズではなく、 〝俺〟が鍵である可能性——)


 ——やはり〝声〟か? だがそれなら何度も掛けている。

 じゃあ〝魔力〟か? これも何度もぶつけている。


(何か……他に何か、見落としてることは——!)



 俺が牢から連れ出した。


 抱えて塔の上から飛び降りた。


 そこを動くなと約束し、ブランシュルーヴが来るまで護った。


 だが船が来ても乗り込まず、俺との約束を守り——。



(……あれ? あの時——)



 結果的に、ミリーは船の中に入った。

 だが、どうして動いた? ……単純に俺が来たからか?



 ——違う、俺が()()()()じゃない!



(イチかバチか……()()に賭けるしかない——!)



 俺はミリーから距離を取ったまま、リベリオンを強く握り込む。



「今は左手が使えないからな……()()()ぜスズカ! 【投擲形態(ムーンスロー)】——」



 リベリオンの柄の両端から、紫光の刃が具現化する。



「《風月輪(ふうげつりん)》!」



 俺はミリーを囲む敵兵たちに向け、リベリオンを投げ込む。



 ……シュルルルルッ——!



 リベリオンはチャクラムのように回転し、横に大きく弧を描いて飛んでいく。



 ズバババババッ——!



「ぎゃああああ!」

「うわあああああっ!」

「があぁっ」



 敵兵たちは気づかぬままに巻き込まれ、手前から順に切り刻まれていく。


(……よし! 上手くいった——!)



 ギュルルルルッ!



 リベリオンはその回転を速め、ミリーを中心にして回り続ける。



 ゴオオォォォォ——!



「なっ、なんだこれは!?」

「近づけない……!」



 やがて、外周に巻き起こった乱風——。

 敵兵たちは顔を(おお)い、その場に立っているのがやっとのようだ。


(持って……十秒ぐらいか——!)



 ダッ——!



 俺はその乱風の隙間を掻い潜り、チャクラムの横輪の軌道を飛び越える。



 ゴオオォォォォ——!



 俺に気づいたミリーが、一直線に駆けてくる。



 ゴオオォォォォ——!



 吹きすさぶ乱風により、それ以外の音の一切が聞こえない。


左手(こいつ)はもう……()()も同然だ——!)



 俺はなんとか左腕を持ち上げ、掌を前に突き出す。




〝じゃあ————と呼んでください〟




 ズバァッ——!



「ぐああっ……!」


 ミリーが何の躊躇(ためら)いも無く押し込んできた鬼丸が、俺の左の掌を突き抜ける。




〝……そうすれば、一旦言うことを聞きますわ〟




「捕まえたぞ……! ——うおおおおおおぉぉぉ!」


 俺はそのまま左手を思い切り引き、ミリーを引き寄せる。


「……ガアァァァッ!」


 暴れようとするミリーをなんとか抑え込み、そのまま抱き寄せる。

 俺は間髪入れず、その耳元に口を持っていく。



「戻って来い! 〝みるちー〟!」



 ビクゥッ——!



 大きく肩を揺らしたミリーから、だんだんと力が抜けていく。


(〝声〟に〝魔力〟、あとはやはり……意識の中で指定した〝呼び名〟だったか——!)


 ゆっくりと顔を上げたミリーが、下から俺を見上げる。



 ズッ——!



「ぐっ……!」



 俺は刺さっていた鬼丸を引き抜き、ミリーに視線を合わせる。



「旦那……様……(わたくし)——」


「……もういい、喋るな——」



 チィンッ——。



 俺は引き抜いた鬼丸を、ミリーが左手で持つ鞘に収める。

 そして鞘ごと奪い取り、そのまま自分の右腰に差し込む。



 ゴオオォォォォ……。



 乱風が収まり始めると共に、リベリオンもその回転を弱め始める。

 俺はしがみつくミリーを引きはがし、一旦その場に座らせる。


(何とか……間に合ったか——)



 パシッ——。



 俺はそのまま数歩前に出て、円を描いて飛んでいるリベリオンを右手で掴む。


(敵は……あらかた片付いたか——) 


 乱風の晴れた先——。

 辺り一帯に、敵兵が転がっている。

 まだ残存兵は居るには居るが……部隊としてはもはや虫の息、立て直す他ないだろう。


 俺は大きく息を吸い込む。


「これより間合いに入る者は即刻(そっこく)斬る! 首から下がいらない奴だけ前に出ろ! 今退ひくのであれば、追撃はしない!」


 たじろいだ敵兵たちが、キョロキョロとお互いの顔を見合わせている。



「ば、化物……」

「一度立て直すぞー!」

「ひ、退けー!」



 まばらに残っていた敵兵たちが、俺たちの前から退いていく——。



『——ナツキ、聞こえるか? ミリーはもう大丈夫だ、リズに伝えてやってくれ』


『さすがアルカ様! わかりました! ではこちらも次の段階に入りますっ』


(次は……確か、ヴァンのところにミリーを連れていくんだったな)


 抱え上げようと振り返った先で——。

 ミリーは俺から逃げるように、地を見て深く(うつむ)いている。


「やはり……お嫌いになりましたか——?」


 よく見ると……ミリーは片手で口元を抑えている。


(あれだけ暴れたこともそうだが……()()を気にしているのか——)


「何がだ? 可愛い()()()じゃないか」


「……っ!」


 ミリーはその手をゆっくりと下ろし、恐る恐る俺を見上げる。


 ——どうあれ、実際に助かった部分も大きい。

 今は余計なことはさておき、素直に(ねぎら)ってやりたい。


「私……お役に立てましたか——?」


「あぁ、もちろんだ。だからもう、ここからは俺に……俺たちに任せろ」


「……っ! はいっ」


 パァーっと笑ったミリーの頭を軽く()で、俺は背を向けてしゃがみ込む。

 ミリーはその傷ついた身体を預けるように、俺の背中にふわっと乗った。


()()……好き。大好きですわ」


(そういえば……今日二度目だったな、こうして背に抱えるのは——)


「怪我してるとこ悪いが、結構揺れるぞ」


()()()()()()のです、今は——」


(……ん? 身体に響くだけじゃないのか——?)


 ——まぁ考えたところで、どうすることができるわけでもない。

 申し訳ないが、今はこのまま行かせてもらう。


「……よし、行くか——!」



 どういう意味なのかは、さっぱりわからないまま——。


 俺は急ぎ、ヴァンの元へ向かった。

 読んで頂きありがとうございます。


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