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【S級部隊 14話】ターニャ:魔女の目論見~燃ゆる朝焼けの、その先に~

「それで? 今から〝字持ち(ネームド)〟を全員殺して回ればいいのか?」


(……まったく、どいつもこいつも——)


 どうして男って、皆こうなのかしら?

 ちょっとは頭を使ってみて欲しいわ。

 ——まぁその頭が、全部筋肉にいってしまっているんでしょうけど。


「いいえ……半分正解で、半分不正解。確かにあなたには、 〝字持ち〟を落してもらう。でもそれは〝今〟じゃなくて、次のS級会合(S6)で。加えてそれは〝全員〟でもない。——その後は一旦離脱して、改めて私たちは宣戦布告する」


「離脱……そこの〝竜っころ〟を使ってか?」


 シヴァは握り拳に親指を立て、自身の後方に居るエルドレッドに向ける。


(——っ! ……良かった、聞こえてないみたいね——)


 触れてこないと思ったらここに来て……!

 せっかく追い風が吹いているの、これ以上余計なことはしないでちょうだい。


「やめておきなさい、シヴァ。いくらあなたでもタダじゃ済まないわよ。もちろんこの村も——」


「俺がそれをさせると思うのか?」


 あのエルドレッドを前にしても、その返しには一切の(よど)みも無い。

 相変わらず隠れた両眼……その視線の行き先は(うかが)えなくとも、シヴァの自信は窺える。


(……わかってる、そう簡単にそれをさせない力があることも——)


 ——だからこそ、私もこうしてずっと言葉を選んでる。


「しかし解せんな……なぜ全員落とさない? まとめて殺してしまった方が、後々楽だろう」


 ……さすがに舐め過ぎね。

 まぁ、できるかどうかは置いておいて——。


「それじゃその後、戦争にすらならないじゃない。()()()調()()は必要でしょう?」


 万が一〝字持ち〟が全滅したとなれば、アーレウス(むこう)は無条件で降伏するしかなくなる。

 だから何人かは残して、その戦意を保たせなくてはならない——。


「〝大戦〟の誘発……チッ、面倒なことだな。——じゃあわざわざ〝字持ち〟が集まる会合(S6)を狙うのは何故だ? 〝字持ち〟の数を調整するだけなら、やはり各個撃破の方が確実だろう?」


 ……そうね、それだけならそう。

 でもね、それだけじゃないの。

 あなたみたいな脳筋には、考えもつかないでしょうけど。


「そんなことをしたら、会合(S6)を前に国中が警戒態勢に入ってしまうでしょう……。そうなったら、()れるはずのものも()れなくなる——」


()る……なるほど。 〝字宝玉〟——レーヴァ神殿に入ることが目的か。なら最初からそう言えばいい、いちいち回りくどいぞ」


 ええ、私もそう思うわ。

 でもごめんなさいね、やっぱり不安で……あなたがどれだけ馬鹿なのか、ちょっと測らせてもらったの。


 ふふふ、でも良かったわね。

 アイオーン(ウチ)の2トップに比べたら、まだマシな頭みたい。


「ええ。できればついでに……宝玉を奪うか、最悪壊しておきたいの。計画通りに当代の〝字持ち〟を落したとしても、すぐに()()()()を立てられると厄介だから」


 レーヴァ神殿……ひいては〝戦神の間〟に入るなんて、会合(S6)でもなければまず無理だもの。


 もちろん、ミクスが居ない時を狙って強襲することも考えた。

 けどそれだと……今度は逆に他の〝字持ち〟が警戒態勢に入ってしまい、簡単に落とせなくなる可能性が出てくる。


 何度も繰り返した脳内での模擬決行(シュミレーション)の結果……やはり、同時に仕掛けるのが一番成功率が高かった。

 これならどう転んだとしても、目標の()()()()は必ず達成する自信がある。


「周到なことだ……。ネチネチしていて、実に貴様らしい」


「あなたこそ……相変わらず脳みそまで筋肉で出来ているみたいね」



 お互い悪態をついたところで、ひと時の静寂が流れる。



「……はぁ、いちいちビビり過ぎなんだ貴様は。そもそも、現状の〝字持ち〟が大したことないんだ。ぽっと出が何人か出てこ来たところで、それが何になる?」


 確かに、この男の言う通り——。

〝字持ち〟とはいえ成り立て程度じゃ、大した脅威には成り得ない……とは思う。

 でも、どんなヤツが転がっているかわからないのもまた事実。

 ちょうど支部で話に出た【剣聖】や【冥王】……それに会合(S6)での【白狼】といったような、油断ならない猛者も居るかもしれない——。


「——まぁいい。指定はあるのか? 俺は()()()()とミクス以外の顔はわからんぞ」


(指定……誰を落しておくか——)


 ゲイルとユージーンに加えて、今はエルドレッドも居る。

 それにこっちが用意できる頭数……そこから想定するに——。


「そうね……とりあえず、当日は一目で()()()()()()しておくわ。その中から……まぁ誰でも構わない、()()()()落としてちょうだい」


 今……仮に容姿の特徴を説明してみせたところで——。

 十中八九、この男には何の意味も成さないでしょう。

 どうせ面倒なことは抜きにして、向かって来た人間を片っ端から殺していくに違いない。


(なら……どうにかしてこちらで盤面を作った方が、よっぽど確実よね——)


「じゃあ殺り易そうなのからでいいんだな? たやすいことだ」 


 ……そうね、流れは作ってあげるから。

 脳筋は脳筋らしく、 〝その枠〟の中で暴れていなさいな。


(ミクスは……一旦ゲイルに抑えさせるから大丈夫として。あとはどうするかしら——?)


 ……やっぱり癪だけど、あの馬鹿(ユージーン)になんとか協力してもらうしか無さそうね。

 でもまぁこれで——。


「ふふふ、頼りになるわ。——じゃあ準備が出来たら、一週間以内に第六支部に来てちょうだい。作戦の詳細はそこで説明する。いいこと? 今回だけは何があっても必ず——」


「わかっている。俺と貴様の最初で最後の約束だ……今回だけは守ってやる」


 私が言い切る前に(さえぎ)ったシヴァが、 『もう用は済んだだろう』と言わんばかりに背を向ける。

 そして少し押し黙ったあと……その向きを変えぬまま、もう一度口を開いた。


「あと……これだけは勘違いするな。本来俺の仕事は〝邪器(エヴィル)の破壊〟であって、 〝人殺し〟はお前の——」


「わかってる。——〝私の仕事〟よ」


「……ならいい」


 消え入るような声で呟いたシヴァが、ゆっくりと歩き出す。

 そしてそれ以降振り返ることなく……その姿は、村の奥へと消えていった。


 それを確認した私は、待たせていたエルドレッドの元に歩き出す。



『——待たせたわね、エルドレッド。アイオーンまで送ってくれるかしら?』


『構わんが……あの男、妙だな。この我がその気配に全く気づけなかった。まさか——』


『さすがに長生きね。()()()()()()よ——』


 私はエルドレッドの背に飛び乗り、横になる。


『次から次へと……貴様と居ると、興味が尽きぬな』


『ふふふ。これからもっと、面白いことが起きるわよ——』


『グワハハハ! 楽しみにしておこう!』



 ——バサァッ。



 相変わらず機嫌の良さそうなエルドレッドが、勢いよくその翼を広げる。



 ——ブワァッ!



 そしてそのまま、瞬く間に空へと飛び上がった。


「きゃっ!」


 あまりに急な上昇に、私は思わず眼を瞑る。


『グワハハハ! 飛ばすぞ! 落ちるなよ!』


 一瞬で加速したエルドレッドのおかげで、私は本当に振り落とされそうになる。


『もう! 危ないじゃな……ん——』



 やっとのことで開けた私の眼に、眩い光が差し込んだ。



『なんだ? どうかしたか?』


『……いいえ、ふふふ——』



 ——古来から受け継がれてきた、輪廻転生の悲願。

 その最終章の幕開けを告げるように……遠くの空に、鮮やかな朝焼けが燃えていた。

 読んで頂きありがとうございます。


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