表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/100

66話 赤の間の赤い檻~繋がれし赤の女~

 刹那の出来事に動揺したのか——。

 誰一人声を発すること無く、敵兵たちはその場に立ち(すく)んでいる。



「——来ないのか? ならお邪魔するとしよう」



 ダッ!



 俺は()えてそう一声掛け、塔内に突入する。



「隊長……っ!」

「きっ、貴様ああああ!」

「かかれええええ!」



 やっと我を取り戻した敵兵たちが、俺の後を追ってくる。


(隊長が死んでも撤退しない……()でもっと〝上〟が居るのか——?)


 ——なんにせよ、進むしかない。

 もしそういうことなら、そいつを探し出して斬るまでだ。


 俺は塔内の内壁に沿って、内周を走る。



「〝白狼〟が塔内に侵入! 増援を寄こせー!」



 道中には、小さな監視窓が点在し……チラチラと外の景色が窺える。

 どうやら、いくらかの敵兵が塔内に流れ込んで来ているようだ。


(……そうだ、それでいい。なるべく多く連れて来いよ——!)

 


 俺は塔内を走り回り、まばらに会敵する敵兵を斬り続ける。


 通路上に立ちはだかる敵を斬り。

 追って来る敵を待ち伏せて斬り。

 斬り捨て斬り抜け斬り伏せて……やがて、一階の中央らしき場所に辿り着いた。


「……階段か——」

 

 上に続く階段と、下に続く階段——。

〝牢〟と言えば地下のイメージだが、トレンタ要塞(ここ)は空高くそびえる〝塔〟……上にある可能性ももちろんあるだろう。



「居たぞ! こっちだ!」

「中央階段だ! 囲めー!」



 四方から、敵兵の声が聞こえる。


(追いつかれたか……上か下か(どちらか)に進むしかない——)


 ……単騎特攻中の今、仮に下に行った場合はどうなる?

 階段を塞がれれば脱出は厳しくなるし、毒でも撒かれればそもそもの生存率が下がる。

 逆に上の場合は……どうとでも対処出来そうだ。

 敵の一人一人はさほど強くないし、最悪何かあってもリズたちが来るまで持ちこたえればいい。


(ここは……上か——)


 確かに目標(ミリー)が地下に居る可能性はある……が、そもそもリズの方に居る可能性が高いんだ。

 最悪(むこう)に居なかった時に、また来ればいいだろう。



 俺はとりあえず二階を目指し、階段を駆け上がる。



「〝白狼〟! 覚悟——」



 ズパァッ——。



 階段を上がった先——。

 出会い頭に遭遇した敵兵を斬り捨て、辺りを警戒する。


(一人だけ……このまま二階を掻き回すか——)



 目的は陽動——。

 俺はそのまま三階へは上がらず、一旦二階を駆け回る。



 それを繰り返して三階、四階、五階……と上がるに連れて、敵の数が明らかに少なくなってきた。

 やがて——。



「……最上階か——?」


 上へ続く階段が無くなった。

 ここが何階なのかももう数えてはいなかったが……外を見る限り、だいぶ高いところまできたようだ。


 下の戦場では、未だに戦闘が続いている。

 チャンがまだ踏ん張っている証拠だ。

 敵の集団が雷撃で吹っ飛んでいるのを見るに……巫女様もまだ元気らしい。


(……下は大丈夫そうだな。どこかで待ち伏せするか——)


 俺はめぼしい場所を探して、最上階を駆け回る。


 ……が、敵の気配が全くしない。

 それどころか、追手の一人すらも上がって来ない。


「——何だ? もう鬼ごっこは終わり……ん?」


 辺りを見渡していると、一つだけ装飾の異なる扉が眼に入った。

 赤く(つや)めく材質に、宝石……金枠が施された、いかにも高級な作りだ。


()()()()()は……お決まりだよな——)


 この中央塔に、さっきの〝赤マント〟より()が居るとすれば——。

 こういうところで、さも偉そうにふんぞり返っていたりするんだろう。



 ガチャッ……。



 ……どうやらご丁寧に、鍵を掛けているらしい。

 ビビっているのか、大事なものでも置いてあるのか——。


「……入るぞ」



 ——ズパァッ!



 俺は双剣を右上段から並べて振り抜き、抜いた扉を蹴り飛ばす。


「これまた……悪趣味なこったな——」


 一瞬で、ここが()()()()かわかってしまった。

 だだっ広い部屋の中は、赤一色で埋め尽くされている。

 棚から床敷き、ベッドのすだれに至るまで——。




 カチャ————。




 ——どこからか、(ささや)くように小さな金属音が聞こえた。

 現状見渡す限りでは、人の姿は見えない……が、ここから一番奥の奥——。

 赤い格子で囲まれた、檻のような物が見える。


(何か居る……のか?)


 よく見ると、檻の中に何か影が見える。


 ——この悪趣味だ、魔獣なんぞ飼っているのかもしれない。


 俺はゆっくりと近づき……やがて、その檻の前まで辿り着いた。

 何故か扉の(たぐい)は付いておらず、開け放たれている。


 俺は影の正体を確認するため、中を覗き込む。


(……っ! 人間——!?)


 ——ここまで来ると、趣味が悪いとかそういった話では無い。

 全裸の上に、両手を頭の上で鎖に繋がれ……全身痣だらけの女が、力無くこちらを見上げている。

 しかも髪色まで〝赤〟……これは恐らく、さっきの〝赤マント〟の慰み者だろう。


「誰……ですの——?」


 弱々しくも透き通った女の声が、俺に問い掛ける。

 その虚ろな紫眼に引き込まれるように、数秒……時間(とき)の流れが止められる。 



「……俺は、ア——」



『アルカ様! リズさんから報告です! 〝妖刀鬼丸〟回収できましたっ』


 なんとか我に返り、問いに答えようとしたその瞬間——。

 やや興奮気味のナツキから、伝心が入った。


『……っ! そうか、さすがリズ——』


『ですが肝心の目標(ミリーさん)が見当たらないみたいです! 別の塔に居るかもとのことなので、陽動から探索に切り替えてくださいっ』


 安堵したのも束の間——。

 ナツキは俺の言いつけ通り『簡潔に伝える』をしっかり実行し、その伝心を切った。


(……ここに来るまで牢はなかった、やはり地下へ潜るしか——)



「……牢?」



 俺はもう一度、女の方を見る。



〝牢〟……ではないが、一応これは〝檻〟ではある。

 しかし水色とは程遠い赤い髪に、口元……これはホクロなのか?

 あると言われればあるような気もするが、痣や傷だらけでもはや判別出来ない。


 ——そして服を着ているわけでもない。

 これでは、身なりでお嬢様かどうかの判別も不可能だ。


(一応……一応聞いておくか——)


「俺の名はアルカ・キサラギ。——君の名は?」


 そう言ってもう一度眼を合わせると、女はゆっくりと口を開いた。



「ミルフィーユ……ミルルリア——」



 なんとか俺の問いに答えようとするものの、その声は力無く消え入る。

 そしてとりあえずだが……名は違う、やはり別人のようだ。


(しかし……このまま置いて行くわけにも——)


 だがもし……万が一だ。

 好き好んでここに居るんだとすれば、()()は俺の勝手なエゴでしかなくなる。


「ハルメニアの……トレンタ要塞(ここ)の人間か?」


 場繋ぎのような俺の問い掛けに対し、ミルフィーユは何とか首を横に振った。

 ——もはや一言口を開くのも難しいほどに、参ってしまっているんだろう。




 ドゴォォォンッ……!




「……っ!?」


 突然、下の方から大きな爆発音が鳴り響いた。



 ドゴォンッ! ドゴォォォンッ!



 塔全体が大きく揺れ始める。


(何だ……? ヴァンでも来て暴れてんのか——!?)


『アルカ様! 塔の中ですか!?』


 ナツキから、再度伝心が入る。

 だが先ほどとは違い……その声からは、明らかに焦りの色が(うかが)える。


『あぁそうだ! これは一体——』


『すぐにそこから脱出してください! 敵が塔ごと爆破しようとしていますっ』


 ——なるほど。

 俺を中に残したまま、塔ごとぶっ壊すというわけか。

 少々思い切りが良すぎる気もするが……ある意味最善手かもしれないな。


 ハルメニア軍の状況としては、敵に〝字持ち(ネームド)〟が居るわけでもない中……実質たったの四名に、手も足も出ずに蹂躙(じゅうりん)されている。


 チャンは硬くて落とせない、リズもヴァンも強過ぎて手が付けられない。


(となると……状況的にも俺が一番落としやすいということか——)

 

 ここまでいいようにやられては、おめおめと生きて帰ったところで——。

 どちらにしろ、駐屯兵(こいつら)の明日は無いも同然だろう。

 だから最悪……トレンタ要塞は落とされたとしても、せめて俺の首だけは持って帰る。

 それこそ〝首の皮一枚で何とか繋げる〟という算段なわけか。



 ゴゴゴゴゴ……!



(塔が傾き始めている……もう時間が無いな——)


 俺はもう一度、檻に繋がれた女に眼を向ける。

 だがミルフィーユは……全てを諦めたように下を向き、もう俺に眼を合わせようとはしない。


 ——俺には、リズとの約束がある。

 ただでさえ、もう中央塔(ここ)の地下に行くことは難しくなった。

 となると希望はただ一つ……急ぎ、左塔へ向かわなければならない。

 塔の崩壊以前に、もはや一刻の猶予もない状況だ。



(……どう考えても、ロスにしかならないよな——)




 スパァッ……ジャリンッ——。




 俺は右手を振り払い、ミルフィーユが繋がれていた鎖を斬り離す。

 そのまま【双剣形態】を解除し、リベリオンを左腰に据える。



「……え——?」



 ミルフィーユはやっと顔を上げ……もう一度俺と眼を合わせた。




 バサァッ。




 俺は来ていた外套を脱ぎ、女に羽織らせる。

 そしてそのまま抱き上げ……その弱った身体を一気に背負った。


「えっ……あの——」


 ——すまん、皆。

 俺の作戦外の行動のせいで、任務が失敗するかもしれない。



 だが……俺には、()()を見捨てて行くことは出来なかった。



「話はあとだ……落ちるなよ——!」

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ