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63話 三つの塔~突入! トレンタ要塞~

「どれぐらいかかりそうだ? ナツキ」


「このスピードだと……おそらく、十分程で着きますっ」


 ミリーが囚われているトレンタ要塞は、オルカスタとの国境を隔てた最前線に位置する。

 ある程度の距離や所要時間は、ナツキが計測できるようになったらしく……これもブルースの粋な置き土産の一つだ。


(まだ少し時間はある……か——)


 俺は窓際に佇む、チャンの元へ足を進める。


「すまなかったな、チャン」


 ……久々の再会、目と鼻の先に居たんだ。


「ん? 何が?」

 

 それでもチャンは、少しも前に出て来なかった。


「もっとちゃんと話したかったろう? ハクツルと——」


 ……俺が船に残るよう言ったからだろう?

 話の終わったあとぐらい、時間を取ってやりたかったが——。


「ははは、別にいつでも逢えるよ。気にしないで」


 この男は……どこまで行っても【聖騎士(パラディン)】だ。

 皆を守ることを最優先で考えてくれている。

 そしてそんなチャンが居てくれるから、俺はああやって前に出て行けるんだ。


「……ははっ、そうだな。——ありがとな」


「どうしたの? 急に改まって。——さぁ時間もない、作戦会議といこう」


 別にどうということはない。

 思ったことを、素直に言っただけだ。


「よし、全員集まってくれ」


 俺は動けないスタークの傍で声を上げ、皆を集める。



「作戦……とは言っても、基本的には流れの確認だけだ。まずは——」



 一、塔が視認できる距離まで来たら、リズが剣で位置を特定する

 二、リズが向かう塔以外の二つに、俺とヴァンがそれぞれ入って陽動を行う

 三、三つの塔を結ぶ中心地点で、チャンが陽動を行う

 四、ミリーを回収したらチャンに預け、まずは二人を回収する

 五、その後地上の三名は船からの指示誘導で合流、これを回収し撤退



「——大まかな流れは以上だな。船上の各自の役割としては——」



 アテナ:必要に応じて雷撃でチャンの援護、 《望遠魔法(スコープ)》で戦況の把握

 ナツキ:伝心で地上部隊への状況伝達、指示誘導

 スターク:なるべく遠方で待機、侵入経路と避難経路の確保

 ユリ:船上での全員のサポート

 おつう:何か気づいたことがあったら言ってくれ

 エリィ:面倒を起こすな



「——以上だ、質問は?」


「はいっ!」


「なんだ? エリィ」


「泣きそうですっ」


「そうか……これを使え」


 俺は近くにあったハンカチを手に取り、エリィにそっと手渡した。


「……ひんっ——」


 ——とは言っても、エリィの瞳が潤んでいる様子はない。

 恐らく、まだ戦場に出れると思っているんだろう。


「そうは言っても仕方ない、遊びじゃないんだ。今回ばかりはお前を見てる余裕がない、わかってくれ」


「私がっ……アルカさんを守りますからぁ……!」


 ——ヴァンに強襲された時の、あの《蒼いシールド》のことを言ってるんだろう。

 だが、それには一つ致命的な欠陥がある。


「それはありがたいことだ。——けどな、お前のことは誰が守るんだ?」


 エリィは一度首を傾げたあと、少しの間チャンを見つめ——。


「……はっ」


 何かに気づいたように、その視線を俺に戻した。


「そういうことだ。もしあれを実戦で使うなら、 『エリィを守る誰か』が居て、 『敵を殲滅する誰か』が必要だ。そして今回は、俺もチャンも別れる。今後もその状況が出来上がらない限り、お前を戦場には出さない」


「うっ……わ、わかりましたぁ~」


 ——お前のことは、わかってるつもりだ。

 前線に出たいのもわかる、皆の力になりたいのもわかる。

 だが……それにはまだ、個人としての実力が足りていないのもわかるだろう?


 俺もお前もわかってる、わかってるからこそ——。

 ここまで言っても正直、不安は残る。


(頼むから……今回だけは大人しくしててくれよ——)


 ——そういえばあと一つ、確認しておきたいことがある。


「それとリズ、その剣でわかるのは〝ミリーの相棒〟……つまり剣? なわけだよな?」


「ええ。 〝妖刀鬼丸〟……刀の場所ね」


「それってどうなんだ? ミリーがその近くに居る保証になるのか?」


 あくまでわかるのは武器の場所——。

 必ずしもその近くにミリーが居るとは、限らないんじゃないのか?


「私の(これ)がそうであるように、鬼丸もミリーにしか()()ことができない。でも二本とない刀だから、研究対象になっているのは間違いない」


(当たり前のように言うが……リズのその剣が専用武器だとは初耳だぞ?)


 まぁそれはさておき——。

 珍しい武器、だがミリーでなければ鞘から出せず……その刀身を拝むことすら出来ない。

 つまり所有者であるミリーが居なければ、研究の進めようがないってことか。


「……なるほど、それでミリー本人も近くに居る算段か」


「ええ。でも、万が一の時のために特徴は教えておくわね。 『水色の髪』、 『口元にホクロ』、 『お嬢様』……こんなところかしら」


 ——仮に乱戦になったら、見つける自信が無いぞ?

 別に珍しい髪色じゃないし、ホクロなんて見てる暇はない。

 しかもお嬢様って……とにかく、役に立ちそうな特徴がない。


「……まぁ了解だ。——聞いてんのか? ヴァン」


 そういえばずっと眼を閉じているが……寝てんのか?

 おっかない姉御の大事な用事だぞ?

 ちゃんと聞いておいた方がいいんじゃないのか?


「喋りかけるな! ……今、その万が一がないように祈っているところだ——」


 ——驚いた。

 お前のようなヤツでも、信じる神が居るとは。


「そうか……。まぁ確かに、この特徴じゃ見つけるのは難しいよな——」


「そんなことを言ってるんじゃない! ——俺は顔を知っている」


 ……なるほど、純粋に逢いたくないってことか。


「苦手なんですって、ミリーが」


 ヴァンが苦手……ということは、リズと同じような理由か?


「何だ? お前より強いのか?」


「そういったこと以前の問題みたい」


 呆れているような、興味のないような——。

 リズのヴァンを見る眼が、どことなく冷たく感じる。


戦場(こんなところ)ミリー(あれ)に出くわすぐらいなら、まだ〝字持ち(ネームド)〟とカチ合った方がマシだ……」


 ヴァンはどこか遠い眼を浮かべ、天を仰いでいる。


「よっぽどだな、それは……」


 なんだか俺まで怖くなってきたじゃないか——。

 ……まぁなんにせよ、俺は俺の仕事をするだけだが。



「……そろそろです! 皆さんっ」

「あれは……旦那!」


 ナツキの報告とほぼ同時に、スタークも声を上げる。


「……見えてきたな、塔が三つ——」


 ブランシュルーヴの真正面——。

 目標が視認できる距離まで来た。

 塔一本一本は……そこまで高くは無さそうだ。


「どうだ? リズ」


 そっと眼を閉じたリズが、両手で剣を抱き締める、


「……〝右〟ね。 〝白狼〟と〝ハデス〟は残り二つをお願い」



 ——ピクッ。



 チャンが何か考え込んだ様子で、ゆっくりとヴァンの方に眼を向ける。

  

(……ん? 何だ?)


 ——とりあえず今は、作戦に集中しよう。


「アテナ、戦力的にはどうだ?」


「うーん、中はわからないけど……外に居るのは〝左〟がだいぶ多いかしら?」


「そうか、となると——」


「〝白狼〟! 俺が左に行く。構わねぇな?」


「そう言うだろうとは思ってたよ。——了解だ、俺が中央へ行く」


 これで分担は決まった。

 あとはそれぞれ、任務を全うするだけだ。


「よし、それじゃあ皆——」


 気合いを入れようと思った矢先——。

 やはり端の方で、チャンがキョロキョロと眼を泳がせている。


「どうした、チャン? 何か心配事でもあるのか?」


 俺と眼を合わせたチャンは少し固まって、ゆっくりとリズの方に視線を動かした。


「ははは、いや……リズさん、 〝ハデス〟って——」


「あら、聞いてなかったの? ヴァンは——」


「姉御!」


 チャンの問いに答えようとしたリズに対して、珍しくヴァンの語尾が強まる。


「ははは、大体わかったよ……アルカ、あとで話がある」


 チャンの笑顔(それ)が何を指すのか——。

 俺でもわからない程に、その表情は引きつっている。


「……悪い話か?」


「五分五分ってとこ……かな?」


 ——ますますわからなくなった。

 だが……もう時間がない、とりあえずそれは後回しだ。


「……わかった、とりあえず今は忘れておく。よしスターク! 低空飛行で左から回れ! 最後にリズを降ろすぞ!」


「ガッテンでっさ! 行きますよ皆さん~!」


 高度を下げたブランシュルーヴが、大きく旋回して左の塔に接近する。

 そして誰がそれを指示するわけでもなく……気づけば輪になり、全員が向かい合う形になっていた。 


「本当にありがとう。この恩は必ず返すわ」


 リズの視線が、円の中をゆっくりと一周する。


「それは終わってから言うセリフだ、リズ」


「……そうね。でも、負ける気がしないもの」



 ——そりゃそうだ、俺の自慢の仲間たちだぞ?



「……ははっ、そうだな! 全員生きて帰るぞ! 【鬼姫】ミリー奪還戦だ!」

 読んで頂きありがとうございます。


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