65話 中央塔戦線~赤いマントの部隊長~
ウオオオオオオォォォ!
段々と、敵軍との距離が狭まってくる。
相手は1000を超える連隊、対するこちらはたったの二人——。
当然の如く、敵兵たちは全く怯む様子を見せない。
「……来たか」
敵隊列の後方から放たれた遠距離魔法が、いくつか視界に入る。
「大丈夫! そのまま行って!」
ゴゴゴゴゴォッ……!
やや後方を走るチャンの声が耳に入ると同時に、俺の前方に高い岩の壁がせり出す。
俺は壁の後で一度腰を落とし、リベリオンを構える。
ドォン、ドォン、ドォン!
チャンの繰り出した障壁が敵の魔法を受け、そのまま崩れ去る。
視界が開けた先——。
敵の一列目は、もう目と鼻の先だ。
「警告はしたぞ……! 《風切》!」
ブワァン————ッ!
「ぐわああああっ」
二撃目、一点集中——。
今度は縦に斬撃を放ち、敵隊列の中央に楔を打つ。
「まだまだぁっ! 【剣撃連斬】——、 《風切乱舞》!」
ズババババアアアアッ——!
「ぎゃああああ」
追加で放った斬撃により、隊列が中央から瓦解し始める。
(……よし、このまま塔まで一気に抜ける——!)
「【双剣形態】——、 《舞風》!」
ダッ——!
俺たちは敵隊列の割れた一点から飛び込み、乱戦の中を斬り抜ける。
一人、二人、五人……十人——。
余計な攻撃を喰らう前に、斬って斬って斬り伏せる。
「〝赤髪のサイドバック〟に……〝白いキャプテンコート〟だと——!?」
「紫光の斬撃……まさか——!」
「〝白狼〟! 敵は〝白狼〟だ!」
「あの……ジーク様と渡り合ったっていうあれか!?」
すれ違いざまに聞こえる敵兵たちの声——。
……考えてみれば、多少顔が割れているのも当然か。
トレンタ要塞は、オルカスタのちょうど対面に位置している。
前回のジーク戦で俺を見たヤツがここに居ても、何ら不思議はない。
『こちらアルカ様のナツキです! 聞こえてますか!? どーぞー!』
——ナツキか。
だがこの敵の数……細かく指示を飛ばしている余裕は無さそうだ。
『大丈夫だ、聞こえてる。だが戦闘中だ、簡潔に頼む』
『はいっ! リズさん投下完了しました! これより中央まで戻って後方で待機しますっ』
……そうだ、それでいい!
『——了解だ、とりあえず両翼の二人は放っておいても大丈夫だ。チャンの援護を頼む! 俺は塔へ向かう!』
『はいっ、お気をつけて!』
——事前に流れだけは説明したが、ナツキたちは軍人じゃない。
その場の自発的な対処には、正直期待出来ない……が、それでいいんだ。
その分、俺たち地上組が臨機応変に動く。
だからお前らは、信じて作戦通りに動いてくれればいい。
「チャン、一発ぶち込んだら俺は行く! ここは任せたぞ!」
「了解!」
俺は【双剣形態】を解除し、リベリオンを両手で縦に持ち直す。
「【両極薙刀形態】——、 《旋風槍》!」
——ガシャッ!
リベリオンが長く拡張され、その両端に紫光の刃が具現化する。
「あの時はチャン相手だったからな……今回は手加減無しだ!」
俺はリベリオンの中心を持ち、高速で回転させる。
——それに伴い、周囲の風の魔力がリベリオンに集束していく。
「な、なんだ……!?」
「ひっ、怯むな! 相手は二人だぞ!」
まるでその風に吸い寄せられるように、周囲の敵が一斉に距離を詰めてくる。
「じゃあな……! 吹っ飛べ!」
俺はリベリオンを回転させながら、前方……半円を描くよう、横に思い切り振り抜く。
——ズアアアアアアッ!
振り抜いた先から、紫光の突風が俺の前方を駆け巡る。
「ぐわああああっ」
「ぎゃああああ」
辺り一帯の敵兵は血しぶきを上げながら遠くへ吹っ飛び、散り散りになった。
——もはや隊列と呼べるものは無くなった、どこからでも走り抜けられそうだ。
「ハルメニア統一軍。その強みは、美しいまでに統率されたその隊列……即ち、連携戦術にある。——それがなくなっちゃあ、何も怖くねぇな!」
俺は塔までの距離を詰めながら、まばらに残っている敵を斬り伏せる。
『ナツキ、ヴァンはもう入ったか?』
『いえ、それが……塔からだいぶ離れたところで交戦中ですっ』
(あいつ……一人残らず殲滅するつもりか? こっちはもう塔の目の前だぞ——!)
『目的を忘れるなと伝えろ! リズの方はどうだ!?』
『はいっ! リズさんの方は敵が少なかったので、殲滅戦でなく潜入に切り替えると言っていました! 眼で追えない迅さだったので……もう入っているかもしれませんっ』
——なるほど。
リズならそれも可能だろう、右は気にしなくて大丈夫そうだ。
しかしそうなると……右の戦力は中央に流れてきてるのか?
(チャンが少々心配だが……ここは信じるしかない——!)
『——了解だ、チャンから眼を離すな! 先に入るぞ!』
多少は斬り伏せたとはいえ、表はまだ数も多い。
俺が中に入ることで、目論見通り半分くらい付いて来てくれればいいが——。
『はいっ! お任せをっ』
「入口は……あそこか——」
塔の中からは、追加で兵士が投入されている様子はない。
ハルメニアお得意の重装兵の中に一人、赤マントを羽織った軽装の男が見える。
恐らく部隊長か何かだろうが、大した魔圧も感じないし……抱えている兵数もさして多くない。
守りとしては、そんなに厚くはなさそうだ。
(少し早い気もするが……もう戦力は出し切ったのか——?)
——まぁ、それも入ってみないとわからないか。
どちらにせよ、同じ対多数戦闘なら狭い室内の方がいい。
陽動とはいえ、やはり敵軍の動きに付き合うようなことはせず……さっさと俺の方から、盤面を引っ掻き回してしまった方が良さそうだ。
(これは死地に飛び込む蛮勇じゃない……俺にとっては好都合、逆に付き合わせてやる——!)
俺は【両極薙刀形態】を解除し、 【双剣形態】に切り替える。
周りに注意しながら、塔の入口に向けて足を進める。
警戒しているのか……敵兵たちは一定の間合いを取ったまま、手を出してこない。
ほどなくして辿り着いた塔の正面で、俺は足を止める。
(——囲まれたな。100……くらいか?)
バラバラに仕掛けるのではなく、大人数で一気に叩く作戦に変えたか——。
(……やはり、こいつが将だな——)
「アーレウスの〝白狼〟とお見受けする! そんな小隊でこんなところへ何の用だ!」
俺の目の前に、先ほどの〝赤マント〟が立ちはだかる。
近くでよく見ると……その赤はなんだか禍々しい。
あとから多重に塗り重ねたように見える、とりあえず趣味は良くない。
「遊びに来たように見えるか?」
「くっ……! ここは今まで【嵐槍】でさえ落とせなかったトレンタ要塞だぞ!」
——そうか。
だがそれは、さすがに【嵐槍】を舐め過ぎだ。
ここに居るのが俺じゃなく、アイネだったなら……今頃、この辺は既に更地になっていたことだろう。
「アーレウスの姫はすこぶる短気だが、多少のことでは動かない。面倒だっただけじゃないか?」
恐らく……トレンタ要塞は『落とせなかった』んじゃなく『落とさなかった』だけだろう。
何故かはわからない、だが——。
最後のハクツルの様子を見ても、色々と何か事情もありそうだった。
「フハハハ! 恐れているのだ! 三つの塔の監視体制からからなるこの要塞の防御態勢と、我らがハルメニアの〝字持ち〟たちをな! とにかく……ここは通さぬぞ!」
『恐れている』……か——。
何とも幸せなことだ。
きっとこいつは、アイネを見たことすらないんだろう。
最前線に居た軍人のくせに、本当の恐怖や絶望を味わうこともないまま……お前はもうすぐ逝ける。
——まぁなんにせよ、お前らは〝触れちゃならねぇもの〟に触れちまったんだ。
この世の中には、 〝字持ち〟以外にも恐ろしい女は居るんだぜ?
かくいう俺も、最近まで知らなかったわけだが——。
(そして〝通さない〟……か——)
「それは……俺が決めることだ、押し通る——」
俺は腰を落とし、双剣を構える。
「フハハハ! やれるものならやってみろ! 貴様の血もこのマントを彩ることになる! 俺はハルメニア軍広域部隊、トレンタ要塞駐屯部隊隊長【血染め】の——」
(……そういうことか——)
ズバァッ——。
俺は名乗りを待たずに〝赤マント〟を斬り抜き、その肩に手を置く。
「……はっきり言った方が良かったか? ——『遊びに来たわけじゃない』んだ」
特段攻め込まれもしない要塞の、名も無き部隊長——。
どうせ今日まで、安全なところで胡坐を掻いていたんだろう?
……ブシュゥゥゥゥッ!
背後から、血飛沫の舞う音がする。
「良かったな。最後は自分の血で染め上げて完成、と——」
——ゴロンッ……。
(そのまま〝名も無き兵〟で逝け、恐らく覚える価値も無い——)
一瞬にして俺に刎ね上げられた隊長とやらの首が、宙を舞って地に転がった。
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