表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/100

76話 金の泉~命を賭すな、想いを賭せ~

 急に映し出された空——。

 それに吸い込まれるように、俺の思考が遮断(しゃだん)される。


「しっかりして! 隊長でしょう!? チャンさんだって……あなたが連れてきたんじゃない!」


 ——意識の外で彷徨っていた俺は、耳を()く怒声に呼び戻される。

 俺はゆっくりと、その声の方に視線を下ろした。


「……! リズ——」


 振り抜かれたリズの右腕……その奥に、金の泉の揺らめきが見える。

 

(……あぁ、横っ面(はた)かれたのか——)


 ——リズの涙など、初めてみた。

 ただ事じゃない……一度落ち着いて、真剣に向き合うべきだ。


「俺が隊長で……俺がチャンを——」




『……わかった。だが最初に伝えた通り、テンペスト(ウチ)からは俺とチャンしか出せないぞ』




 ——そうだ、俺がチャンを連れてきた。

 そういう前提で、話を進めた。



 その強さを知っているから。

 ただ一人、背中を預けられる男だから。



(なのに俺は……あんなに取り乱して——)



『土壇場になって、結局は信じてないってことか?』


(違う)


『失礼なヤツだよな、 〝信じろ〟とか〝信じてる〟とか……口だけかよ?』


(違う!)


『例え相手が〝字持ち(ネームド)〟だとしても、道理が通らないだろう? お前らの信頼関係そのものを疑う——』


(うるさい! 俺は……俺たちは——!)



 ——どこからともなく聞こえる声が、俺の真意を問いただす。


 その問答(もんどう)に明確な決着を見ぬまま……再度、リズの震える唇が開く。


「私だって……出来るなら自分で止めてあげたい! でも無理なの! 今、ミリー(あのコ)の中に私は居ない! それをわかってて〝(エゴ)〟を突き通したところで……今以上に戦況は悪化するだけ!」


 ——(エゴ)? 戦況が悪化する?


「確かに私が巻き込んだ! でもだからこそ……私には、皆を無事に帰す責任がある!」


 ……違う、別に俺たちは巻き込まれたわけじゃない。

 自分たちで選択したんだ、別にリズのせいじゃ——。


「これが今考えられる最善手なの! 全員死なずに戻るのに……一番確率が高いって判断したの!」


 ——全員死なずに? 何言ってるんだ?

 仮に万が一があったとしても、死ぬのは【殿(しんがり)】の俺一人だ。

 例えこの命に代えても……全員離脱させてみせる、必ずだ。

 

「皆()()()に付いてきてるんでしょう!? だからこそ……! あなたの判断一つで——()()()()わよ!」



 ——リズレット・バレンタイン。

〝純粋な剣の腕だけであれば国内最強〟とまで(うた)われた、天下無双の【剣聖】。

 その実力は、俺も身を()って知っている。

 だが今、眼の前にいるそれは……瞳いっぱいに浮かべた、その雫のせいだろうか。


 どこにでも居そうな、普通の女性に見える。


(俺がリズを……こうさせたのか——?)


 ……あのリズがここまで言うんだ、必ず何か意味がある。

 単なる危機管理じゃない、俺が見落としている何かが——。




『一度は言うことを聞いて、離脱したみたいなんだけどね。でも結局その後……わかるだろ? 今、俺たちがしていることと同じだよ。——それで、全滅した』



 ——終わらない……のか?

 俺が【殿】になったところで——。



『そうなの? じゃあ()()は?』



 あいつらは関係ない……殺るなら俺を殺れ!



『まぁいいや、(アレ)を堕とすのは、キミの足を落としてからね』



 それが……戦争だっていうのか——!



「お……俺は——」


 言葉を(つむ)ぎだせない俺を見て——。

 全てを悟ったかのように、リズの眼は平静を取り戻す。


「……泣いていたわよ、ナツキさん——」


「……っ!」



『俺が行かないと……!』

 

 ——リズにその先を言い切れなかった本当の理由が、今やっとわかった。

〝核心〟がどうとか、そういう問題じゃない。

 とても説明できたことじゃなかったんだ。

 

〝スズカをこの手で殺す〟


 ——それを無理やり実行することが、戦況、任務、約束……その全てを無視した、俺の〝(エゴ)〟でしかなかったからだ。


 とてもリズを……皆を、納得させられるはずもない。

 そのことが、本能でわかっていたからなんだ。


 根拠のない殺意に、ただただ(とら)われていた。

 ……いや、例えそれに根拠があったとしても——。


(俺はもう……自分のことだけを考えて、生きていっていいわけじゃない——!)




『まだそんなこと言ってるの? これは戦争……仕事なんだよ? そもそも〝逃げた〟のはキミじゃないの? ()()、大丈夫?』




 逃げたつもりなんてなかった……けど、そうだよな。

 俺が〝(エゴ)〟を通すことは、結果的には逃げていることになるんだ。


(俺を信じて付いてきてくれている……[テンペスト(あいつら)]から——!)



 ——俺とリズの視線が、もう一度重なる。



「でも、泣いて頼まれたから来たんじゃない。私は——」


「わかってる。——すまない、俺がどうかしてた」


(……俺は最低だ、リズの想いも知らずに——)


 この〝配置換え(スイッチ)〟は、強いとか弱いとか……そういうことじゃなかった。

 どうしようもない俺の代わりに、リズが盤面を見ていてくれたんだ。

 本来なら隊長である俺の役目なのにな……散々迷惑を掛けた、とても頭が上がらない。


(そして……お前がそんなに()()()()()()()()()のも、もうわかってる——)


 そんなお前の〝義理〟に甘えて、 〝大事なもの〟を犠牲にさせるところだった。

 いや……既に片足突っ込んでるな。

 こうしてモタモタしている間にも、どうやらミリーは危険に晒されている。

 そりゃさすがのリズも、あれだけ激昂(げきこう)するわけだ。

 

(だがやはり……さすが、元【A特】の隊長だな——)


 ——それに比べて、俺はまだまだダメだ。

 でも……だからこそ、リズから学べることはたくさんある。


(今度は俺が……お前に応える番だ——!)


「もう大丈夫だ……ミリーは俺に預けろ! ——俺も、お前にチャンを預ける!」


〝お互いの大事なもの〟を、預けられる関係になるんだ!

 それがきっと……本当の意味での〝信頼〟であり、 〝仲間〟なんだ!


「……ええ、ミリーをお願い。チャンさんも絶対に死なせないわ。例え私が——」



 グッ——。



 俺はその口を塞ぐ代わりに、リベリオンでリズの剣を強く押し込む。


「その先は必要ない。——()()を、俺がさせない」



 ——命を()すな、想いを()せ。



 もはや俺にとってはお前の命も、あいつらと同等に重い。


「生きて帰りましょう、 〝白狼〟」



 クルッ——。



 リズは自分の剣を回転させ、リベリオンを上向きにすくい上げる。

 お互いの〝相棒〟が重なりあったまま、天に向けて交差する。


「当たり前だ、 【剣聖】。……戻ったら宴だぞ——!」


 まるで誓いを立てるかの如く——。

 俺たちの視線は自然と、見上げた空で重なった。



 フッ——。



 リズが視界から消えたのを確認し、俺は横陣に向き直る。


(今一瞬……笑ったか——?)


 ……そういえば、リズの笑顔は見たことがなかったな。

 俺がもっとちゃんとすれば……いつかそれも、見ることが出来るのだろうか——。

 


「さて……〝鬼姫様〟を迎えに行くか——」 



 ダッ——!



 俺は横陣に向けて、急ぎ移動を開始する。


(……! 身体が……軽いな——) 


 ——さっきまでとは、まるで違う。

 これは拘束が解かれたからとか、そういうことじゃない。




『ただ怒り狂ってるだけの人間なんて、全く怖くないよ。ゴメンだけど』




 そういうことか——。

 俺一人の〝(エゴ)〟だけじゃ……重くて、苦しくて、息が詰まって。

 周りが全然見えてなかった、見ようともしてなかった。


 誰かのために戦おうとするだけで、こんなにも強くなれる。

 誰かが俺の中に居てくれるだけで、こんなにも安心できる。


(想い一つで、こんなに変わるとはな——)



 結局のところ——。

 俺はどこまで行っても、 【殿】なのかもしれない。

 だが《撤退戦》の【殿】じゃ、結局は何も護れない。


 眼の前で失うか、見えないところで失うかのどちらかだ。


 それなら俺は……《殲滅戦》の【殿】になればいい。

 全てを護るために、全てを斬り伏せる。



 ——私怨(しえん)は捨てる、俺はもう迷わない。



(〝俺の大事なものを奪おうとする〟……それだけが、俺の敵である唯一の証だ——!)



 ——周りに敵兵が居ないおかげで、進みが早い。

 ほどなく横陣は、斬撃の射程範囲に入る。



『……聞こえるか?』


 ひどい切り方をしたからな——。


『——っ! ひぐっ……アルカ様ぁぁぁぁ』


 ——ごめんな。

 怒ってないのはわかってた。


 だけど傷つけたのも、わかってた。


『すまなかったな。——許してくれるか?』


『ぐすっ……。絶対許しますん——』


(……ははっ、どっちなんだ一体——)


 だが……それを確認するのはあとだな。

 申し訳ないが、俺のせいでもう時間がない。


『そうか……わかった、あとで煮るなり焼くなり好きにしてくれ。それより——』


『はい! わかりましたっ! では〝鬼姫鎮圧戦〟に入ります! ——準備はよろしいですか? アルカ様っ』


 ——そうだ。

 俺はお前の、そういうところが大好きなんだ。

 優しくて、いつも前を向いてて……いつだってそれに救われてきた。


(それを俺は……失うところだったんだな——)


 ——過去のことなんて、もうどうでもいい。

 今の俺を作っているのは、失った記憶……〝歩んできた道〟なんかじゃない。


『そういうことだ、ナツキ! ——サポート頼むぞ!』


 こうして今……こいつらと〝歩んでいる道〟が、俺を俺で居させてくれるんだ。

 そしてその〝歩んでいく道〟を、俺はもう見失ったりしない。


『はい! お任せください、アルカ様っ』


 だから全部まとめて、護り抜いてみせる。

 俺を俺たらしめるもの……その全てをだ!


「〝リベリオン〟——」 

 


 ——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。



(まずはミリー……お前からだ!)

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ