【S級部隊 13話】ターニャ:ネメシス法王令~参戦、最高戦力の破壊卿~
——バサァッ! バサァッ!
ハルメニアの深い夜に、エルドレッドの翼の音が響き渡る。
『あそこでいいのか? 小娘』
『ええ、中央に広場があるでしょう? あの辺に降ろしてちょうだい』
アーレウスとハルメニア……信徒たちがどれだけ探しても、アイツは見つからなかった。
(となると……ここしかないわよね——)
ペルデール村——。
ハルメニアの中央に位置するこの村は、他国の国境線とはかけ離れた場所にある。
つまり、戦争の類とは全く無縁の平和な村だった。
『こんなところに何の用なんだ? 人間の気配など感じぬぞ』
『……そうね。誰も住んではいないもの——』
けど〝ある事件〟をきっかけに……〝たった一人の男〟を残し、村人は全滅することになる——。
今では〝悪魔に呪われた村〟とされ、近づく者は誰も居ない。
——バサァッ。
広場に降り立ったエルドレッドが、その大きな背を丸める。
『ありがとう、なるべく早く済ませるから』
私は地面に飛び降り、辺りを見渡す。
「変わらないわね……ここも——」
人の気配はもちろん無く……周囲は建物の残骸と、無造作に生え散らかした草木にまみれている。
(さて……何処に居るのかしら——?)
私は大きく息を吸い込む。
「居るんでしょう、シヴァ! 時間は取らせないから出て来なさい!」
……誰かが現れる様子はおろか、物音の一つも無く——。
私の声だけが、真っ暗な廃村に響き渡る。
(……はぁ、本当に面倒な男——)
このまま呼びかけたぐらいじゃ、出てくる気はないんでしょうね。
けど……私もわざわざハルメニアまで来た以上、手ぶらで帰るわけにはいかないの。
(エルドレッドが居るから今だからこそ……強硬手段が取れる——)
私は軽く右手を前に出し、掌を開いた。
——ボワッ!
そのまま魔力を集中し、小さな火球を発現させる。
「私も暇じゃないの! さっさと出て来ないと手あたり次第焼き払うわ——」
——ゾクッ。
(……っ! 何処——っ!?)
——息が詰まるほどの殺気が、私の心臓を鷲掴みにする。
『ほう……! ——小娘、殺していいのか?』
異変に気付いたエルドレッドが、ゆっくりとその巨躯を起こした。
『待ってまだっ! 大丈夫だから——』
——ザッ!
「——っ!?」
刹那——。
私の身体は、背後からきつく拘束された。
頭の先からつま先まで……この右手以外、全く動かせる気がしない。
「三秒で火を消せ。三、二——」
「わかった! 消す、消すわ!」
私が火球を消すと同時に、その拘束は解かれた。
慌てて振り返った私の視界に、お目当ての男が映し出される。
「何をしに来た? 魔女め。まさか死にたいわけでもあるまい?」
「くっ……! シヴァ——」
——この闇夜に溶け込むかのような漆黒の前髪が、シヴァの両眼をすっぽりと覆い隠す。
もはやその視線が、私に向いているのかさえもわからない。
「そんなわけないでしょう! いつまで経ってもあなたと連絡が取れないから——」
「俺がどう動こうと俺の自由だ。貴様にとやかく言われる筋合いはない」
自分で聞いておいて遮るなんて……最初から聞く気なんてないんじゃない。
(そんなに他人に興味がないのなら……まずはあなたの話から聞いてあげるわ——)
「その言い草だと——当然、 〝邪器〟は見つかったんでしょうね?」
「……ここ最近は、常に王城の方から反応を感じる。——十中八九、マグニスが持っている」
——場所が分かったから何? 『一応仕事はしている』とでも言いたいの?
大体からしてあなたの場合……そこで止まっているのなら、何もしていないのと同じじゃない。
(まぁ……相手が相手なのも理解できるけど——)
ハルメニア軍国【覇王】、マグニス・ドラクロア——。
〝王〟と呼ばれる人間は、当然……世界各地に居る。
けどその何処を見渡しても、その二つ名を冠する者はない。
十数年前……この一帯を統べていた大国〝アグニカ帝国〟に対し、小国〝ハルメニア公国〟が反旗を翻した。
[アグニカ軍二十万]対[ハルメニア軍三万]——。
当然……誰もが、アグニカの勝利を信じて疑わなかった。
だが開戦からたった三日後……アグニカは制圧され、その歴史に終止符を打つ。
その際ハルメニア軍を率いていた将軍が、 【闇焔】マグニス・ドラクロア——。
(まさに……その身一つで下克上を成し遂げてみせた、正真正銘の圧倒的武闘派。もしミクスとやらせたら、どっちが強いのかしら——?)
「——あら、わかっているのに動かないなんて。あなたでも怖いものがあるのね」
「知ったふうな口を聞くな。ハルメニアは〝三字制〟だ、 〝十字制〟などというちょこまかしいアーレウスとは、そもそも訳が違う」
——残念だけど、これはネメシス様にも言われている。
各大国が保有する〝字宝玉〟は、実はまだわかっていないことが多い。
それは〝字〟の拝命人数然り——。
つまり、 『〝字持ち〟の上限は十人ではない』という可能性だったりね。
(そこは今、ネメシス様が解析してくださっている。現状でわかっていることと言えば——)
大元である宝玉……それに宿っているとされる力——。
その総量は、例外なくどれも同じだということ。
即ち——。
(その宝玉から輩出される〝字持ち〟が多ければ多いほど、その恩恵は小さくなっていく……ということよね——)
恩恵を十人で割っているアーレウスですら、ミクスを始めとする化物揃い——。
なら三人しか居ないハルメニアの〝字持ち〟は、一体どれだけ強いっていうの?
……まぁあなたがそれだけ警戒するのだから、相当なものなんでしょうけど。
(……そろそろいいかしらね——)
「そう、あなたも大変だったのね……。それより、 〝約束〟は覚えているんでしょうね? ネメシス様仲介のもとに交わした——」
「うるさい、わかっている。いちいちネメシスの名を出すな……虫唾が走る——」
——シヴァは出逢った時から、他人の言うことを聞くような人間ではなかった。
度重なる命令違反、職務放棄に過剰破壊……実際私とも、数えきれないほどぶつかった。
でもある時……そんな私たちを見かねたネメシス様が、間に入ってくれた。
「なら良かった。じゃあ早速だけど、それを果たしてもらうわ」
——構わず反発するシヴァに折り合いをつけるために、ネメシス様はある提案を持ち出した。
〝その内容〟が自身に優位なものであると同時に……ターニャには不可能だと判断したシヴァは、まんまとその提案を飲んだ。
それが——。
「ほう……貴様こそちゃんと条件を覚えているのか? いざ『足りませんでした』では済まさんぞ?」
——お互い、輪廻教の悲願達成の為に動くその道中……〝たった一度だけ〟協力を要請することができ、お互いがそれを〝無条件で承諾する〟という法王令。
(あなたの要求は〝邪器発見時の即時報告〟……そして私の要求は——)
「アーレウスは本部が落とされた……と言えばわかるかしら?」
「……! まさか貴様——!」
私の思惑に気づいたシヴァが、珍しく声を荒げる。
「ええ……そのまさかよ! 〝総兵力二十万以上の大戦の誘発に成功した際の輪廻教最高戦力【破壊卿】の参戦〟……今がその時よ——!」
(……ネメシス様————)
『泣かないで、ターニャ。シヴァはあんなふうに言うけどね……僕にはわかるんだ。君は誰よりも優秀だ。大戦は通過点でしかない、必ずやり遂げられる。大丈夫だから、僕を信じて——』
……やりました、やりましたわ! ネメシス様!
あなたの信じてくださったターニャが……ついに、ついに!
この男の鼻を明かしましたわ! 殴って壊して……しぶといだけしか取り柄の無いこの男の鼻を!
あれだけ偉そうにしていたくせに! 私に先を越されて! これから私に使われる!
悔しいんでしょう? 出来るわけないと言っていたものね!?
ハルメニア司教【破壊卿】ともあろう男が……あぁ、なんて惨めなの——。
(そしてなんて……気持ちいい——!)
「……外道め——」
……一体どの口が言っているのかしら?
あなたの方がよっぽど残酷だし、容赦の一つもないじゃない——。
(それにここまで来たら……もう手段は選ばない——!)
「何とでも言いなさいな。約束はきっちり守ってもらうわよ」
——今まで散々振り回してくれて、どうもありがとう。
お礼と言っちゃ何だけど、最高の舞台を用意してあげるわね。
「ふふふ……考えただけでゾクゾクしちゃう。 〝十字制〟ぐらいちょろいものなんでしょう? ——お願いだから、 『口だけでした』なんてことはやめてちょうだいね?」
これ以上踊らないでね、シヴァ。
大事な場面で吹き出してしまっては、困るから。
「誰に物を言っている? 当然だ」
「ふふふ、冗談よ。 〝アイネの件〟もある——。あなたが〝馬鹿みたいに強い〟ことだけは、知っているもの」
なんにせよ——。
これで、重要な駒はすべて揃った。
(あとは最後の仕上げに入るだけ……。待っててください、ネメシス様——)
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