表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/100

55話 商談成立~仁王、掌を返して~

「リズさん! そういうことならお断りですっ」

「そうよ! 【剣聖】とか名乗ってる割に色仕掛けが武器なわけ!?」


 俺の両脇から前に出てきた仁王が、揃ってリズに攻め掛かる。


「……? 何を言ってるの——?」


 リズは『わけがわからない』といった表情で、首を傾げている。


 ——全く同感だ。

 俺にも何が何だか、さっぱりわからない。


 そしてアテナ……【剣聖】はきっと、リズが好き好んで名乗っているわけじゃない。

 俺だって自分から〝白狼〟などと名乗り始めたわけじゃないし……現に一度も、本人(リズ)の口からその単語(ワード)は出てきていない。

 通り名(そういうの)は本人の意志と関係なく、周りの人間が勝手につけて広まっていくんだ。


「……何怒ってるんだ? お前ら——」



「アルは黙ってて! これ以上の()()()()はごめんだわ!」

「そうです! これは私たちの問題ですっ」



 ——ギッ!



 揃って振り向いた仁王の鋭い視線(やいば)が、なぜかユリに突きつけられる。


「えっ……ひゃんっ——!」


 どうやらそれをまともに喰らってしまったらしく——。

 ユリは逃げるように反対を向き、両手で顔を覆った。


「一体何をやってるんだお前らは? ……まぁいい。リズ、全部ってのは——」



 スッ——。



 話を進めようとした俺の視界を、チャンの掌が覆い尽くす。


「ははは。アルカが聞くとややこしくなるから、俺が聞くよ。リズさん、全部っていうのは?」


 この混沌とした世界を救うかの如く……仏のチャンが舞い降りる。

 ——それにより、リズは傾げていた首を縦に戻した。


「私のやってる店。その全部をあげてもいい」


「店って……あの案内所や飲食店のことか?」


「あれだけじゃない。別で服屋、宝石屋、武器屋に防具屋……他にも色々やってる」



「ほっ、宝石屋!?」

「お洋服っ……!」

「わははは! ちょうど新しい弓が欲しいと思っていたところですっ」

「くかー」



 リズの提示した追加報酬に、女性陣が一斉に喰いついた。

 仁王に至っては、先ほどまでの怒りのような何かは綺麗さっぱり消え失せ——。

 期待のような喜びのような……そんな何かを含んだ、妖しい笑みを浮かべている。


(こいつら……。店をもらったからって、商品が自分のものになるわけじゃないんだぞ——)


 勘違いも甚だしいが……どうやら興奮が抑えきれないらしいな。

 ——まぁいい、こいつらは束の間の幸せに浸らせておくとして……とりあえず話を進めよう。


「凄いな。資産家の娘か何かなのか? リズは」


「いいえ、私の趣味」


 ……趣味で広げられるような規模じゃない。

 どうやらリズには、経営の才能があるらしい。



「でも……危険過ぎませんか? 敵の本陣に、しかも少人数で突っ込むなんて——」


 後ろの方から、俺の心の声を代弁する優しい声が聞こえた。


 振り返った先では、未だ両手で顔を覆ったまま——。

 その指の隙間から……仁王の様子をチラチラと横目で伺う、なぜか肩身の狭そうなユリの姿があった。


(……一体何をしたんだお前は? だが——)


 さすがだな、ユリ。

 一瞬お前のことを、天女か何かかと錯覚してしまった——。

 酒の席でのことは忘れてやる、だからそのまま汚れず……どうかそうしてずっと、俺たちの癒しで居てくれ。



「アル、困っている人は助けなきゃダメじゃない……そうでしょう!?」

「あはっ。アルカ様のナツキが、全力でサポートしますねっ」

「アルカさん! ついに私の初陣ですね! わはははは」

「旦那! オイラ……自分の店を持つのが夢だったんでっさ!」

「くかー」



(こ、こいつら……!)


 なんて現金なヤツらだ。

 アテナもナツキも、さっきまであんなに心配してくれていたのに——。

 そもそもエリィにおいては、最初から全く危機感を感じてない。

 そしてスターク……そんな風に店を持ったところで潰すのがオチだ、やめておけ。


(……はぁ、どういうもこいつも——)


 ふと眼を逸らしたその先で——。

 これから一緒に地獄へ旅行する予定の、聖騎士(パラディン)と眼が合った。


「俺たちって……何だと思われてるんだ?」


「ははは……、ね——」


 

 だが——。

 こんな報酬でもなければ、きっとこいつらは納得しなかっただろう。

 いくら【剣聖】が一緒とはいえ、小隊で敵の基地に乗り込むなど……誰がどう見ても危険過ぎる任務だ。


(店の話はさておき、どちらにしろ隊舎は必要……仕方ない、こいつらの気が変わらないうちに確定させるか——)


「……わかった。だが最初に伝えた通り、テンペスト(ウチ)からは俺とチャンしか出せないぞ。まさか三人で行くとは言わないよな?」


 さすがに【剣聖】……それなりの面子を手配できるはずだ。


「ええ、もう一人当てがある。四人で行く」


 よし、ちゃんと当てがあるんだな。

 それなら安心——。


「……いや待て。——あまり変わらなくないか?」


 三人が四人に増えただけだ、誰が聞いてもそう思うだろう。

 だが対面のリズはきょとんとした顔で、 『なにが?』と言わんばかりに首を傾げている。


「大丈夫だと思う。人格はちょっとあれだけど……戦力としてはこれ以上は居ない。そもそも、探してたのは同格以上の()()()がある一名だから。このレベルのチャンさん(パラディン)が居たのは、正直ラッキーだった」


「ははは~! そぉ~?」


 チャンはポリポリと頭を掻きながら、照れたように笑っている。

 まぁ他でもないあの【剣聖】に認められたんだ、そりゃ嬉しくもなるだろう。


(しかし殲滅力……あの万年【捨て駒(しんがり)】だったこの俺が——)

 

 どこまで力になれるかはわからないが——。

 チャンもまんざらでもないみたいだし、頑張ってみるか。

 もう一人の〝ちょっとあれ〟が少し引っ掛かるが……まぁあのリズがそこまで言うんだ、相当強いのは間違いないだろう。


「【剣聖】が言うんだ、信じるとしよう。——で、作戦は?」


「今回向かうトレンタ要塞は、三つの塔に分かれてる。それを私と〝白狼〟とそのもう一人で、それぞれ一つずつ落とす。チャンさんは中央地点で囮になってもらい、ミリーを回収したら撤収してもらう」


 一人塔一つのノルマ……なるほど、だから三人必要って考えだったのか。


「ちなみに……そこの戦力は?」


「多分6000ぐらい。三人なら余裕でしょう?」


「……」


 剣の腕も去ることながら、この女は色々とぶっ飛び過ぎている。

 一体何を以って〝余裕〟としているんだ?


(……そうだ、さすがにここまで来たらこいつらだって不安になったはず——!)


 そう思って後ろを振り向いた俺の視界に——。



「アルなら大丈夫! だって最強だもんっ」

「ズバッとやっちゃいましょう! アルカ様っ」

「わはははは! 私の剛弓が火を噴きますよ!」



 ——揃って親指を立ててウインクする、三人の悪女が飛び込んできた。


(色々と言いたいことはあるが……とりあえず、エリィ(おまえ)の弓から吹くとしたら水だろう——)


「……チャン——」


 俺の視線は自然と、隣の旅のお供(パラディン)へと向かっていた。


「ははは……まぁ()()の場合、ウチには撤退手段(ブランシュルーヴ)がある。その〝もう一人〟がわからないけど……リズさんも居るしね。この間みたいに〝字持ち(ネームド)〟でも出てこない限りは——」


「それ以上言うな、本当に出てくる気がする」


 不吉なことを口走ろうとしたチャンを、言い切る前に(さえぎ)ってやった。


(別に〝字持ち〟が怖いわけじゃない、だが——)


 ただでさえこの難易度……これ以上、余計な障害が増えるのはごめんだ。


「ははは、それでどうするの? 今から行くのかな?」


 そんな俺を見て優しく微笑んだチャンが、リズに問いかける。


「数日欲しい。私は今からその〝もう一人〟を迎えに行ってくる。現地近くで落ち合いましょう。一人、私と伝心を繋げて欲しい」


「はいっ、私ですっ! 繋げますねっ」


 ナツキは明るく返事をすると、両手を合わせて瞳を閉じた。

 どうやら伝心を繋げているようだ。


「一緒に行った方が早いんじゃないか? 足ならあるぞ?」


「ちょっと癖のある人だから……多分、私が一人で行った方がいい」


(癖……ますます引っ掛かるな——)


 でもまぁ今回の作戦は、それぞれ分散しての単騎殲滅戦——。

 特に連携もないだろうし……気にするだけ無駄か。


「そうか、なら先に行って待っている。どこへ向かえばいい?」


「そうね……とりあえずオルカスタ本部近くに居てくれれば」


「オルカスタだな、りょうか……本気(マジ)でか?」


 ……嘘だよな、リズ?


 間違いだと言ってくれ——。

 

「ん……? 本気(マジ)よ? 何か問題あるの?」


(……ダメか——)


「いや……出来ることならもう行きたくはなかったんだが——」


「気が合うのね、()()よ。——でも、今回はお願い」


 誰も居ない方向に顔を向けたリズは、まるで視えない何かを睨みつけるようにその金眼を細めた。


(……ん? リズもアルカスタ(あそこ)で何かあったのか——?)


 だがまぁ……どうせ聞いたところで、目的地が変わるわけでもなし——。


「……わかった、商談成立だ」


 俺が右手を差し出すと、リズはそれをギュッと握り返した。


「じゃあ、オルカスタで」


「あぁ、必ず行く」



 最後の確認を済ませたリズは、転送陣を発動させ——。

 俺たちに軽く手を振りながら、夜の闇に消えていった。

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ