60話 合流~四人目の精鋭~
「一丁前に揚げ足なんぞ取ってきやがって——」
「わははは! どうです!? 私もやれば出来るでしょうっ」
「……そうだな、あとでちょっとだけ褒めてやる。で——」
俺はエリィを一旦後回しにし、敵の方に向き直る。
長い蒼銀の前髪で、相変わらず片眼が隠れている……が、今回はこうして真正面——。
その緋眼はしっかりと、俺の眼に映っている。
(……お前か、嫌な予感の正体は——)
「いきなりとは……随分なご挨拶だな? ヴァン」
ヴァンは落ちていた双斧の片割れを拾い上げ、 『ニヤリ』と口角を釣り上げる。
「くくっ、やはり俺の言った通り……こうして相まみえることになったな、邪教の信徒よ!」
やっぱりまだ……そう思っているのか——。
「あのな、俺は輪廻教じゃ——」
「問答無用! 死してその罪を償うがいい!」
ズアアアアァッ——!
深く腰を落とした【冥王】から、急激な魔圧の上昇が伝わってくる。
「相変わらず……人の話を聞かないヤツだな!」
「フッ……これを躱せたら聞いてやる! ——いくぞ!」
——ドンッ!
双斧を携えたヴァンが、こちらに向かって一直線に飛んでくる。
「やるしか……ねぇか——!」
俺はヴァンの斬撃を迎え撃つべく、リベリオンを振り下ろす。
ゾワッ————。
「「——っ!」」
刹那——。
時が止まったかのような感覚に襲われる。
「何してるの」
「「……っ!?」」
次に気づいた時には——。
俺とヴァンの間に、リズが立っていた。
ほんの少しだけ、鞘から覗かせた黄金の刀身——。
その隙間に、俺とヴァンの双撃は音も無くピタッと止められている。
それを視認した俺たちは、すぐさま後ろに飛び退いた。
チィンッ——。
剣を鞘に納めたリズが、ゆっくりと口を開く。
「あなたに言ってるのよ——」
リズはそのまま視線を流し……ヴァンの方に身体を向ける。
「あっ、姉御……! これはだな——」
「急に走り出したと思ったら……一体どういうつもりなの?」
たじろぐヴァンをよそに、リズが淡々と続ける。
「いやっ……どれほどのもんか、実力を確かめようと——」
「それは私が済ませてあるって言った。信用できないの?」
「いっ、いや、そんなことは……」
あの【冥王】がここまで怯むとは——。
……これは夢か? 俺の見間違いじゃないよな?
どちらにしろ傑作ではある、が——。
「リズ、まさかもう一人って……ヴァンか?」
一応……一応だが、確認はさせてもらう。
というより、これは俺の祈りであり……願いだ。
これから地獄へ行くのに、これでは行く前から地獄と化してしまう。
こっちには〝天使〟に〝天女〟に……信託を司る〝巫女様〟まで居るんだ。
限りなく0に近い可能性だとしても、天が俺の声を聞き届け——。
「ええ、そうよ。まさか知り合いだったの? なら良かった」
——残念だが、俺にはまだまだ徳が足りていなかったらしい。
だがこれまた残念なことに……ヴァンなら、リズの言っていたことも納得できてしまう。
それこそ〝字持ち〟でもない限り、そう簡単にこれ以上の戦力は用意出来ないだろう。
「そうか……。だが別に知り合いってわけじゃ——」
「そうっすよ姉御! こいつは邪教の——」
「え? 輪廻教なの?」
やや鋭くなったリズの視線が、俺に突き立てられる。
「ヴァンが話を聞かないまま去っていっただけだ。逆に、俺たちは輪廻教を追っている」
リズは数秒……俺と視線を重ねた後、深い溜息を吐いた。
「ほら違うじゃない、またあなたの早とちり。輪廻教の信徒は自分からそうだと言うことはなくても、聞かれれば絶対にそれを否定しない。あなたが一番よく知ってるじゃない」
「うっ……すまねぇ」
あれだけ俺の話を聞こうとしなかったヴァンが——。
リズ相手だと、まるで母親に叱られている子供のようだな。
「私にじゃないでしょう」
ヴァンはもう一度ビクッとたじろぐと、とぼとぼと俺の方に歩いて来た。
そして俺の目の前まで来ると、両手を両膝に置き……グッと背を丸める。
「すまなかった!」
謝罪の言葉と同時に……その体勢のまま、ヴァンはしっかりと俺の眼を見た。
「いや、まぁ……わかってくれたんならいいんだが——」
「だが俺は……」
ほどなくして——。
プルプルと肩を震わせ始めたヴァンが、その上体をガバッと起こした。
「自分より強いヤツしか認めん! 作戦に参加するのは勝手だが、俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。口出しは無用だ」
そこがどうであろうと……どうせお前は、俺の話なんて聞かないだろう。
そんなことは端から期待などしていない。
「別に好きにしたら——」
「あら、それは無理ね」
——適当に流そうとした俺を、間髪入れずにリズが遮る。
ヴァンは驚きを隠せない様子で、リズの方にゆっくりと向き直った。
「な、なぜ?」
「だって、この小隊の隊長は〝白狼〟だもの」
「なっ……!」
キョロキョロと辺りを見渡したヴァンの眼は、面白いぐらいに泳いでいる。
(知り合いの姿が一人も無かったか……可哀そうなヤツめ——)
どうせリズの部隊だとでも思っていたんだろう。
まぁ別に、指揮するのは俺じゃなくてもいいんだが。
「じゃああなたが全部指揮してくれるの? 無理でしょう?」
「だ、だったら姉御が——」
チャキッ——。
リズが剣を少し持ち上げたのを見て、ヴァンはその口を噤んだ。
「——私は自由に動いた方がいい。そもそも隊長とか、性に合ってないの。あなたもそうでしょう」
「そ、そりゃそうだが……」
——リズの剣は、おおよそ目標の居場所がわかると言っていた。
それなら確かに、一人で動いた方がいいだろう。
あとはまぁ……二人とも化物みたいに強いからな、放っておいても問題はないだろう。
そもそも初めから、誰かの下に収まるような器じゃないんだ。
(……待てよ、俺が化物を指揮するって——?)
「あー、別にあれだろ? 基本的には単騎で突っ込むわけだし……各々自由でいいんだよな?」
「もちろんそうだけど……私たちは今回、あなたの部隊の力を借りている。それを踏まえた上で、その都度判断してもらって構わない」
——なるほど、考えてみればそうだな。
俺とチャンしか前線に出ないと思って、少々軽く考えていたかもしれない。
道中はどうあれ……ミリーを回収する際には、ブランシュルーヴを出すことになるだろう。
そうするとその時、あいつらが危険に晒される可能性は大いにある。
(……状況によっては、リズやヴァンを動かすことになるってわけか——)
元とはいえ、さすがにリズも【A特】を率いた隊長。
この辺は、俺もまだまだ勉強させてもらわないとな。
「——そうだな、そうさせてもらうよ。ヴァンも……悪いがそれでいいな?」
「くっ……仕方ない、今回だけだ」
——もちろんだ、全然それで構わない。
お前のような狂犬とこの先も居たんでは、俺の方が持ちそうにない。
まぁようは……こちらから願い下げということだ。
「アルカ!」
「アルカ様!」
「アルカさんっ!」
状況を察したチャンを先頭に、後ろの三人が駆け寄って来た。
「大丈夫そう……だね」
「あぁ。すまなかったな、チャン。綺麗に捌けなくて——」
「ははは、いきなりだったしね。上出来だと思うよ」
——仏、まさに仏のチャン。
だが……こと戦闘においては、俺を甘やかさないで欲しい。
皆に何かあってからじゃ遅いんだ。
次こそは、あの火球を完璧に捌いて見せる。
……いや、別にもう一度喰らいたいわけじゃないが。
「アルカさんっ! お怪我はありませんか? ……ありませんよねぇ~? なぜなら——」
「調子に乗るな」
——ビシィッ!
「のおおおおお!」
恒例のチョップ、未だ避けきれず——。
まんまと被弾した家出娘が、いつも通りに悶えている。
たがそんなことでは……やはり、まだまだ前に出すわけにはいかない。
「いいか、今後は俺かチャンの許可なしに前に出てくるんじゃない。何かあったらどうするんだ」
「ひっ、ひんっ……! 少しぐらい褒めてくれても——」
——素直にそうしてやりたい気持ちはある。
だが……ここで甘やかせば、今後絶対に取り返しのつかないことが起きる。
「俺のことは後回しでいい。まずはお前の安全が最優先だ」
「えっ……! それって——」
「当たり前だろう。お前に何かあったら、ブルースとロベルトに何て言えばいいんだ? 下手をすれば〝字持ち〟二人をまとめて相手することになりかねん」
「そっ、そっちですかぁ~……」
——お前はまず、そこをちゃんと理解する必要がある。
去り際のあいつらを見た時、俺は誓わされたんだ。
お前がどれだけしょうもないじゃじゃ馬娘だとしても……こうして預かった以上、護り切るとな。
「だがまぁ……助かった、ありがとな」
「……っ! はいっ! 今後も任せてくださいっ」
「……話聞いてたか?」
「ひんっ!」
相変わらずおバカなエリィを見て、チャンとナツキがケラケラ笑っている。
「それにしても〝これ〟……凄いわね、初めて見たわ」
(さすがの【剣聖】も、これには驚くか——)
あまり感情を表に出さない女だが——。
その代わりに言葉が素直で、こうして逆にわかりやすいところもある。
「そういえば、リズにはまだ見せてないなかったな。こいつはブランシュルーヴ……簡単にいうと空飛ぶ船だ」
「あら、そんなことが出来るの? どういう仕組みなのかしら? 大量生産できそう?」
「ははっ……商魂逞しいことだな——」
……残念だが、その辺のことは俺にはさっぱりだ。
ここはとりあえず、身体で感じてもらう方が早いだろう。
「好きに見てくれて構わないぞ、とりあえず乗ってくれ。——ほら、ヴァンもだ」
「ええ、じゃあお邪魔するわね」
「……ふんっ」
ヴァンは興味がないフリをしながら、チラチラと船を見渡している。
(……なんてわかりやすいヤツだ——)
「リズ、このまま向かっていいのか?」
「ええ、特に寄るところもないから」
「……そうか、わかった」
俺はスタークにその旨を伝え、席に着いた。
やがて動き出したブランシュルーヴに、リズもヴァンも改めて驚いている。
ヴァンに至っては大きく身を乗り出して——。
もはや、その興奮を隠す気はないようだ。
(……寄るところもない、か——)
——元【A特】の隊長がそう言うなら、それでもいいんだろう。
だが窓の外……移り行く景色を眺めながら、 『それでいいのか?』という迷いと同時に——。
『そう簡単にオルカスタを出れるはずがない』……そんな確信にも近い大きな懸念が、俺の中に渦巻いていた。
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