72話 乱入! 四龍爪~天翔る双龍~
バシャアンッ!
船外に飛び出てすぐ——。
俺とチャンは、ブランシュルーヴを覆う蒼の水球を突き抜ける。
(エリィ……ちゃんと届いてるぞ——!)
ビュオォォォォ——!
……だがおかげで、今回はエリィの《氷の道》は無い。
俺もチャンも、その身一つで落下していくことになる。
キラッ——。
(……ん? 今何か光ったような——)
降下するにつれて……その違和感の正体がはっきりと、俺たちの視界に映し出される。
「あれは……チャン!」
「多分大丈夫! 狙いは俺たちじゃない!」
——確かに、俺たちは降下を始めて間もない。
察知されることはおろか……その姿さえ、視認されているとは考えにくい。
「……ブランシュルーヴか——!」
ボッ、ボッ、ボッ——!
俺たちの横を、何発かの遠距離魔法がかすめていく。
「あいつら——!」
俺は身体を捻り、上空を確認する。
船は一発、二発……と追撃を振り切るが、三発目を被弾してしまった。
「アルカ! あれぐらいなら大丈夫だ! 今は下だよ! もう距離が無い!」
「……くそっ——!」
俺は体勢を戻し、ブランシュルーヴに背を向ける。
……わかってる、わかってるんだ。
『大丈夫です! 一発……一発なら、耐えてみせますっ』
——エリィもそう約束した。
だが、例えそれが小さなナイフだったとしても——。
(テンペストにそれを向けられただけで……俺は——!)
「アルカ、あそこ!」
チャンの指差した方——。
眼下の一点、一際砂塵の巻き上がっている場所がある。
(派手な野郎で良かった……わかりやすい!)
「あそこか……! チャン、大楯を構えろ!」
「……! でもそれじゃあ——」
——【聖騎士】として、自分が盾になるつもりだったんだろう。
だがチャン、お前の仕事は別にある。
「俺が割って入る! そしたら……無理やりでもいい! ヴァンを引っぺがして守り抜け!」
周りにあれだけ敵兵が居る中で、前回のように一騎打ちに持ち込めるとも限らない。
そしてあの狂犬も、素直に言うことを聞かない可能性が高い。
(暴れるヴァンを抑えながら守るには……お前の土魔法が必要なんだ——!)
「……わかった! 任せるよ、アルカ!」
チャンは全てを悟ったような眼をし、俺に向けて大楯を構える。
「任せとけ! 相棒!」
——ドンッ!
俺は大楯を思い切り蹴り飛ばし、ヴァンの元に直行できるよう進路を変える。
そして背のリベリオンに手を伸ばし、両端を強く握る。
「〝リベリオン〟——!」
——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。
ビュオォォォォ——!
地面が近づくにつれ……少しづつ、その戦況が明らかになってくる。
(マズい……やはり一騎打ちじゃない!)
砂塵の晴れた先——。
大岩に張り付けにされ、ぐったりとしているヴァンの姿が映し出される。
周囲には、両手を前に突き出した多数の重装兵……その中に一人、軽装の女も見える。
(間違いない……あいつだな——!)
ゆっくりとヴァンに近づく女……その両手に、武器の鋼がキラリと光る。
「させるか……! 【双剣形態】——、 《舞風》!」
引き抜いた両の持ち手に、紫光の刃が具現化する。
俺はそのまま両手を振り上げ、右上段に双剣を二本並べて構える。
「うおおおおおおぉぉぉ!」
俺は身体を左に捻り……その回転と降下する勢いを重ね、双剣を思い切り打ち下ろす。
「……!」
ガキィィィィィィンッッ——!
俺の接近に気づいた女が両手を掲げ、交差させた武器で俺の剣撃を受け止める。
(チャクラム……? 何処かで——)
ズルッ——。
敵の円形の刃……それに纏わせた風魔法により、俺の剣撃がいなされる。
(さすがに……そう簡単にはいかないか——!)
ダッ——!
俺は体勢を整えて着地し、女とは逆方向に踏み込む。
ズパッ、ズパッ、ズパァッ——!
「ぎゃああああ!」
「ぐわああああっ!」
「ぐはっ」
眼に入った周りの敵兵——。
俺はその何人かを斬り捨て、ヴァンを背にして構え直す。
「あんなこと言うから……現実になっちまったな、ヴァン!」
「……! は……はく……ろ——」
俺は女の動きに注意しながら、ヴァンの様子を確認する。
「……っ! よく耐えたな、遅くなってすまなかった。——あとは任せろ」
俺はそれだけ言って、すぐに女の方に向き直る。
……だが、実際のところ——。
女を警戒するというよりは、あまりの〝惨状〟から眼を逸らしたという方が正しい。
「【嵐殺】……スズカだな? 多重詠唱の拘束魔法に、公開拷問……単騎相手に悪趣味なこったな」
ヴァンは全身……その蒼銀の髪さえも、大部分が血で紅く染まっていた。
顔面は原型を留めておらず、おまけに両腕は変な方向に曲がっており——まさに虫の息。
その辺の兵士なら、とっくに息絶えていることだろう。
「うーん……先に暴れたのはそいつなんだけど、これってスズが悪いの?」
肩にかかるくらいの黒髪が、緩やかな風にふわっと揺れる。
傾げた首に連なって斜めに落ちた紫眼は、対峙する俺を見てもいない。
『ここまでする必要があるのか?』
——喉まで出掛かったその言葉を、俺はなんとか飲み込んだ。
スズカの言う通り、これは戦争……殺し合いだ。
そこに美学なんて求めちゃいけない。
俺も散々斬ってきた、ヴァンだってそうだろう。
だから俺には、それを言う権利なんかない……間違っても言っていいことではない。
(ヴァンも軍人……いつかこうなる可能性も、わかってて生きてきたはずだ——)
……だが、その辺の理屈がどうであれ——。
〝あまりにも惨すぎる〟、純粋にそう感じてしまっただけだ。
「……そうだな、お前は悪くない」
仕方のないことだ、それが【嵐殺】スズカのやり方なら。
——だが何だ? 口では説明できない何かが、胸の辺りに込み上げてくる。
気持ち悪い、今にも吐きそうだ。
「だよね。——で、仲間を助けに来たんでしょ? 早く助けなくていいの? 死んじゃうよ?」
——別にヴァンとは、たいした付き合いがあるわけでもない。
なんなら、何度か喧嘩を吹っ掛けられただけ……一時的にだとしても、〝仲間〟と呼んでいいのかも怪しい。
そもそもヴァンは、事前の段階で『口出し無用』と言っていた。
俺に助けなど……求めてもいないだろう。
「いいや……考えてみたが、別に仲間じゃないな」
——冷たいようだが、客観的に見た俺とヴァンの関係性は、恐らくこうなる。
だが同時に、あいつの気持ちを尊重することにもなるだろう。
まだ認めてもいない相手に、仲間だの護るだの言われたところで……その誇りを傷つけることになるのは、間違いないからだ。
「そうなの? じゃあ捨ててく? ——逃がすつもりもないけど」
ズキッ——。
(……ダメだ、頭が割れる——)
ここまでのことを踏まえても——。
スズカの言動も行動も、俺の理性を破壊するほどの蛮行には成り得ない。
——なのに何故だ?
任務、戦争、リズとの約束……そういうことだけで割り切れそうにない。
ヴァンが可哀想だと思ったわけでもない、なのに俺がスズカに感じているこの【嫌悪感】は——。
〝怒り〟 〝許さない〟
〝憎しみ〟 〝殺せ〟
〝仇〟 〝処刑〟
……出所はわからない、だが——。
渦巻いているドス黒いモノが、俺の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回している。
(スズカ・クリュウ……まさか、何処かで逢ったことがあるのか——?)
——何もわからない、激痛を伴う謎の暗闇だ。
だがひとつ……うっすらと感じ始めてきたことがある。
もうすぐ俺は、俺でなくなる。
(この女だけは……ここで殺していいはずだ——!)
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