表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/100

59話 地獄の門の襲撃者~母なる海牢~

「オルカスタ管理区に入りまっせ!」


 操縦桿を握るスタークが、地獄の門への突入を告げる。


「……はぁ——」


「どうしたの? アル?」


「いや……またここに来ることになるとはな——」


「ふふっ、そんなに面倒な(ひと)だったの? まぁ悪い虫じゃなかったみたいだし、よかったじゃない」


 都を出てオルカスタに向かう、ブランシュルーヴの船内——。

 隣の巫女様は、まるで他人事のように無邪気に笑っている。

 どうやらあの時は意識が朦朧としていたようで、よく覚えていないらしい。


「虫……そんな可愛いもんじゃないんだぞ? あのお姫様は——」

 

「何言ってるの? だから可愛くなくていいんだって」


「お前こそ何を言ってるんだ……」


 イマイチ嚙み合わないな……。

 まぁ機嫌はいいみたいだし、余計な追及をするのはやめておこう。



「で、リズとはあれから話せたのか? ナツキ」


「いえ、繋がらないですっ。離れ過ぎているのか、お取込み中なのか……。とりあえず、言われた座標はこの辺りですっ」


 道中……ナツキはリズと一度だけ連絡が取れたようで、どうやらもう近くに居るらしい。

 その際、集合場所を決めたのだが——。


「そうか。しかし……何だってまたこんなところで——」


 リズのご希望通り、ナツキに案内されて飛んで来たはいいものの——。

 眼下には、見渡す限りの大森林が広がっている。



「——お、あの辺でいいんじゃない?」


 チャンが指差した方向を見ると……生い茂る緑の中に一点、大地が直に顔を出している場所が見える。

 あそこなら、ちょうどブランシュルーヴを降ろせそうだ。


「そうだな、とりあえずあそこで待つとしよう」


「ガッテンでっさ!」


 全員が一度着席したことを確認し、スタークは船を降ろした。


「外は魔獣が出るかもしれない、皆は中で待っててくれ。じゃあ二人とも行くぞ」


 俺は伝心役のナツキと、護衛のためにチャンを連れて外に出る。



「こんな森の中で大丈夫ですかねぇ~?」


「ははは、相手は【剣聖】だよ。気楽に待とう」


「わははは! 何かあれば私が何とかしますよっ」


 チャンの言う通りだ。

 俺たちが心配するような相手じゃない、余程の方向音痴でもない限りな。


「……で、なんでお前まで出て来てるんだ?」


「はいっ! 皆を守るためですっ」


 俺は確かに『中で待て』と言ったはずなんだが——。

 なぜか当たり前のように、家出娘が俺たちの間に座っている。

 

「……いいか、一度しか言わないからよく聞けよ? 『逆に仕事が増える』、あとはわかるな?」


「ひんっ……そんな、殺生なぁ~……」


(こいつ……本当にスタークに似てきたな——)


 別にお前の瞳が多少潤んだところで、俺はごまかされない。

 お前にだけは、何度も煮え湯を飲まされてきているからな。


(……相手をするのも面倒だ、放っておこう。それより——)


「また出掛けてたりしないだろうな? アイネは」


「ん? どうしてそんなことを? 逢いたくないんじゃないの?」


 ……もちろん、顔を合わせないで済むのならそれに越したことはない。

 だが——。


「理由は何であれ、国境を(また)ぐんだ。一応ここはアイネが仕切っているわけだし……あまり勝手をするわけにもいかないだろう」


「なるほどね。テンペスト(ウチ)は独立遊撃隊という(くく)りだから、大丈夫だとは思うけど……。まぁアルカがそうしたいなら、するといいよ。それに管理区に入った時点でもう、バレてるだろうしね」


「だよな……はぁ、今から憂鬱——」


「ん……何か近くに居ます……! 物凄い魔力反応です!」



「「——っ!」」



 念のためナツキに展開させていた魔力感知網(レーダー)に、何か引っかかったようだ。

 辺りを見渡すが……木々や風の動きには、これといって変化は見られない。


(しかしナツキのこの焦りよう……一応警戒しておいた方が良さそうだな——)


 隣では、いち早く臨戦態勢になった家出娘が既に弓を構えている。


「エリィ——」


「わははは! わかってますよ! 私の出番ですねっ」


 何の疑いもなく前を見据えるエリィは、相変わらず何もわかっていない。

 だがそれをわからせるまで、俺もその横顔から眼を逸らすつもりはない。


「あぁそうだ。お前は船に戻って、皆に外に出ないように伝えろ」


 ガバッとこちらに振り向いた家出娘は、まるで捨てられた子犬のような眼をしている。


「なっ……! 私も戦いま——」


「大事な仕事だ、頼む」


 俺が真剣にその蒼眼を射抜くと——。

 エリィの表情には、段々と活力が戻って来た。


「大事な……わっかりましたぁ! 皆さん聞いてくださーい!」


 やっとのことで言うことを聞いたエリィが、船の方へ走って行く。


「ははは、さすがアルカ。乗せるのが上手いね、大事な仕事だなんて」


 別にそんなつもりはなかったが……なるほどそういうことか。

 今後あのじゃじゃ馬は、このやり方で対処しよう。



「さて……どこから来るかな——」


 ——現状では、魔獣が向ける殺気のようなものが感じられない。


(別に俺たちに用があるわけじゃない……? それならそれでいいんだが——)


「はっ! これは……〝赤〟です! 凄い……アルカ様並みです——!」


 新たに何かを感じ取ったらしいナツキから、追加の報告が入る。


(火属性……俺並みで、見当たらない——?)


 ——嫌な予感がする。


「まさか——! この間の黒竜(アレ)か!?」


 反射的に上空を見上げる……が、そこにも魔獣の(たぐい)は見当たらない。


「いいえ、波長的に……多分人間です! 二時の方向——こっちに来ます!」



 その条件で……人だと——?



「……チャン! 船を守れ! 俺が出る! 〝リベリオン〟——!」



 ——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。



「わかった! 《大地円蓋(アースドーム)》!」


 俺が一歩踏み出したのと同時に、チャンが円蓋で船を囲む。


(二時の方向——!)


 俺はブランシュルーヴを背にし、リベリオンを左腰に据える。



 バキッ……バキバキバキッ……。



 ナツキに言われた通りの方角から——。

 木々をなぎ倒すような音が、段々と近づいて来る。


(何だ……? 何が来る——!)


 そしてもう一段、腰を落とした瞬間——。



 ゴオオオオォォォォッ!



 巨大な火球が、森を突き向けてこちらに向かって飛んで来た。


「火球……っ! 【抜刀一刀流(ソニックブレイド)】——《風切(かざきり)》!」



 ブワァン————ッ!



 刹那一閃。

 リベリオンから放たれた紫光の斬撃が、目の前の火球を真っ二つに両断し——。

 ゆっくりと割れながら、俺の後方に逸れていく。


(速度は殺せたか——!)


 俺は咄嗟(とっさ)に、後ろに振り向く。


「チャン——!」


「アルカ! 前!」


「——っ!?」


 焦って向き直した先では……火球が割れて開けた向こう側から、燃え盛る何かが一直線に飛んでくる。


「二段構えか……! ——うおおおおおおぉぉぉ!」



 ガキイイィィィンッ!



 縦一閃に振り下ろしたリベリオンと、飛んで来たそれが激しくぶつかる。

 が——。


(重い……っ! 押し戻され——)


 

 カッ——。



 瞬間、それは眩く発光し——。


(……まさか——!)



 ドオオオオオォォォンッッッ!



 凄まじい爆発音が、辺り一面に響き渡る。



「アルカ!」

「アルカ様っ!」

「アルカさんっ!」



「——大丈夫だ!」


 間一髪……横に飛び退いたことで、俺は爆発の直撃を免れる。


「くそっ……一体どこから——!」


「アルカ! 上だ!」


 見上げた先……天高く飛び上がり、武器を振りかぶる敵の姿が見える。

 ——が、上手く太陽に被さっていて、その(シルエット)しか視認できない。


(くっ……間に合わな——)



『《母なる海牢(オーシャンジェイル)》!』



 バシャァッ!



「……っ!?」


 ……突如、俺の視界が蒼に染まり——。

 爆炎を(まと)う敵の斬撃が、眼前で停止する。


(……はっ! 今だ!)


「——《風切》!」



 ブワァン————ッ!



「ぐわぁっ!」


 俺の居合を受け、敵は後方に吹き飛んだ。

 不安定な体勢からではあったが、相手と距離を取るには充分だった。


 俺は改めて、己の全身を見渡す。

 

(球状に囲まれている……そしてこの蒼さ——)




 ——リズと戦った時、ナツキやおつうを囲むように展開していた水魔法。


 昨日、水で出来ているはずなのに転がった水晶——。




『この娘は必ず、お役に立ちますよ』




(……ブルース——)


「……船に居ろって言っただろう」


「いいえっ! 皆に伝えろと言われただけですっ」



 振り返った先で——。

 いつの間にか戻って来ていたエリィが、両手を前に突き出していた。

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ