表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/100

67話 エゴイスト~濡髪が君を映す時~

 俺はミルフィーユを背負ったまま、階段に向けてひた走る。



 ドゴォォォンッ!



「うおっ、と——!」



 大きな爆発音と共に、再び塔が大きく揺れる。

 恐らく……このまま下に行っても、もう素直に外に出ることは出来ないだろう。


(……俺一人ならどうにでも出来る、だが——)


 今は女……しかも、裸でボロボロなのを一人抱えている。


(わたくし)など……置いていってください——」


 耳元——。

 俺の焦りが伝わってしまったのか、ミルフィーユが力無く(ささや)いた。

 それと同時に……かろうじて俺の首に巻き付いていた彼女の腕が、力無く垂れ下がる。


(まさか……このまま死なせてくれとでも言うのか——?)


 ——確かに、俺が勝手に連れて来ただけだ。

 どうしてあそこに居たのか、今までどんな仕打ちを受けてきたのか……俺は何も知らない。

 だが……それでも俺は助けたい。

 

「……一度抱えた、もう降ろすことはない」


「……っ! 申し訳……ありま……せん……っ」


 ——君は、本当は求めていないかもしれない。

 だとしたら、これは俺のエゴでしかないだろう。

 でもな、俺も同じように救われたことがあるんだ。

 裏切られて、死にかけて……生きている意味もないと思っていた、そんな時にだ。


 一人の女神に拾ってもらって、俺はこうしてやり直せた。


(今では、毎日が楽しいんだ。君もきっと……また笑える——!)

 

「喋らなくていい、すべて委ねろ」



 グッ——。



 ミルフィーユの腕が、もう一度俺の首元に巻き付く。



 俺は監視窓から外を見渡し、ブランシュルーヴの位置を確認する。


(あの距離なら間に合うか……しかし——)


 船を塔に近づけることは、テンペスト(あいつら)に危険が及ぶ可能性を大幅に高めることになる。


 だがもう……迷っている時間はない。 


『……ナツキ! チャンを塔から遠ざけろ! そしてすまんが——』


『もう()()()()()動いてます! 一気に行きますので、いつでも言ってくださいっ』



 ……なんだと?



『なっ……俺はそんな指示は——』


『アルカ様のばかぁ! こんな時ぐらい……頼ってください! 大丈夫です、満場一致ですから! ——〝策〟もありますっ』


 ——見くびっていた。

 あいつらはもう、自分たちの意志で最善を選択できるんだ。

 いつも『信じろ』などと言っておきながら……俺があいつらを信じてなかったんじゃないか。



 ゴゴゴゴゴ……!



 更に塔が傾き……移動はおろか、もはや姿勢を保つことすら難しい。


『あぁ……期待してるぞ! そのまま正面まで飛んで来い!』


『はいっ! では参りますっ』


 ナツキの言葉通り、ブランシュルーヴが加速する。

 途中、大きく旋回し……塔を横に見る形でこちらに向かって来る。


 だが……策って何だ? 塔の真横で滞空でもするのか?

 今までそんな飛ばし方は見たことも——。


『アルカ様! そのまま飛んでくださいっ』


 ——飛ぶ? どういうことだ?

 スピードが落ちている様子もない……やはり、滞空してくれるわけじゃなさそうだ。


『……飛び乗るのか? あいにく今は難しい状況で——』


『違います! 下に飛んでくださいっ』


『おまっ……! 俺が居るのは最上階だぞ!?』


『大丈夫です! 私たちを信じてくださいっ』


(信じる……? どういうことだ——?)


 激しい揺れの中、俺はなんとか下を覗き込む。


(なっ……あれは——!)


 ——そこには、大きな水球のようなものが発現している。


『エリィか!』


『はい! あまり長く持たないそうなので……お早く!』


 エリィの魔法——。

 正直なところ心配だ、不安でしかない。


(だが、色んな意味でもう時間がない……飛ぶしかない——!)



 ……ゴオォォォ——!



 ブランシュルーヴがその速度を保ったまま、眼前を一瞬で通り過ぎる。


「ミルフィーユ……俺を強く掴んで、絶対に離すなよ!」


「……はいっ! 絶対に離しませんわ——!」


 満身創痍のミルフィーユが、その力を振り絞って俺の身体にしがみつく。

 返すように、俺は左手で彼女の左太腿をしっかりと抱える。

 そして空いている右手を、左腰のリベリオンに持っていく。


「〝リベリオン〟……【抜刀一刀流(ソニックブレイド)】——、 《風切(かざきり)》!」



 ズパッ、ズパッ、ズパァッ!



 俺は右手を三度振り抜き、壁を斬り抜く。


「そらっ!」



 ドゴォッ……!



 その中心を思い切り蹴り飛ばし、壁を破壊する。

 落ちていった壁が、眼下の水球に飲み込まれていく。


(水球自体は……大丈夫そうだな——!)


「怖かったら眼ぇ瞑ってろよ……行くぞ!」


「……えっ? まさか飛ぶのですか? ——この高さから!? えええええっ!」



 ダッ——!



 俺はミルフィーユを抱えたまま、開けた壁から飛び降りる。


「きゃああああああ!」



 バシャァァァァンッッ!



(水か……! 良かった——)

 

 飛び込んだ俺たちは、たいした衝撃もなく無事に下へ降りることが出来た。

 俺はミルフィーユを抱えたまま、なんとか水球の外に出る。


「……ぶはぁっ! 大丈夫……か————?」



 ……振り向いた先、水に濡れたミルフィーユの赤髪が——。

 まるでところどころ洗い流されたかのように、キラキラと水色に光っている。


(……まさか——)


「……ミルフィーユ、もう一度名を言ってくれないか?」


「ごほっ、ごほっ……、えっ? ミルフィーユ・ミルルリア・ミリーと申しますが——」



 ……あの赤マント野郎! (めかけ)の髪まで赤く染めてやがったのか!



(クソ野郎が……! だが、今はまず——!)


『ナツキ! ミリーを回収した! リズとヴァンを中央(こっち)に寄こせ!』


『その抱えてる方が……わかりました! チャンさんにもこっちに来てもらいますか!?』


『いや、待っている余裕は無さそうだ。だいぶ衰弱してる……そのままこっちに寄せろ! 降ろして俺が援護する!』


『わかりました! すぐに参りますので、()()()だけお願いしますっ』



 ゴゴゴゴゴ……!



(塔が崩れる……ここはマズいな——!)


「掴まってろよ! もう少しの辛抱だ!」


「はっ、はいっ!」



 ダッ——!



 俺は崩れゆく塔から充分に距離を取り、ゆっくりとミリーを降ろした。


「ここで待ってろ、動くなよ」


 とりあえず、船を降ろせるスペースを作らないとな。


(……ここはアイネの精神だ、すべて更地にするつもりでいかせてもらおう——)


 俺はミリーを背にし、戦場に向き直る。

 こちらに気づいた敵軍が、続々と集結し始めている。


「あの……あなた方は——」


 ——何をしにこんなところまで? とでも言いたげだな。

 それはもちろん、決まっている。


「遅くなってすまなかったな……【鬼姫(おにひめ)】ミリー、お前を助けに来た」


「……っ! でっ、でも、私はあなた方のことなど——」


 ミリーはここまでの記憶を辿っているのか……混乱した様子で、その紫眼をキョロキョロと泳がせている。


 ——そりゃそういう反応にもなるだろう。

 そして辿ったところで、俺たちはどこにも居ない。

 俺とお前は知り合いでもなければ、逢ったことすらないんだからな。


(だが今は……ゆっくり説明している時間もない——)


「——リズを怒るんじゃないぞ。あいつもここに来るまでに、色んなものを失ってるんだ」


 俺はミリーに背を向けたまま、左腰に据えたリベリオンに両手を据える。


「……! リィが——!」


 ——敵軍はもう、射程距離内に入っている。


(……さて、掃除の時間だ——)


「もう一度だけ言っておく。俺が戻るまで、そこから動くなよ……〝リベリオン〟——」



 ——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。



「……はっ、はい! わかりましたわ旦那様っ」


(……旦那様? まぁいい、今は突っ込んでいる時間も惜しい——!)



「【抜刀一刀流】——、 《風切》!」

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ